時間超越 -10- part3 【終了】
というわけで、これにてようやく完結(最後の部分は、すでに3月に「犬とはマズいだろ……w」じゃないやw「時間超越 未来」としてアップ済み)なわけであるが……。
一気呵成にやったから、タイプミスとかあるかもしらんが、もう、上げてから直す(笑)
■253p
ハヤカワ版:
うなだれて、重い息を吐くと、嗚咽を漏らす。
しばらくしてから、気配を感じて顔をあげた。カリブソが彫像のあいだに立っているのを見て、
原文:
Alaska wälzte sich herum und lag schwer atmend auf dem Rücken.
Er hörte sich wimmern. Schließlich hob er den Kopf und sah Callibso zwischen den Statuen stehen.
試訳:
アラスカは横ざまに倒れこみ、重い息をつきつつ仰向けになった。
自分がすすり泣いているのがわかる。しばらくしてようやく顔をあげると、彫像のあいだに立つカリブソを見て、
最後に「顔をあげて」とあるから、反対に「うなだれて」としたのはわかる。わかるけど、これ、ひざまずいている体勢からごろりと仰向けになって、顔をおおって(仮面つきだけど)すすり泣いてるんでしょ。
まぁ、段落の区切りをいじるのは、とやかく言ってもしょうがないけど。「気配を感じて」って、カリブソはずっとそこにいただろう。単に、べそべそしてたのがおさまったから、ヤツアタリをはじめただけじゃないか。
■254p
ハヤカワ版:
それがすべて消えるとは。それも、ただ消えたのではない。都市を観察したかぎりでは、住人が一瞬にしていなくなったように見えた。
原文:
Sie konnten doch nicht einfach verschwunden sein. Es hätte Anzeichen für ihren Verbleib erkennbar sein müssen. Die Städte hatten auf Alaska den Eindruck gemacht, als wären sie von einer Sekunde zur anderen entvölkert worden.
試訳:
ひょいと消えてしまえるものではない。どこへいったのか、手がかりくらい残っていそうなものだ。なのに、都市の印象は、一瞬にして住人がいなくなったかのようだ。
なんか、おもしろい訳し方してるね(笑) 最初の文章を2回訳して、次の文章を削除してるわ。ちなみに最初の文章だけど、「(200億もいたんだから)そうあっさり消えてしまうことなんかできない」である。ぞろぞろどっかへ移動した痕跡が見あたるはずなのに、まるっきりないなあ、という流れなんだけど……。
「すっげー、一瞬にして消えてるぜ!」じゃ、話がつづかないじゃない。
ハヤカワ版:
ふたたび、歴史上の出来ごとに思いをはせる。これまで、人類がこういうかたちで消失した事例はないだろうか?
原文:
Wieder drängten sich geschichtliche Vergleiche in Alaskas Überlegungen. Waren nicht auch in ferner Vergangenheit ganze Völker einfach verschwunden, ohne daß es eine Erklärung dafür gab?
試訳:
またしても、史実との比較をせずにはいられない。遠い過去にも、民族まるごとがいきなり消失し、説明のつかない例がなかったろうか?
また、ということは最初があるのだが。おそらく彫像がティワナクのものと酷似している事実を指すのだろう。
とにかく、ここでアラスカは、マヤ文明の消滅とか、そうした事例を連想しているはず。あとは、それと現在との比較である。あ、比較(Vergleich)って、前半の文章で訳してないのか。
えーと、かなり強引だが、ないかなぁ、ではなくて、あったんじゃね? ということ。
ハヤカワ版:
アラスカは起きあがると、急いで人形使いのあとを追った。あばら家にたどりつくと、
原文:
Alaska erhob sich und rannte hinter dem Puppenspieler her. Er holte ihn kurz vor der Hütte ein.
試訳:
アラスカは起きあがると、人形使いを追って走った。小屋の手前で追いついた。
訳文だと、アラスカが戸口に仁王立ちしてそうだ(笑)
まあ今回は影響なかったけど、そうやって立ち位置をおろそかにすると、あとでまた辻褄合わせが必要になるかもよ?
