カオターク・ミーティング
さて、今回も再録である。
一度、FC会誌版「誤訳天国」の1回として掲載され、後にサイト〈無限架橋〉に収録したもの。前回の記事に書いた“実質打ち切り”が決定された会議の顛末……なのかなァ?(笑)
かなり悪ノリして訳したものだが、ほぼ当時のままである。ご笑覧を。
ペリー・ローダン工房から (6)
『カオターク・ミーティング』
前文:
1987年12月の14・15日、ラシュタットに於いてペリー・ローダン作家会議が開かれた。会合の案件は1400話以降の展開継続であった。この協議については、新編集者フローリアン・F・マルチン博士による公式議事録が存在する。
(公式前文の終了)
この議事録は、その爆発力と内容に基づき、「宇宙最高機密」に分類された。この書類が、通常の死すべき読者には近づくことかなわぬものであることは一目瞭然である。
ともあれ――ひとりのエセ不死者(PRSから脱走した、シッテイルノニ・シランフリ(*1)という名のミュータント工作員である)が、この議事録のコピーをせしめ、高次勢力へと引きわたすことに成功した。(報酬として、シッテイルノニ・シランフリは細胞活性装置の無償完全整備のサービスを受けた)
高次勢力は独特の方法論で書類を解釈し、修正した。このテキストが、奇妙な紆余曲折の末、ドリフェル・カプセル《転覆丸》(*2)やPRSのキャラ数名、幾人かの読者、そしてシッテイルノニ・シランフリの協力によって、ほぼ完全な形でPR-レポートの編者の手に渡った。ここに、かの会合の信頼しうる報告を送る。「カオターク・ミーティング」の。
出席者:まずはふたりのコスモクラート〈鼠のクラーン〉(*3)と〈ちび狼ヴォルフ〉(*4)が挙げられる。そこに老カオターク〈真っ暗クラールトン〉(*5)と〈手榴弾ヘルビー〉(*6)が加わった。元気な後続組には、白髪頭のカオターク〈仏のイコヴ=スキー〉(*7)、〈独逸のエーヴェルス〉(*8)、〈大爆笑ホーホー〉(*9)、それから〈喉声ヴォルケー〉(*10)がコロコロとやって来た。ついに若きカオターク〈牧場の希望ボビー〉(*11)も意を決して輪に加わった。しんがり(毎度のことヨ)に現われたのは、小柄なナックに引っぱられたカオターク〈危ないパイプ〉(*12)だった。
唯一の女性カオターク(カルタニン・タッチを持つ〈誠実マリー=アンネ〉(*13))は、予期される対決における生存のチャンスを高めるため、会合には欠席した。
さらに、ノーマルなテラナーも出席していた。その名はジョニー・ブルック(*14)(そのノーマル度は、彼の根絶したアルコールに基づき、克明に証明された)。その隣には、高次勢力に「マルチパン」(*15)と呼ばれる、前述のマルチン博士(トシンの印について博士号を取得した)。エスエフリーク(SFファン、SFフリークを意味する新ドイツ語)のドレンク(*16)にも触れておかねばならない。それから、そのプシオン能力でテラ製ミネラル・ウォーターと灰皿とを配慮してくれた心優しきクリスティーネ嬢にも。
議題1は、「PRSにもっとパワーを!」のモットーのもと進められた。そこにシ・キトゥが(出版社長に変装して)現われ、新しい編集用エネルギー・ビームを紹介した。コスモクラートとカオターク一同はそれを試用してみて、賛同するようにうなずいた。編集者ホーホーがカオターク〈大爆笑ホーホー〉となりはてた後に、彼らはようやく新しい編集を得たのだった。
議題2はカオタークたちの大口論であった。争点はPRSのナカミの創造。6名のカオタークは互いに批判と発議の限りを尽くして牽制しあった。彼らは皆、その名に遜色のないことを示した。あたりはたちまち欲するがままの混沌に包まれたのだ。老カオターク〈手榴弾ヘルビー〉は多機能可変式高エネルギー砲(*17)(《TS-コルドバ》から拝借してきた)を掲げ、コスモクラートにむけて発砲した。この無節操な混乱のなかで命中弾があったことは驚くほかない。若きカオターク〈牧場の希望ボビー〉だけが、沈黙の青い防御バリアを張りめぐらしていた。
足して、引いて、導き出された結論:
- 当然のことながら、コスモクラートとカオタークに意見の一致はない。
- しかしながら、続けるべきか(とにもかくにも、これが最初のポイントである)という問題については、彼らは一致した。続けるべきだ。
議題3は、「でも、どうやって?」だった。
定評のある流儀でこの問題を変換すると、「どうやらないで?」となる。
(シッテイルノニ・シランフリの注釈:もしどうしたいのかわからない時でも、どうしたくないかがわかれば、りっぱに収益はあがるものだ)
カオタークたちは次のことを強く要求した。
――超知性体および超知性体級の存在(これはシ・キトゥが退室してから増補された)、それから把握しがたい「強大者」の削減
