クルト・ラスヴィッツ賞2017年ノミネート作一覧
3月31日付け、ラスヴィッツ賞の公式サイトで、ノミネート作品の公開と、投票権を持つSFプロパーな皆さんへの通知が完了した旨の公表があった。
受賞作の発表は6月近辺。授賞式は11月4-6日にドレスデンで開催されるSFシンポジウム・ペンタコンにて開催される。日程については、犬のライカ嬢がスプートニク2号で宇宙飛行してから今年が60周年に当たることを記念して、みたい。
ノミネート作品は以下のとおり:
■長編部門Bester deutschsprachiger SF-Roman:
Arne Ahlert / Moonatics / ムーナティクス
Andreas Brandhorst / Omni / オムニ
Christopher Ecker / Der Bahnhof von Plön / プレーンの駅
Marc Elsberg / Helix – Sie werden uns ersetzen / 螺旋――我々を置き換えるもの
Horst Evers / Alles außer irdisch / 地球以外すべて
Matthias Falke / Sternentor – Enthymesis 5.3 / 星の門
Frank Hebben / Im Nebel kein Wort / 霧の中ことば無く
Jo Koren / Vektor / ヴェクター
Karsten Kruschel / Das Universum nach Landau / ランダウ後の宇宙
Jens Lubbadeh / Unsterblich / 不死
Gabriele Nolte / Blumen vom Mars / 火星の花
Karla Schmidt / Die Neunte Expansion 11: Ein neuer Himmel für Kana
/ D9E:カナの新しい空
Thomas Thiemeyer / Babylon / バビロン
アルネ・アーレルトの『ムーナティクス』は、ルナティックのもじりだろうが、月面のヒッピー文化がどうとかいうあたり、狂人というより変人たちを意味してるのだろう。
地球が異常気象やテロにより安全な場所とはいえなくなった近未来。親の遺産が転がりこんだウェブデザイナー、ダリアン・カーティスは、3週間の休暇を月ですごすことに。それは彼の人生で最大にして最狂の冒険のはじまりだった……。
ブラントホルストの『オムニ』は、カンタキ物ではない、独立した長編。
伝説の星・地球で1万年前に生まれたアウレリウスは、銀河系の超文明連合体〈オムニ〉へのアクセス権を有するわずか6名の人間のひとり。その彼が最後の任務として与えられたのは、超空間に座礁した宇宙船クリタニアにあった謎のアーティファクトがよからぬ者の手に渡るのを阻止することだった。
一方、その“よからぬ者”たちの方もすでに手を打っており、工作員フォレスターは娘のジノベルと共に、アーティファクト入手とアウレリウス誘拐という使命を授けられていた。
しかし事態は急展開を見せ、いつしか3人は全人類の未来を脅かす、先の見通せないゲームへと巻き込まれていく……。
ホルスト・エヴァースの『地球以外のすべて』は、なんかすごくB級の香りがする。
ベルリン・ブランデンブルク空港は延期を重ねたすえに、ついに開港した――7.34秒だけ。巨大な宇宙船が落下してきて、滑走路3本すべて押しつぶしたのだ。侵略者は、長い宇宙飛行を厭い、オンラインで指示を下して、形態可変カメレオン・ソルジャーを送り込んできた。さあタイヘン。
「おまえにもいいところが沢山あるのよ!」と母親だけは言ってくれる……即ちこれといって特長のない三十路男ゴイコ・シュルツ。なぜか彼が人類の最後の希望となった。気分屋のバイク便のおねーちゃんと、ロシア人のタイムトラベル研究家という珍妙な一行がめざすのは、惑星間消費者裁判所――もちろん、強大な敵はこれを阻止せんとするが。
マティアス・ファルケの『星の門』は、Enthymesis 5.3とあるように、エンテュメシス宇宙を舞台にしたシリーズ第5部3巻の意。ここまで三部作が5つと番外編が1冊。けっこーな長さである。昨年もノミネート作品を紹介していて、母船が《マルキ・ド・ラプラスIII》になっている、みたいなこと書いてるが、また新造艦がどーとかいっている。消耗率激しいなっ。
クルシェルの新作『ランダウ後の宇宙』は、Vilm宇宙を舞台にする連作短編集、なのかな。
バイオテクノロジーの事故から植物相が暴走したり。謎のパワーが惑星から惑星へ、乗っ取ったり破壊したりしながらやってきたり。いろいろな危機が人類を襲う……けど、なんとか生き延びていく人間たちの姿を描く……のか?(笑)
イェンス・ルバディーの『不死』は、VRインプラントによって人々の意識体が完全にコピーされ、擬似的不死を実現した未来のお話。この技術は過去の人間をも復元することに成功しているのだが、現代(作中の)にスターとして返り咲いたマレーネ・ディートリッヒが、ある日忽然と消え失せた。調査に当たった保険会社のアジャスター、ベンジャミン・カリは、いつしか自分が殺人的な、猫が鼠を弄ぶようなゲームへと踏み込んでいたことを知る……。
ティーメイヤーの新作『バビロン』は、ややホラー寄りっぽい内容。
人類の揺籃、メソポタミア地方――イラン・イラク国境地帯。億万長者ノーマン・シュトロームベルクによって送り込まれたハンナ・ピータースとジョン・エヴァンスの考古学者夫妻。彼女たちのチームが調査する遺跡は、ピラミッド状の構造物から、延々と螺旋を描いて地下深くつづいていた。その最奥で一行がめざめさせたものは、先史時代のメカニズムか、はたまた復讐に憑かれた神か。それは人類の終焉を告げるもの……。
