銀河の叛徒フレイミング・ベス

ドイツSF, 書籍・雑誌

こちらはちゃんと読んだ(笑)SFシリーズ。
先頃、ちょっとだけ名前を挙げた、元ローダン作家トマス・ツィークラーの手になる2つのシリーズものの一方。もうひとつは〈ザルドア〉というファンタジーだが、それはまた別の機会に。

1巻『地球の遺産』表紙

大いなる危機のとき、
死が人々を脅かし、万策つきはてて、
希望のうしなわれるとき、
船長コマンダーはめざめる。
――ターミナスに残る〈旧船長〉の伝説

時は遥かな未来。人類の歴史は風前のともしびであった。
星間連盟中央星セントラスも陥落し、戦士氏族クランズマンの星クランズホルムも陥ちた。わずかに残った難民たちは、連盟非所属の辺境星ターミナスへと落ちのびていたが、そこすらも仮借なき侵略者〈ヘラクレアン〉に隠しおおせることはできなかった。気がつくと、まるで影の中から歩み出るように、ヘラクレアンのクローン兵団が押し寄せ、ターミナスは灰燼に帰そうとしていた。
難民の一団が、警備するものとてない〈旧船長の聖堂〉へと逃げ込んだ。旧船長オールド・コマンダー――遥か太古から氷の中に眠る女性。失われた人類発祥の惑星・地球に生まれ、人類に危機が訪れたとき、めざめてこれを救うと言い伝えられている――フレイミング・ベス。しかし、伝説は伝説にすぎなかった。星間連盟の内世界がヘラクレアンの襲撃をうけ次々と失陥していくにもかかわらず、彼女はめざめなかった。
最後のクランズマン・カーは、クローン兵を撃退しつつ、そんなことを思った。彼ひとりでは、もう長くはもつまい。だが、そのとき、奇跡は起こった。氷がたちどころに消え失せ……フレイミング・ベスは人類の敵へと最初の一撃をはなったのだ。

ツィークラーがローダン・チームを脱退した翌1986年から1987年にかけて発表された〈銀河の叛徒フレイミング・ベス(Flaming Bess – Rebellin der Galaxis)〉はポケットブック版で全9巻。Kindle版は全2巻。
判型がちがうので、ディンフォの「あなたが知らないヘフト」コーナーでも紹介していない……と思う(汗) ミュトールやデーモンキラー形式でやろうと準備して中絶していたはず(原稿を見る限り)。

フレイミング・ベス。人類最初の星間宇宙船《ノヴァ・スター》船長。サバイバル・スペシャリスト。彼女の任務は、《ノヴァ・スター》の運ぶ数千名の植民者の安寧を護ること。彼女はコールドスリープ状態におかれ、《ノヴァ・スター》あるいは植民者たちに危険がおよんだとき、覚醒されるようプログラムが組まれていた……はずだった。
だが、ここは《ノヴァ・スター》ではない。植民者の入植キャンプですらない。プログラムに重大な支障をきたす何事かが起こったのか。ともあれ、フレイミング・ベスは瞬時にして周囲の状況を見てとった。女こどもが大半を占める避難民と、それを襲う黒い装甲スーツを着用した兵士たち。護るべきものがどちらかは、言うを待たなかった。

かつてこの宙域を治める星間帝国の中心であったという、ターミナスのマギスター宮殿。年老い、死を前にしたマギスター・タメーランは、その超常能力で“助け”を呼びつつ、後事をフレイミング・ベスに託す。巨大なピラミッドに見えた宮殿こそ、太古の宇宙船《ノヴァ・スター》!
電磁パルス砲でヘラクリアンの旗艦を一時行動不能に陥れた《ノヴァ・スター》は離陸をはたすが、太古の船には星系を離脱する能力がない。そのとき、タメーランの呼んだ“救援”が外宇宙から姿をあらわした。1隻の船。人類より数百万年を閲した爬虫類種族ドラカン……これまで人類とのコンタクトを拒絶してきた太古種族がなぜ?
そして、ドラカンの船は途上ヘラクレアンと交戦でもしたのか、スクラップ同然に見えた。むしろ、救援が必要なのはそちらではないのか。そのとき、フレイミング・ベスの脳裏に声が響いた。ドラカン船唯一の乗員、プラ=ヤスワンの声なき声が。