――夢、幻の類による霊感で謎めかされた起源の削減
――展開の単純化(なにせ一部のカオタークにさえ見通せないというのがその言い分)と展開平面の減少
測り知れない慈愛と善意をもって両コスモクラートは、1400話からのコンセプトについての提案を語った。論理的に言って、カオタークに対しては馬の耳に念仏である。
かつては自身も編集者であったカオターク〈大爆笑ホーホー〉が、まだまったく練り上られていない二者択一の発議を提出したが、それはまさにカオターク全員一致の賛同を得た。この発議は基本的に、次のポイントから成る。
×××(翻訳不能)××やっかいなお荷物は放り出して××(また翻訳不能)×××デッカいことはいいことだの思想(*18)は減少させ、一目瞭然として×××ハンガイの第4クォーターが×××センセーション×××(これ以上の情報は提示されない。高次勢力が、書類をドリフェル・カプセル《転覆丸》にわたす前に、テキストのこの部分を消去したということも考えられる)。
6名のカオタークは声をそろえて、「かくして、読者にとっては寝耳に水、ニューカマーにとっては初版をとっつきやすくする一大センセーションが1400話と1401話で起こるのだ!」
さて、重要なのは、この骨格を肉とスパイスで満たすことだ。それはむろんのこと、あらゆる種類の無駄骨折りにいたった。
カオターク〈危ないパイプ〉は、連れてきたナックとその同族が相応の役割を担うべきであることを強調した。1395話の草案でそうなっているからだというのだ。その内容について知りたがるものは皆無だった。ついにはコスモクラート〈鼠のクラーン〉が、「あんたのナックはご免こうむる!」とエネルギッシュに制止した。〈危ないパイプ〉はひそかに、この意趣返しに1395話を夢物語からトラウマ物語に書き替えてやろう(*19)、と決意していた。ま、なんだ、要するに、コスモクラートこそモノホンの暴力団であると認識する必要があるわけさ! そして、この小説は完結したあとさらに「断絶の1400話」にむけて書き直さざるをえなくなったのだ。
カオターク〈手榴弾ヘルビー〉は、その展開のなかで人類がより多くの決断の自由(超知性体なしで)を取り戻すべきだとの要求を 695回くりかえした。かくして、695という数字は驚くべき意味を持つにいたった。(*20)
カオターク〈喉声ヴォルケー〉と〈独逸のエーヴェルス〉は互いの赤ら顔について張り合っていた。最終的に、ゲルマン人がインディアンに勝利をおさめた。(*21)
カオターク〈仏のイコヴ=スキー〉(スキー用品のもぐりの宣伝ではない)は混乱を利用して、ペリー・ローダン映画制作の最新状況(*22)について講演せんとはかった。あとはもうてんやわんや!
カオターク〈牧場の希望ボビー〉は相変わらず何にも言わない。
カオターク〈真っ暗クラールトン〉は、討論が次第に白熱してきても、依然として愉快そうに微笑んでいた。やがて艦載クロノメーターが標準時の18時を指した。その結果、コスモクラートとカオタークのシントロン臓器がぐぅと鳴った。
それをふまえた上で、確認された。カオタークはまたもや圧倒的勝利をものにしたのだ(そしてコスモクラートはいまや宿題を背負いこまねばならない! なんて不公正な!)。
翌朝までの延期という提案が、全会合を通じて唯一、満場一致で可決された。会合出席者は反重力グライダーで宇宙城《ザントヴァイアー》(*23)へ移動した。
議題4(非公式):一堂に会して呑みかつ喰い、バカげた冗談をかわし、バカにしあい……(あとは検閲にひっかかった)。
その際の素晴らしき訪問:いつのまにやら女王に昇進していたリンダ・イヴァヌス(*24)が、輝かんばかりのザールブリュッケン・スマイルで現われたのだった。
議題5(非公式)と、午前中の会議の結果:
「案件は新サイクル形成のための具体的プランであった。一連の興味深い提案が蒐集された。コスモクラート・チームは現行サイクルの結末を、新サイクルの前提を整えるように構成し、同時に以前の記述との齟齬を回避するという任務を与えられた」
これでは、まるで政府答弁か、緊急動議に対する国家首席の公式見解みたいに聞こえる、とシッテイルノニ・シランフリは述べている。しかし、公式議事録にはそう書かれているのだ。ホントだってば!
だが、ひとつのことは明らかになった:これからも、将来も続くのだ……。
シッテイルノニ・シランフリと高次勢力は、なかなか含蓄に富んだこの書類について、カオターク一座と、格別に両コスモクラートに感謝の意を表するものである。
ま、こんなとこだ。ほんの数時間のうちに、コスモクラートとカオタークたちはクモの子を散らすように姿を消した。その呪われた活動を別の場所で遂行するために。
K.O.ターク(*25)には今後とも警戒が必要である!