■短編部門 Beste deutschsprachige SF-Erzählung:
Dirk Alt / Die Stadt der XY / XYの都市 (Exodus34号収録)
Gabriele Behrend / Suicide Rooms / 自殺部屋 (Exodus35号収録)
Andreas Eschbach / Acapulco! Acapulco! / アカプルコ!アカプルコ! (Exodus34号収録)
Marcus Hammerschmitt / Vor dem Fest oder Brief an Mathilde
/ 祭の前 あるいは マチルデに宛てた手紙 (Nova24号収録)
Michael K. Iwoleit / Das Netz der Geächteten / 無法者のネット
(『ゲーマー』Gamer 収録)
Hubert Katzmarz / Thuban / 蛇の頭 (Zwielicht Classic 10号収録)
Niklas Peinecke / Emukalypse / 模倣示録 (『ゲーマー』Gamer 収録)
ノミネート作品のかなりがドイツSF大賞と重複している。
あちらでは書かなかったが、「XY」は染色体のことかと思ったら、「くわしく描写されないけど、前の戦争で殲滅された敵のこと」らしい。敵を滅ぼし尽くして住む者のなくなった都市へと移住してきた人々のお話なのだ。まあ、序盤でそう書いておいて、グルッと回って染色体に戻ってたりするのかもしれないが(笑)
トゥバンとはアラビア語で“蛇の頭”……りゅう座α星を意味する。
「模倣示録(もほじろくw)」は、アポカリプスのエミュレーション、とかそーゆーのを想像した訳題である……のだが。全宇宙が8bitゲームフィールドに組み替わっちゃったゾ! みたいな話らしい。ちょw ノリは懐ゲーか。模倣にエミュってルビ振らなくちゃw
ゲーマー・スラング満載なんだとか。後学()のために一度見てみたいもの。
■海外作品部門 Bestes ausländisches Werk zur SF:
James L. Cambias / Meer der Dunkelheit / A Darkling Sea / 昏い海
Becky Chambers / Der lange Weg zu einem kleinen zornigen Planeten
/ The long way to a small, angry planet / 小さな怒れる惑星への遠い道
Peter Clines / Spalt / The fold / 折り目
Cixin Liu / Die drei Sonnen / The Three-Body Problem / 三体
Sylvain Neuvel / Giants / Sleeping Giants (Themis Files #1) / 眠れる巨人たち
Nnedi Okorafor / Lagune / Lagoon / 潟
Kim Stanley Robinson / Aurora / Aurora / オーロラ
Adrian J. Walker / Am Ende aller Zeiten / The End of the World Running Club
/ 世界の終わりの陸上部
Jo Walton / Das Jahr des Falken / Half a Crown
/ バッキンガムの光芒 ― ファージング3
劉慈欣(Liu Cixin)は中国のSF作家(本業はエンジニア)。2008年のSFマガジンに短編「さまよえる地球」が訳出されたことがある……らしい。『三体』は《地球往時》三部作の1作目で、英訳されて2015年ヒューゴー賞も受賞している。ネット記事を見ると、オバマ前大統領が休暇中にコレ持ってるとこを目撃されているとか変な話題もある(笑)
どんな話なのか、ネットの断片だけだとさっぱりわからんのだが(英語版Wikiに詳細なあらすじあるけど読んでない^^;)。文化大革命と並行して進行した極秘のエイリアン探査計画だとか。アルファ・ケンタウリ系(独題の“3つの太陽”とはこれのこと)の惑星トリソラリスの種族がこれによって地球侵略を思い立つとか。科学者の網膜に映る謎のカウントダウンとか。「地球の過去の記憶」とゆーテーマを聞くと、個人的には『僕の地球を守って』……じゃないw 『未来のうてな』を思い出すなあ。
#昨今だとRewriteであるべきなのだろーか。
『世界の終わりの陸上部』は――別に、部活動の話なわけではないのだが。
35歳のエドガー・ヒルにとって、世界はすでに終わったようなものだった。でぶでのろまで。夫としては並以下。父親としても落第点。そんなある日。隕石の落下に伴う大災害で、彼の世界は急にシンプルになった。
家財引き上げのためにシティへ向かい、エジンバラの被災地キャンプへ戻ったとき、エドはそこに家族の姿がないことを知る。多国籍救助隊とともに、南岸へと疎開したというのだ。すべてを失ったエドは、おのが足だけで、家族のもとへと走り出した……。
途上、さまざまな社会不適格者たちと出会い、自身の欠点と向き合い、やがて旅の終点でエドを待っているのは、いったい何なのだろうか。これ、舞台背景はとってもSFだが、主眼は英国縦断人間ドラマだよなあ。
■KLP公式:Kurt Laßwitz Preis
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