ハヤカワ版:
異人の意識はこの人工の肉体を、完全にコントロールできるようになったのだろう。
原文:
Callibsos Bewußtsein schien diesen künstlichen Körper allmählich auch in dieser Beziehung zu beeinflussen.
試訳:
カリブソの意識は、人造ボディに、この点においてもしだいに影響をあたえつつあるらしかった。
訳文で、いいんだけどね……。原文、かなり抽象的だし。
ただ、個人的には、カリブソ(真)の意識が宿ると、人形のボディでも、ほら、こんなにエレガントに! ――という、TVショッピングめいたイメージがあるんだけどw
■255p
ハヤカワ版:
「また時間の井戸をぬけて、地球に行きたい。
原文:
“Ich muß sofort durch den Zeitbrunnen zur Erde.
試訳:
「いますぐ、時間の井戸をぬけて地球にいかなければ。
すぐ「~したい」と訳すクセは、どうにかした方がいいよ? müssen とか sofort とか、切迫感ある文章のはずが、「また行きたいなぁ」になっちゃってるじゃない。
ハヤカワ版:
だが、実効性はないな。
原文:
Sie ist undurchführbar.
試訳:
それは実行不可能だ。
じっこう違いかのw まぁ、誤訳というほどじゃないやね。
ハヤカワ版:
嘘ではないらしい。なにより、異人はすっかり落胆している。ふだんは時間を超越できるのだろうが、今回は無人の地球に対してしか“門”が開いていないのだろう。
原文:
Alaska hatte den Eindruck, daß er die Wahrheit hörte. Er war völlig niedergeschlagen. Die ganze Zeit über hatte er gehofft, zu der Menschheit zurückkehren zu können, aber jetzt stand ihm lediglich das Tor zu einer verlassenen Erde offen.
試訳:
聞いた感じでは、ほんとうのことらしい。アラスカはすっかり意気消沈した。ずっと人類のもとへ帰還できると期待していたのに、いまになって、見捨てられた地球への扉しか開かれていないとは。
カリブソに、がっかりする理由はない。この段落、ぜんぶアラスカが主語なのに、なんで時間超越とか、カリブソの話になっているんだろう。
ハヤカワ版:
次の日の深夜、
原文:
In der darauffolgenden Nacht
試訳:
その夜、
夜明けにカリブソが帰ってきて、そのままふたりで時間の井戸へ行っている。それにつづく(darauf-folgend)夜だから、きょうの夜のはず。
ハヤカワ版:
寝床から起きあがっても、音は消えない。
原文:
Als der Lärm nicht nachließ, stand Alaska von seinem Lager auf.
試訳:
音が鳴りやまないので、アラスカは寝台から起きあがった。
「音が静まらないとき、アラスカは寝台から起きあがった」である。順序が逆……というか、原因と結果が逆。
■256p
ハヤカワ版:
丘の中腹で、たいまつが数百、列をなして揺らめいていた。
原文:
Hunderte von flackernden Fackeln bewegten sich den Hang herauf.
試訳:
数百の揺らめく松明が、丘を登ってくる。
上にむかって動いている。別に、コンサート会場でウェーブしているわけではない。
アラスカのセリフまで、その情報が読者に伝わらないことになるのだが……。
ハヤカワ版:
松明の列は巨大なイモムシのように動いている。
原文:
Die Fackeln bewegten sich wie ein leuchtender Riesenwurm den Hang herauf.
試訳:
松明は輝く巨大なイモムシのように丘を登ってくる。
これも同じこと。なんとしても herauf を無視したいのか?
まあ、ここなら、すでに「登ってくる」とわかってはいるのだが……。
■257p
ハヤカワ版:
もし人形たちが小屋を破壊したら、“待避所”を失うことになってしまう……
しずかに考えながら、不気味な行進を見守りつづける。
原文:
Alaska begann sich Gedanken zu machen, wohin er sich zurückziehen konnte, wenn die Puppen damit beginnen sollten, die Hütte zu zerstören.
Während er noch überlegte, setzte die unheimliche Armee ihren Marsch fort.