訳註:
- 原語はWeißnix Weißwas。「何にも知らない・何か知ってる」てなところか。
- Kipp-Um。動詞Umkippenに「転覆する」の意味があるのだ。
- Maus Klahn。クルト・マール(Kurt Mahr)の本名はクラウス・マーン(Klaus Mahn)。要するにその「しりすえもんじ」(うーん、古い。当初コレを訳したときには、まだ「いきなりフライデー・ナイト」は健在だったのだが)である。
- Wolf Wolfchen。エルンスト・ヴルチェクはパウル・ヴォルフの筆名も持つ。
- Dark Clarlton。クラーク・ダートルンはClark Darlton。これまたしりすえもんじ(もぉええ)
- Handgranaten-Herbie。シェールの本名はカール=ヘルベルト・シェール(Karl-Herbert Scheer)。なぜ手榴弾なのか? シェールが軍事SFだったころのPRSの草案作家であったからか? あるいは、当時のかれの持ちキャラであったラトバー・トスタンが携行するデッカい鉄砲と関係あるのかもしれん。
- Franz Ikow-Ski。フランシスの本名はHans Gerhard Franziskowski。東欧系の移民であったのかもしれない。
- Germane Ewers。これまたエーヴェルスはホルスト・ゲールマン(Horst Gehrmann)が本名。出身は元の東ドイツだそうだ。
- Haha Hoho。ホルスト・ホフマン(Horst Hoffmann)は愛称「ホーホー」(Hoho)。
- Kehlige Wolke。アルント・エルマー(Arndt Ellmer)の本名はウォルフガング・ケール(Wolfgang Kehl)。ほとんど二重のシャレである。
- Bobbie Fieldhope。当然ロベルト・フェルトホフ(Robert Feldhoff)のこと。
- Kreisenpfeife。ペーター・グリーゼはパイプ愛好者なのか。未確認。
- Marri-Anne Ehrig。マリアンネ・シドーの本名はエーリッヒ(Marianne Ehrig)。
- Johnny Bruck。PRS常任イラストレーター。底抜けのウワバミだったそうだ。某PRコンの際、水の入ったグラスを持っていたのを、ダールトンに「ウォッカを呑んでる」と勘違いされたくらい……。
- Marzipan。アーモンドと砂糖の菓子。ちなみにマルチン博士はFlorian F.Marzin 。ホントに何の博士なのかは不明。「甘い」人とは到底思えないのだが……。後、退社して、現在ではSF作家だったりする。
- Franz Dolenc。ハードカヴァー版の校正・編集等を担当していた。ヘフト版も、プロット段階から目を通すらしい。公に名前が出たのは、この記事が最後か。
- MVH-Geschütz。コンビ銃の大砲版のようなもん。
- Gigantmanie。モラル・コードや無限艦隊、深淵の地などを意味する。ツィークラーへのあてこすりみたいにも聞こえるし、フォルツ草案をこなしきれなかった言い訳ともとれそうな発言である。
- 夢=Traum・トラウマ=Trauma。1395話で、くりかえしガルブレイス・デイトンの見る夢が後々の重要な伏線となっている。
- 1400話で695年の時間ジャンプが敢行されるわけである。
- エルマーもエーヴェルスも確かに赤ら顔だが、エルマーがインディアンとか、インド系イギリス人の血をひいているという事実はこれまで伝えられていない。何か独特の言い回しなのかもしれない。
- ほとんど「企画はある」ということだけ、延々とくりかえしている状態……。数年前からたまにリリースがあるTV映画版というのは、この当時と同じ企画なのだろうか? うーん。
- Sandweier。どこぞの居酒屋の名前か……と当時は書いたが、いろいろ調べたところ、ラシュタットからほど近い、有名な観光地バーデン・バーデンの一街区らしい。菊芋から作ったシュナップスが名物とか。
- Linda Ivanus。ザールブリュッケンのヴェルトコンで進行役を勤めた女性。群馬合宿例会等でヴィデオを見た方はご存じかと思う――あの、赤青緑のメッシュの入った髪をした派手なネーちゃんである。しかし、女王に昇進? なんかアブナそーである。
- 「ノックアウト」とカー・オー・タークの洒落。日本人には苦しいジョークかも。
本稿は1387話『成就の地』付録のPR-レポートに掲載された、シリーズ企画「PR工房から」の第6回。この回にかぎり、作者は不詳である(笑)
1984年のフォルツ病没にはじまり、後継者ツィークラーは85年に脱退、そうして始まった超知性体エスタルトゥと異宇宙タルカンをめぐるサイクルは3年保たずに1399話で打ち切りと、当時のチーム事情はそうとうゴタゴタしていたと思われる。しかし、まさかそれ自体をネタに昇華してこんなしょーもないげふんげふん、イカれたいやいや、笑えるものを作ってしまうというのは、ある意味尊敬に値する。
まあ、そうした事情をさておき、作家たちが年一度、顔をそろえてブレインストーミングをくりひろげる会合というのは、およそこんな感じだったりするのだろう……と思う。だからこそ、これからも、将来もつづくのだ……(爆)
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