【亀】ファンタスティーク大賞2016年受賞作一覧
昨年5月21日~6月12日の予選(Nominierungsrunde)の後、6月25日~7月17日が本選投票期間(オンライン・ニュースPhantastik-News.deの読者投票で決定される)だった。
授賞式はフランクフルト書籍見本市に併せて開催されるブーフメッセコンにて、10月22日に執り行われた。
ノミネート作および受賞作は、以下のとおり:
※例によって、全8部門中、長編・短編・翻訳・新人の4部門のみ掲載。
■長編部門 Bester deutschsprachiger Roman:
1. Susanne Pavlovic / Feuerjäger 1 – Die Rückkehr der Kriegerin
/ 女戦士の帰還(炎魔討伐団1)
2. J. H. Praßl / Chroniken von Chaos und Ordnung 3 – Bargh Barrowson
/ バーグ・バロウソン:混沌(混沌と秩序の年代記3)
3. Tom Jacuba / Kalypto 1 – Die Herren der Wälder
/ あまたの森統べる者たち(カリプト1)
4. Valerian Çaithoque / Amizaras 3 – Raphadona / ラファドナ(アミザラス年代記3)
5. Elisabeth Ruetz / Der Schattenkristall 3 – Das Blut der Wächterin
/ 守護女の血(影のクリスタル3)
6. M. H. Steinmetz / Hell’s Abyss 1 – 666 / 666(ヘルズ・アビス1)
スザンヌ・パヴロヴィクの『女戦士の帰還』は、今年の1月に完結編『女王の剣』が刊行された炎魔討伐団三部作の第1巻。
主人公クロナ・カラギンは輝ける英雄には程遠い、戦場の裏も表も知りつくした無骨者の傭兵だ。そもそも、平穏な時代に英雄などそういるものではない。筋金入りのいかれ剣士で、失うものなど何もないクロナだったが、アブランテス王国全土を突如あらわれた炎魔たちが蹂躙したとき、彼女は一団のドワーフや戦士、魔術師たちをまとめあげ、災禍に立ち向かう。それは世界の果てと、その先にまでいたる討伐の旅のはじまりだった。
パヴロヴィクにはアブランテス王国を舞台にした、先行する2冊の長編があり、その主人公・吟遊詩人ヴォルフラムとクロナは長年の腐れ縁――というか、クロナがまだ戦士になる前、皿洗いをしている頃からの知り合いなのだ。そして、完結編ではヴォルフラムもまた重要な役どころで登場するらしい。
トム・ヤクバの『あまたの森統べる者たち』は、カリプト三部作第1巻。森人の領主となった孤児ラスニク。母の死によって山の国ガロナの女王に就任したアイリン。それぞれまったく異なる境遇のふたりはやがてひとつの災厄に直面することになる。数千年の眠りからめざめた、滅び去った魔法王国カリプトの4人の斥候たち……彼らは、第二のカリプトを創造するための、奴隷となるべき種族を求めて旅立ったのだ――。
■短編部門 Beste deutschsprachige Kurzgeschichte:
1. Oliver Plaschka / Das öde Land / 荒地 (『荒地』Das öde Land 収録)
2. Katharina Fiona Bode / Erasmus Emmerich und der zinnoberrote Zinnsoldat
/ エラスムス・エメリッヒと辰砂色のティンソルジャー
(『スチームパンクの闇色極彩』Die dunkelbunten Farben des Steampunk 収録)
3. Anna-Katharina Höpflinger / Selig sind die geistig Armen
/ 心貧しき者は幸いなり (『封印事項』Verschlusssache 収録)
4. Georg Britzkow / Gesang der Kröten / 蛙の歌
(『狂気の黒神』Der schwarze Gott des Wahnsinns 収録)
5. Carmen Weinand / Der große Stefano / 大ステファノ
(『フライシュ3』Fleisch 3 収録)
オリヴァー・プラシュカの「荒地」は、短編集『荒地:その他の世界の果ての物語』に収録された14編で巻末を飾る。自らの行動によって滅びを運命づけられた世界に暮らす人々の物語……らしい。
歴史小説として評価の高い『マルコ・ポーロ――世界の果てまで』とか、世界の果て好きだな! と思っていたら、ローダンNEO作家でもあった(笑) >プラシュカ
カタリナ・ボーデの「エラスムス~」は、同主人公の短編2作目で、2016年7月に出版の長編デビュー作『エラスムス・エメリッヒとマダム・マラルメの仮面舞踏会』とも舞台を同じくするスチームパンク探偵小説……っぽい。19世紀末、《鉄血宰相》ビスマルクの時代のベルリン――ただし、機械のカニが川をうろうろしていたり、仙女が主人公につきしたがっていたり、いろいろチガウ世界みたい。
■国際部門 Bester internationaler Roman:
1. Terry Pratchett / Die Krone des Schäfers / The Shepherd’s Crown / 羊飼いの宝冠
2. Patrick Rothfuss / Die Musik der Stille / The Slow Regard of Silent Things
/ 静かなるものの緩やかな視線
3. Kevin J. Anderson / Resurrection Inc. / Resurrection, Inc. / 復活株式会社
4. Ben Aaronovitch / Peter Grant 5 – Fingerhut-Sommer / Foxglove Summer
/ ジギタリスの夏
5. Jonathan Stroud / Lockwood & Co 3 – Die raunende Maske / The Hollow Boy
/ 空っぽの少年
プラチェットの『羊飼いの宝冠』は、2015年、作者の没後刊行されたディスクワールド物の最終巻。
ロスファスの作品は、先ごろ日本でも刊行のはじまったキングキラー・クロニクルのスピンオフ。
■新人部門 Bestes deutschsprachiges Romandebüt:
1. Faye Hell / Keine Menschenseele / 心ない人々
2. Mona Silver / Verlorener Stern / 失われた星
3. Maja Loewe / Die Augen des Iriden / アイリスの双眸
4. Sandra Berger / Transformation am Feuersee
/ 炎湖のほとりのトランスフォーメーション
5. Luzia Pfyl / Cesario Aero – Kaiser der Lüfte / 空の皇帝
ファイエ・ヘルの『心ない人々』は、どこにあるのか知れない、名もないホテルが舞台。そこに滞在する6人の男女――彼らがこのホテルを訪れたのは、単なる偶然ではなかった。だれもが暗い秘密を、罪を抱えている。特徴のないセールスマン、有名なTVスター、婚約間近のカップル、女流ベストセラー作家、見ばえのしない少女……。誰もが、長年の悩みに、忌まわしい記憶に、狂気に直面する。
サイコパスが紛れ込んでいたり、誰かが誰かの復讐を企てていたりと、全5章が複雑に絡み合っているみたい。芥川の「藪の中」みたいな感じかしらん(憶測
タイトル原文は「人っ子ひとりいない」の意味であり、おそらくは「人間らしい心のない(悪)人」とのダブルミーニング。
■公式サイト:Deutscher Phantastik Preis
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