試訳:
人形たちが小屋を破壊しはじめたら、どこへ退避したらよいものか、アラスカは思案した。
考えあぐねるうちにも、ぶきみな集団は行軍をつづける。
行軍を再開した、の方がわかりやすいだろうか。
ハヤカワ版:
なんと、人形使いは外にいる。シェーデレーアは愕然とした。小屋を出たのは、あきらめたからだろう。だが、小人は向きを変え、あばら屋にもどってきた。もしかすると、気が変わったのかもしれない。
原文:
Bestürzt wandte Alaska sich der kleinen Gestalt zu. Er sah, daß Callibso sich von der Hütte entfernte. Das war das Signal, daß er sie aufgeben wollte. Plötzlich machte der Zwerg kehrt und eilte noch einmal zu seine Behausung zurück. Alaska hoffte bereits, Callibso hätte sich anders entschieden, doch ein paar Sekunden später befand der Puppenspieler sich wieder im Freien.
試訳:
愕然として、アラスカは小人へと向きなおった。カリブソは小屋から遠ざかろうとしていた。放棄するつもりというシグナルだ。ふいに踵を返すと、もう一度住居へと駆けこむ。ひょっとして気を変えたかとアラスカは期待したが、数秒足らずで人形使いはまた表へとあらわれた。
えーと、最初に確認してほしいんだけど……アラスカの立ち位置、忘れた? ふたりは、小屋から走りだしていって、時間の井戸を見おろして――まだ、表にいるのだ。訳文、完全にアラスカが小屋の「中」にいるよね?
しかも、「カリブソが外にいる」ことに驚いているようだが。びっくりしたのは、人形使いが「デログヴァニアンを去る」ことを決意したからだろう。なにが、なんと、なんだか。
■258p
ハヤカワ版:
人形のたてる音はますます近づいてくる。カリブソがどうやって人形を創造したのかわからないが、“悪意”を付加したとは思えない。
原文:
Alaska hörte den Lärm der näherkommenden Puppenmeute. Auf welche Weise Callibso diese künstlichen Wesen auch geschaffen hatte, er wollte offensichtlich nichts mehr mit ihnen zu tun haben, nicht einmal im Bösen.
試訳:
人形の暴徒がたてる物音が近づいてくる。どうやってこの人造生命を創造したのかわからないが、明らかにカリブソは、もう関わりをもちたくないらしい。破壊することすらしたくないのだろう。
haben zu tun mit で「だれそれと関係がある」。ん、「付加した」って、まさか、この mit からか?!
im Guten wie im Bösen で「良きにつけ悪しきにつけ」。バラしても用いるようなので、ちょっと始末におえない熟語である(笑)
試訳では、上記2つの熟語から、「悪い関係=暴徒の撃退」と判断した。
しかし、ローダン読んでたら、上のやつは普通に頻出するはずなんだけどな……。
ハヤカワ版:
「だれも知らない場所だ」
原文:
“Wer weiß”,
試訳:
「だれにわかろう」
Who knows、である。オレだってわかんねぇよ、だ。ちょっと……これくらいはわかってよ。
ハヤカワ版:
いずれも棍棒など、原始的な武器を手にしており、それで小屋を解体しはじめる。あたりに破片が飛び散ると、こんどは松明を地面に投げた。炎がたちまち燃えあがり、まもなく建物全体に火がまわる。その明かりで、はじめて人形がはっきり見えた。どれも人間にそっくりだ。しかし、顔がない!
原文:
Sie drangen mit primitiven Schlagwerkzeugen darauf ein und begannen sie zu zertrümmern. Dann warfen sie Fackeln auf den Boden. Sofort loderten Flammen hoch. Alaska sah zu, wie die Trümmer Feuer fingen. Der gesamte Platz, auf dem das Gebäude gestanden hatte, war jetzt hell beleuchtet. Alaska konnte die Puppen sehen. Es waren menschenähnliche Gebilde, die kein Gesicht besaßen.
