カール・M・アルマー「楽園の灰」
送ればせながら、本年のドイツSF大賞短篇部門を受賞したカール・ミハエル・アルマー「楽園の灰」(Die Asche des Paradieses)を改めて紹介したい。
カール・ミハエル・アルマー(Karl Michael Armer)は1950年生まれ。本業は広告関連らしい。70年代末から80年代にかけて、主として社会批判的なテーマの短篇(中編)SF十数編を発表。編者としてアンソロジー7作も出版されている。1987年「周回(Umkreisung)」、1988年「失業者問題の最終的解決策(Die Endlösung der Arbeitslosenfrage)」、1989年「バイオ技術の核心の問題(Malessen Mitte Biotechnik )」と、3年連続でクルト・ラスヴィッツ賞の中編部門(このジャンルは後に短篇部門に統合)を受賞している。
近年は作品を発表しておらず、アンソロジー『神の息吹』に収録された「楽園の灰」は待望のカムバック作。ラスヴィッツ賞では第4席に終わったが、ドイツSF大賞ではみごと栄冠に輝いた。
多発同時テロによってアメリカ合衆国が壊滅した近未来。カリスマ的な教皇ウルバヌス9世の呼びかけによって開始された十字軍の報復は、世界を絶望的な消耗戦に巻きこんでいった。やはりテロによって破壊されたローマに代わる首都ヴァティカーノ・ヌーヴォから指揮される戦いは、いっそう狂信的なものとなり、非キリスト教世界を情け容赦なく殲滅していく。
アジアは教会の放ったバイオ兵器によって滅亡。アフリカも絨毯爆撃によって焼け野原となった。主人公シコルスキー大佐は信仰篤いポーランド人からなる第4ポーランド航空騎兵師団、通称「マリア師団」の第2大隊長。幾年も中近東戦線を駆けめぐり、殺戮の日々に明け暮れたかれは、いくつかの経験のすえに、この狂気から乖離した自分自身を見いだす。戦いのなか、徐々に退行していく文明。この滅びを、誰かがとめなければ……。
煩悶するシコルスキーは、ある日、無人の地となったイラク北部で、奇跡のような花園を発見する。自然は人類がいなくなるのを待っていたかのように蘇っていた。そして、無人と思われたかの地には、戦災孤児のコミュニティが点在していたのだ。そのひとつ、〈フラワーチルドレン〉を名乗る子らのもとで、かれはひとりの少女と出会う。彼女の名は、ファティマといった――。
シコルスキーの苦悩に、はたして救いは訪れるのか、それとも……。
この作品が大賞を受賞するあたりが、昨今の“テロとの戦争”に対する欧米のスタンスの違いを象徴しているようだ。日本だと、どう受けとられるか微妙な気もする。
それでも読み応えのある一品であることはまちがいない。出版元シェイヨル社のサイトでは全文が掲載されているので、興味のあるかたはぜひどうぞ。
■epilog.de: Die Asche des Paradieses (全文掲載) (リンク切れ)
■バックナンバー: ドイツSF大賞2005
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