ウィリアム・フォルツ賞について

ドイツSF, メモ

ウィリアム・フォルツ賞(William Voltz Award)。ローダン・シリーズの二代目草案作家ウィリアム・フォルツの名を冠されたSF文学賞である。

2004年、フォルツ没後20年に際して立ち上げられたホームページと同時に、未亡人インゲ・マーン=フォルツにより未発表短編の募集が呼びかけられた。後進育成に熱心だったフォルツにならって、主としてまだ作品を発表する機会を持たなかった若手がターゲットだったらしい。
ファンダム時代のフォルツが短編で名を馳せたことから、募集は短編に限定(第2回は16000字まで)。各回とも、ローダン作家や著名なSF評者が審査員として名を連ね、オンライン投票も実施された。募集総数225編と大盛況だったため、単発企画の予定が2回、3回と回数を重ね開催は5度に及んだ。2回目からはお題を決めての募集となる。
賞金も出ていて、1席300ユーロ、2席200ユーロ、3席100ユーロ。各回とも変更なし。

昔、ごやてん、というか、前身の無限架橋NEWSができたばかりの頃、第1回のことを取りあげている。たぶん、わたしなりに刺激をうけたんだと思う……おぼえてないけども(笑)

近年、当該サイト(www.williamvoltz.de)からフォルツ賞のページ自体が消滅していることに気づき、ちゃんとまとめていなかったことを悔やんだのだが、一旦この記事をアップした後で、ふとInternet Archiveのことを思い出して確認したところ、往時のデータがサルベージできた(汗)
おおよそ必要な資料は揃ったけど、なるたけデータは保存しておこうっと。受賞作、一部プロになって短編集を出したりアンソロジーに収録されたり、著者自身がオンラインで公開しているものを除けば、このサイトのデータ以外に読む手段もないのだし。
#いや、ホントにないのよ。“William Voltz Award”で検索して、15年前のごやてんの記事が上位でヒットするくらい(笑)

なお、後進の育成、という意味では、3回目の受賞者Uwe Postは後に『ヴァルパー・トンラッフィルと神の人差し指』でラスヴィッツ賞とドイツSF大賞を受賞(応募作だった「edead.com」自体も出版後ラスヴィッツ賞にノミネートされた)したり、現ローダン作家ミシェル・シュテルンが本名で応募(第3回、次席)していたり、第4回1席のマティアクがこの度ローダン本篇に参加と、立派にその役割をはたしている。

受賞作一覧

第1回(2004年)

1. Thomas Hocke / Die Zeitmaschine / タイムマシン
2. Wulf Dorn / Activity / アクティヴィティ
3. Rüdiger Lehmann / Adler und Geier / 大鷲と禿鷹
3. Carsten Fromme / Tod eines Hochhauses / ある高層ビルの最期

審査員:ボルシュ、ヘーンゼル、ヴルチェク、ミハエル・ナグラ(以下、註釈無しはローダン作家)

第2回(2005年) お題:ロボット

1. Julia Blaschke / 12 Minuten / 12分間
2. Frank Hoese / Botch / ボッチ
3. Gerhard Franz / Über den Tod hinaus / 死を乗り越えて
3. Damian Wolfe / Die perfekte Maschine? / 完璧な機械?

審査員:エルマー、シュヴァーツ、シュテフェン・フリードリヒ
※フリードリヒはPROCのニューズレターTERRACOM編集長(当時)

第3回(2006) お題:22世紀の物語

1. Uwe Post / edead.com / edead.com
2. Stefanie Rafflenbeul / Der Letzte seiner Art / その種、最後のひとり
3. Gerry Haynaly / Gefangene der Stadt / 都市の虜囚

審査員:アントン、ターナー、アルフレート・ケルスナー
※ケルスナーはジョニー・ブルック没後、メインで表紙絵を担当。(現在もサブで描いている)

第4回(2007) お題:異世界SF

1. Dennis Mathiak / Abschied / 訣別
2. Dirk Eickenhorst / Nummer Neun / ナンバー9
3. Norbert Mertens / Bitte lächeln! / さ、笑って!

審査員:カストール、アキム・メーナート、カティア・リヒター
※リヒターはホイゼンスタム(フォルツの居住地)の書籍販売・地方紙の書評ライター

第5回(2009) お題:SF

1. Christian Kathan / Ein Augenblick Unendlichkeit / 一瞬の永遠
2. Dieter Bohn / sefer chajim / セフェル・ハジム
3. Frederic Brake / Flüchtige Gedanken / 逃避的思考

審査員:クナイフェル、ディルク・ヘス、クラウス・ボールヘフナー
※ボールヘフナーは他記事で書いたとおり、BNF、SF紙編集者、VPMマーケティング担当

なんか一日じゅうネット漁りをしていた気が(笑) でも、リスト埋まってよかったぁ。
フォルツ・リスペクトなのか、Uwe PostやDieter Bohnは書籍プロフィール等に「William Voltz Award受賞者」と明記してたりする。この賞が存在した意味はたしかにあったと思うのだけど、インゲさんがマールと再婚(マーンはマールの姓(本名))して、子息らの活動もアメリカ中心であることから、復活はもうないだろうねえ……。

Posted by psytoh