試訳:
原始的な槌や棍棒を手に押しよせると、叩き壊しはじめた。それが終わると、松明を投げる。たちどころに炎が高々とあがった。アラスカは火が残骸をなめるのを見つめた。小屋のあった敷地全体が、煌々と照らしだされている。人形たちが見えた。人間そっくりだが、顔がない。
Schlagwerkzeug で、「叩く道具」。打撃兵器というよりは、火かき棒とか麺うち棒を連想してしまうのはなぜだろう。あ、どっちも用途「叩く」じゃないやw
だいたい、試訳の方が直訳だと思ってほしい。内容的には変わらないのだが、いちいち原文と言葉がちがっている気がして、ちょっと取りあげてみた。
■259p
ハヤカワ版:
時間の井戸に向かう途中、消えた松明の下に、薄いフォリオがはさんであるのを見つけた。風に飛ばされないように、わざとそうしてあるようだ。拾いあげて、調べる。
原文:
Auf dem Weg zum Zeitbrunnen war eine erloschene Fackel in den Boden gesteckt. Alaska sah, daß eine dünne Folie daran befestigt war, die sich leicht im Wind bewegte. Er löste sie von der Fackel und untersuchte sie.
試訳:
時間の井戸への途上、燃えつきた松明が地面に刺さっているのをみつけた。薄いフォリオが留めてあり、かすかに風にそよいでいる。松明からはずして、調べてみた。
フツーに落ちてるだけだったら、見落としちゃうかもだ。目立つように、立ててある。
■260p
ハヤカワ版:
「わたしのからだをみつけたら、すぐ破壊してもらいたい」転送障害者は読みあげた。
原文:
Zerstöre meinen Körper, sobald du ihn findest, las der Transmittergeschadigte.
試訳:
『わたしのからだを見つけたら、すぐ破壊してもらいたい。
や、別に音読したとは書いてないし(笑) カッコもつけないイタリックで書いてあるだけだから、文面に目を通しただけでそ?
ハヤカワ版:
では、異人は時間の井戸をくぐるさい、人形のからだをはなれ。超自我だけの存在にもどったのか?
原文:
Alaska runzelte die Stirn. Bedeutete das, daß Callibso nicht durch den Zeitbrunnen war, sondern lediglich sein Über-Ich aus dem Puppenkörper zurückgezogen hatte?
試訳:
アラスカは眉をひそめた。これはつまり、カリブソは時間の井戸を使わず、人形のからだから超自我が脱けでただけということなのか?
超自我が時間の井戸を使った、という描写は1回もなかったはず。ダッカル次元泡でも星系から星系へ、ふつーに移動してたもの。また、最後にふらふら旅立っていくあたりからも、超自我が物理法則に縛られていないのは、ほぼ確実。
ハヤカワ版:
カリブソは自分に、隠遁して生きる道を提供したのだ……理由はわからないが。
原文:
So rätselhaft wie Callibso in Alaskas Leben getreten war, hatte er sich auch wieder zurückgezogen.
試訳:
あらわれたとき同様、謎めいたまま、カリブソはアラスカの人生から退場したのだ。
いや、そう読む方が、理由がわからないからっ。普通、誤訳って、読みちがいとか読み落としとか、それらしいミスがわかるもんだけどねえ。
原文は直訳すると、「アラスカの人生に歩みいってきたときと同じくらい謎っぽく、再び今度は引きさがった。」くらいだろうか。
■261p
ハヤカワ版:
テラナーは注意深く近づくと、岩を振りかざし、人形の頭部をなぐりつけた。頭部はかんたんに割れ、四肢が痙攣すると、やがて動かなくなる。
原文:
Alaska schlich sich vorsichtig näher. Als sich eine günstige Gelegenheit bot, hob er den Arm und schmetterte der Puppe den Stein auf den Kopf. Sie brach zusammen. Ihre Arme und Beine zuckten, in ihrem Innern wurde ein Scharren hörbar.
