ファンタスティーク大賞2019本選開始

ドイツSF

9月16日から、ファンタスティーク大賞の本選がはじまっている。
長編/短編/新人/ジュブナイル/国際/アンソロジー/オーディオドラマ/シリーズ/グラフィッカー/二次創作/コミック・マンガ/翻訳、の12部門。

ショートリストから、恒例4部門のノミネート作を以下に掲載する。

長編部門 Bester deutscher Roman:

Bernhard Hennen / Die Chroniken von Azuhr: Die weiße Königin
    / アズール年代記:白い女王
Mira Valentin / Die Flammen von Enyador / エンヤドルの炎
Bianca Iosivoni / Sturmtochter: Für immer verboten / 嵐の娘:永遠に禁じられ
Mary Cronos / Houston Hall: Schatten der Vergangenheit / ヒューストン・ホール:過去の影
Nicole Böhm / Das Vermächtnis der Grimms – Wer hat Angst vorm bösen Wolf
    / グリムの遺産――悪い狼を怖れるのは誰?

ミラ・ヴァレンティンの『エンヤドルの炎』は全4巻のハイファンタジー・サーガの3巻目。
エルブとドラゴンとデーモンが相争うエンヤドルでは、人間はエルブの奴隷として対ドラゴンの戦争に使い潰されていた。しかし、ひとりの孤児トリスタンがその境遇にあらがったことが、ある太古の預言にまつわる事件を呼びさまし……云々で、四種族の和平がなったあたりで、北方から新たな闇の勢力があらわれて、というのが本作みたい。最終巻『エンヤドルの遺産』では、勢力のバランスが崩れ、トリスタンとかつての旅の仲間が魔法使いや妖精女王の決戦兵器として戦う事態に。大団円はあるのか……?

ベルンハルト・ヘンネンのアズール年代記は第一作の『呪われし者』が3月にセラフ賞を獲得しているが、こちら『白い女王』は二作目。完結編(?)の『夢見る戦士』は今月末発売予定。 前作で父の後を継いで大司祭になることを厭い、冒険(自分探し)の旅に出たミラン。今回の彼は、キリア島における都市連合と剣の森の侯爵領とのあいだの紛争にまきこまれていた。都市連合の軍事力に圧倒される森の人々は、危機迫るとき再来するという〈白の女王〉の伝説にすがるばかり。相争うどちらにも大義はないと悩むミランだが、島にはさらなる危機が訪れていた。寓話めいた魔法生物たちが、どこからともなくあらわれて――。
ヘンネンは、ローダン作家ロベルト・コーヴスと共著のフィレッソン・サーガ(現在7巻、継続中)が、昨年ファンタスティーク大賞のシリーズ部門を受賞している。
さらに余談だが、ヘンネンは異名を〈エルフ・マスター(Der Herr der Elfen)〉という。出世作がエルフ・サイクルと呼ばれる一連のシリーズで、『エルフ』『エルフの冬』『エルフの光』『エルフの歌』『エルフの女王』『エルフの騎手』『竜のエルフ』『エルフの力』……騎手やら竜やらはそれぞれ複数冊に別れていまのとこ全13冊、プラス電子ブックのみの短編集もある。……ロードス島戦記の新刊とか握りしめて突貫したら仲良くなれるやもしれない(笑)

ビアンカ・イオシヴォニの『嵐の娘:永遠に禁じられ』はスコットランドが舞台。17歳の少女アヴァは、夜ごと母の敵であるクリーチャー、〈エレメント〉を狩っていた。彼女を支えるのは謎に満ちた若者ランス。ところがあるとき、アヴァは自分が水をあやつる能力があることに気づく。彼女はスコットランドを裏で支配する、エレメントの力を駆使する五氏族の一員だったのだ。だが、水の氏族マクレオズをはじめ、五氏族は互いに反目しあっていて……。
あれだね、母親が素性を語っていない時点で、出生の秘密とかありそうな設定(笑) すでに2巻『永遠に失われ』は刊行済み、3巻『永遠に結ばれて』がこの10月に発売予定。

