カトロンの異人 -1-

ハヤカワ版, 誤訳

必ずしも、正しい翻訳でなければ読めない、というものでもないのだが。それにしたって限度があるだろう。
翻訳のせいか編集のせいかは、もう問うつもりもないが……商品としてどうかね。

ハヤカワ版:
 寝ざめがひどく悪かった。イリュージョンをうつしだす、大きなパネルに近づく。背景には公園の植物が見え、上空では雲がたなびき……しずかな朝だ。しかし、このままおだやかにすぎるはずがない。

原文:
 Er wachte schon mit einer äußerst schlechtenn Laune auf. Langsam geng er zu der riesigen Scheibe, die eine Illusion des Nichtvorhandenseins vorspiegelte. Hinter der großen Platte sah er die Gewächse des Parks, darüber denn Himmel, an dem sich die Wolken bewegten. Ein stiller Morgen brach an, aber der Tag würde keineswegs still bleiben.

試訳:
 寝ざめは最悪だった。ゆっくりと大窓に近づく。日々これ変わらぬ幻想のような風景が目に映る。ガラスのむこうには草木の繁茂する公園があり、空では雲がたなびいている。おだやかな朝だ。だが、このままですむはずがあるまい。
#何の説明もなく「イリュージョン」とやれば、公園の情景が虚像のように思えてしまう。

Scheibe には窓ガラスの意味があるので、普通に外の風景。ただし、人口過密なレイトではそれ自体が幻想めいている。

ハヤカワ版:
かつて、身長百八十センチメートルのからだは、全身がやわらかいグリーンの苔でおおわれていたもの。いまもプライドは失っていない。

原文:
Einstmals hatte sein Körper, bedeckt mit dem waichen, moosgrünen Haarwuchs, eine Höhe von hundertachtzig Zentimetern gehabt. Damals stand er gerade da und war ein Mann voller Stolz.

試訳:
かつてはモスグリーンの体毛に覆われていた身長百八十センチメートルの肉体。まだ背筋もしゃんと伸び、誇りに満ちあふれていた。
#それがいまでは、既述のとおり背が曲がって……というか、苔! デュイント人は若い頃、苔と共生しているとかいう設定を読み落としたかと思った。マジ勘弁。

ハヤカワ版:
パネルごしに見る公園は、おのれの権力を証明するものだ……そして、年齢を。

原文:
Er blickte durch die Scheibe, die so klar wie gute Luft war. Auch dieser Park war ein Zeichen seiner Macht – und seines Alters.

試訳:
晴朗な空のように透明なガラスごしに目をやる。この公園もまたおのが権力を証明するもの――そして、老齢を。
#ここで再度「窓」であることがわかる。

昔、50話「アトラン」とか100話「超種族アコン」とかを原書と照合したことがあるが、あれは実に勉強になったと思う。最近のは、正直苦行。誰かが言わなくちゃわからないとか、そういうレベルの問題でもないと思うが……。

そら読者減るって。むやみに難解だもの。

Posted by psytoh