――地球の人間よ。道を遡るがいい。蜥蜴の統べる地を越え、無人の異界へと。源まで。道の果ては闇の中にあり、待つが勝利と敗北のいずれかは、われにも見えぬ。されど、それこそ目標へといたる唯一の道。わが贈り物を受け取るがいい。そして往け……。

ドラカンの円盤船が分解し、唯一残った純白のシリンダーが《ノヴァ・スター》と融合する。超光速パラ・エンジンが、死せるプラ=ヤスワンの贈り物だったのだ。
ヘラクレアンの追撃を振り切って、人類最後の希望《ノヴァ・スター》はパラ空間へと突入した――。

-*-

……という感じで第1巻『地球の遺産』は閉幕し、同時に伝説の故郷・地球をめざす旅がはじまるわけで。
当然、待っているのは平穏とは程遠い旅路。

完全勝利を鼻先でひっさらわれたヘラクレアンの司令官〈戦王クロム〉はベスを宿敵認定。ある手段によって《ノヴァ・スター》の所在をたどれるクロムは、行く先々で人類を滅ぼさんと執念を燃やすことに。
一方で、人類側も一枚岩とはいかない状況。難民の中には、旧連盟の軍指導部や政治家、上流階級のご婦人なんかも混ざっていて、ことあるごとにベスの方針と対立。クーデターまで発生する事態に。
さらに正体不明の〈預言者〉が難民の中にシンパを拡大。フレイミング・ベスを預言の成就を邪魔するものとして排除をもくろんだり。

あれやこれやを、ベスに心酔したクランズマン・カーや、《ノヴァ・スター》機能回復の立役者である天才エンジニア・カッツェンシュタインらの協力を得てフレイミング・ベスは乗り越えていく。
ドラカンの境界ステーションを通過した彼女たちの前に広がるのは、〈無人の異界〉……と呼ばれる、銀河中枢部を超えた先の、旧人類が栄えた領域。かつてドラカンとの防衛線を支えた〈鋼鉄要塞〉や、〈赤色巨星男爵領〉崩壊後、放射能を逃れて地下へ落ちのびた人々のブンカー、かつて〈銀河アーカイヴ〉と呼ばれた惑星規模の生命体ラルン=サーン。
そして、かつて太陽系が存在した場所を覆い尽くす青いエネルギーの壁。その向こうには何が待つのか。そして、ヘラレクアンと地球人類の太古から続く因縁とは?

最終巻『地球』、クライマックスは死の淵からさえ蘇る戦王クロムとフレイミング・ベスの地球での一騎打ちですよー♪

タイトルリスト:
1. Das Erbe der Erde / 地球の遺産
2. Wo die Echse herrscht / 蜥蜴の統べる地
3. Gefangene der Schattenwelt / 〈影世〉の虜囚
4. Das Grauen an Bord / 艦内の戦慄
5. Raumfestung Arak-Nor / 宇宙要塞アラク=ノル
6. Sternbaronat Roter Riese / 赤色巨星男爵領
7. Das galaktische Archiv / 銀河アーカイヴ
8. Die elektrischen Ritter / 電気じかけの騎士たち
9. Die Erde / 地球

以下余談:
前回書いたときに、ロックバンドしかひっかからんとぼやいたが、創設1969年の超歴史のあるプログレバンドであった。ひょっとしてツィークラー、ファンだったのかな。
80年代のツィークラーは胸までかかるロン毛で、どう見てもバンド野郎だったのだ(笑)

Posted by psytoh