マリー・クロノスの『ヒューストン・ホール:過去の影』は、楽天の分類によると(笑)、“ ロマンス, ロマンチック SF&ファンタジー”らしい。ヒューストン・ホールというから、てっきりアメリカのビアホールかと思ったら、英国スコットランド地方のヒューストン村であった。
エディンバラで少壮の弁護士として活躍していたアンソニーは、ある凶悪な事件によって両親と愛する妹を失い、人が変わったようになってしまう。村人たちは、あの人は呪われなすったんだと噂する始末。家人を残らずクビにして、それはそれで困った状態のところにあらわれたのが、マリー・スミス。家政婦として彼女を雇ったアンソニーは、少しずつ、人間らしい暮らしとこころを取り戻していくのだが……。
マリーさん、アンソニーの家族を襲った事件――というか、モンスターの正体を知っているどころか、200年にわたってそれらと戦っているんだとか(笑) そして、死んだはずの妹の姿をとって、アンソニーに危機が迫る……。

ニコレ・ベームの『グリムの遺産:悪い狼を怖れるのは誰?』はホラーっぽいSF? 主人公クリスティン・コリンズは、兄によってとある特殊部隊に招かれる。彼女たちが狩るのは〈グリム〉――グリム兄弟の童話を通して、読んだものに呪いをかける、狼めいた姿の怪物である。童話の世界へとダイブしたクリスは、次第に現実と幻想の区別がつかなくなっていく……。
うん、鉢かつぎでぶん殴るんだ(笑) 後編にあたる『グリムの遺産:鏡よ鏡』が、10月に刊行予定。

短編部門 Beste deutschsprachige Kurzgeschichte:

Jenny Wood / Totenpfade / 死者の道 (Kemet: Die Götter Ägyptens 収録)
Markus Heitkamp / Housten hat Probleme / ヒューストン異状あり (The P-Files 収録)
T. S. Orgel / Schicht im Schacht / シャフトのシフト (Die Hilfskräfte 収録)
Janna Ruth / Unter der Erde / 地下にて (Fiction x Science 収録)
Swantje Oppermann / Das letzte Erwachen / 最後の目覚め (Fiction x Science 収録)

ジェニー・ウッドの「死者の道」は、古いエジプトの神々を題材にとったアンソロジー『ケメト』に収録されたダーク・ファンタジー。女性の惨殺死体の現場検証からストーリーははじまる。検視医ヤニ・マフェド――それが、いまの彼の身分。かつて偉大なファラオたちの時代、彼はナイルのほとりで神と崇められていた。信仰がすたれ、忘れ去られた現在、彼は人間たちのあいだをさまよい、いまなお「死」に携わっている。死せるものの魂を慰め、冥府への道行きを指し示してやり……。
事件の背後に、彼と同様、超自然の存在をかぎつけるマフェド。捜査チームのリーダー、警部補の甥っ子のボンボン刑事が(彼なりにマフェドの身を心配して)クビをつっこんできたので、首根っこつかんでニューヨークの闇へひとっとび(笑) 最近なんで自分のチームの検挙率があがったのかわかってないボンボンとのやりとりが案外愉しい一篇。

今回は、Kindle版で読めたのが上記のみなので、ちょっと残念。
ハイトカンプの「ヒューストン異状あり」が収録されたASファンタスティーク社のアンソロジー『Pファイル』、PはフェニックスのP(不死鳥文書)らしい。他に一角獣の『Uファイル』や、近刊には『Dファイル』(悪魔かな?)も予定されているらしい。
パコ書房のアンソロジー『フィクション×サイエンス』は、「急速に機械と人間の融合が進む現在。PCを使えない人がまだいる一方で、インターネットとスマホのない世界を知らない世代も増えています。彼らの孫の時代にはどうなっているでしょう。(中略)フィクション×サイエンスは、人と機械の融合によって可能となる、希望あふれる未来のヴィジョンです」だとか。日本の女戦士でも販売してるんだけど、ハードカヴァーで5000円↑なのでちょっと……(汗)

国際部門 Bester internationaler Roman:

Stephen King / Der Outsider / The Outsider / アウトサイダー
Holly Black / Elfenkrone / Tithe: A Modern Faerie Tale / 十分の一税
Neal Shustermann / Scythe: Der Zorn der Gerechten / Thunderhead / サンダーヘッド
Siri Petterson / Die Rabenringe – Odinskind / Ravneringene: Odinsbarn
    / 鴉の指輪:オーディンの子
Tomi Adeyemi / Children of Blood and Bone: Goldener Zorn / Children of Blood and Bone
    / オリシャ戦記:血と骨の子

ホリー・ブラックは、邦訳がジュブナイル向けの『スパイダーウィック家の謎』シリーズしか確認できなかった。ノミネート作『十分の一税』はモダン・フェアリーテール三部作の第1巻で、過去『十分の一税』『エルフの娘』に分冊して独訳されたものの合本みたい。2巻Ironsideが『エルフの女王』、3巻Valiantが『エルフの心』としてそれぞれ訳されているので、原題と全然ちがうのもやむなしか。ヘンネンといい、ドイツ人どんだけエルフ好きなの(笑)

ニール・シャスターマンの〈サイズの聖櫃〉シリーズは、遥かな未来、人工知能〈サンダーヘッド〉に管理される自然死が排除された世界で、人の生死を決める〈サイズ(死神の大鎌)〉に登用された若者たちを描くヤングアダルト……みたい。ノミネート作は第2巻。近刊に『通行税』が予定されているが、これ、『六文銭』だったりするのかにゃあ。

シーリ・ペテルセンはノルウェーの作家、コミックライター。『鴉の指輪』は北欧神話をベースにした三部作で、ノミネートされたのは第一作。Wikipediaを見ると、北欧、東欧を中心に10ヵ国語に翻訳されている……あ、英語が抜けてるから11ヵ国語か。本国では映画化の権利まで売れてるそうだから、ベストセラーなのだ。

トミ・アデイェミはナイジェリア系アメリカ人の作家。ヤングアダルト系のアンドレ・ノートン賞とロードスター賞を獲得した本書『オリシャ戦記 血と骨の子』は邦訳も出ている(静山社)。本国では三部作の二巻目『美徳と復讐の子』が12月に刊行予定。

新人部門 Bestes deutschsprachiges Romandebüt:

M. D. Hirt / Bloody Mary Me: Blut ist dicker als Whiskey
    / ブラッディ・マリー・ミー:血は酒よりも濃し
Anca Sturm / Der Welten-Express / 世界急行
Leni Wembach / Ein Königreich aus Feuer und Eis / 火と氷の王国
Nicole Alfa / Die Prinzessin der Elfen: Bedrohliche Liebe / エルフの王女:危険な愛
Christine Weber / Der fünfte Magier: Schneeweiß / 五番目の魔法使い:雪白

ニコル・アルファの『エルフの王女』は全5巻?の1巻目。16歳のルーシーは自宅で何者かに襲われて、気がつくと見も知らぬ世界に転移していた。え、ここがわたしのホントウの故郷? 行方知れずになったエルフ王の娘? ちょっと待ってよ、わたしフツーの女の子なんだけど。それより、あのダーンって人、なんでわたしの行く先々で待ち構えてるの……?
えーと、表紙といい、タイトルといい、あらすじといい、どうにも“異世界ハーレクイン”にしか見えないんですが。

クリスティーネ・ヴェーバーの『五番目の魔法使い:雪白』は、ドラゴンを使い魔にした四人の魔法使いのあいだの争いの後、二派に分かれた世界を舞台に、流れ者の少年ソラクを主人公として物語られるファンタジー。逗留する村を災いが襲ったとき、ソラクは白と黒だけからなる異界に転移する。災いを招いた自責の念から、世界を覆う虚構の網をときほぐそうと努力するが……。続編『五番目の魔法使い:漆黒』がすでに発売中。

……こんな感じかな。
『BLは魔法!』は選に漏れたらしい(笑)
あと、おもしろいところでは、翻訳部門にこんなのが:

『ta’puq mach クリンゴン語で読む名作「星の王子さま」』。翻訳www

■ファンタスティーク大賞公式サイト:deutscher-phantastik-preis.de

Posted by psytoh