試訳:
アラスカは注意深く忍び寄った。機会をうかがうと、腕を振りあげ、相手の頭に石をたたきつけた。人形はくずおれた。四肢が痙攣し、その体内から、きしるような音が聞こえる。
えーと。性と数と格と時制がまちがってなければ、そうおかしな訳になりそうもない、と以前書いたわけだが。なぜかをしめす恰好の例が登場した。Sie brach zusammen. だ。
まず主語は Sie だが、文頭のため大文字なので候補が無駄に多い。Sie 「あなた、あなた方(ともに丁寧語)」、sie 「彼女、それ(女性名詞)、彼ら、それら」……。
一方、分離動詞 zusammenbrechen は「砕く、砕ける、崩れ落ちる、挫折する」等いろいろ意味があるのだが、文中の変化形は過去・一人称と三人称単数に対応する brach zusammen である。遡って、主語は単数の「彼女、それ(女性名詞)」ということになる。
アラスカが打擲にもちいたものは、石 der Stein。たたきつけた部位は、頭 der Kopf。どちらも男性名詞であり、代名詞は er になるはず。それでは女性名詞になりそうなものは、と見まわすと、人形 die Puppe がみつかった。
――という具合に、ちょっとパズルのようだが、この文章を構成する要素は追跡調査が可能となる。「頭がぱっくりいった」ではなく、「人形はくたくたっと倒れた」のだ。
なんでこうまで執拗に説明したかというと、ここで「頭がぱっくりいった」ために、次の段落も、不可能が可能になってしまっているからである。
ハヤカワ版:
アラスカはしばらく躊躇したあと、人形の胴体をこじあけることにした。何度か岩をぶつけるが、意外に頑丈である。ようやく、一部がのぞけるようになったものの、ロボットのようなメカニズムがないとわかっただけである。
原文:
Alaska schlug noch ein paamal auf sie ein, dann rührte sie sich nicht mehr. Vergeblich versuchte er, ihren Körper gewaltsam zu öffen und einen Blick in ihr Inneres zu werfen. Sie war zu stabil. Er würde nie erfahren, ob sie ein Roboter oder irgend etwas anderes war.
試訳:
さらに何度か殴ると、人形は動かなくなった。アラスカはそのボディをこじあけ、中身を見ようとしたが、あまりに頑丈すぎた。これがロボットなのか、もっと別のものなのか、わかることはないだろう。
vergeblich 「無駄に、いたずらに、むなしく」がある時点で、その試みは成功していないわけだが……。石で殴ったくらいで頭がぱっくりいくのに、ボディをこじあけられないわけがないと思ったのか、段落まるごと切った貼ったして、なんだか穴があいたみたいな結末になっている。実際には、頑丈すぎて、中身は見られなかったのだ。
ハヤカワ版:
やがて、近くにシリンダー帽が落ちているのを見つけ、なかを調べた。だが、各種器具は消えている。
原文:
Alaska nahm der Puppe den Zylinder vom Kopf, aber die Instrumente, nach denen er suchte, waren verschwunden.
試訳:
アラスカは人形の頭からシリンダー帽を取りあげたが、探してみても各種器具は消えていた。
石で殴りつけても、かぶったままだったのだ。ちがう意味で頑丈すぎる(笑)
あと、シリンダー帽 Zylinder だが、カリブソのイラストを見たことのある方はご存じだろう。まんまシルクハット Zylinder である。
■262p
ハヤカワ版:
孤独な男はその後、たえず悪夢に悩まされるようになった。
原文:
Die folgenden Tage vergingen für den einsamen Mann wie ein Fiebertraum.
試訳:
つづく数日は、孤独な男にとり、熱にうかされた夢のようにすぎていった。
夜見るのは悪夢かもしれないが、べつに昼間幻覚に悩まされてるわけじゃ(まだ)ないよね。
ハヤカワ版:
あれ以来、都市は死にたえたようである。人形の姿は見えず、気配も感じなかった。また、カリブソが帰還した形跡もない。
原文:
In der Stadt rührte sich nichts mehr. Die Puppen schienen ihre Häuser nicht mehr zu verlassen. Es gab keinerlei Anzeichen für eine Rückkehr Callibsos.
試訳:
都市には動きがまったくない。人形たちは家屋から出てこないようだ。カリブソの帰還をしめす徴候もない。
うん、ちょっとがんばりすぎかな(笑) 著者が小出しにしている分まで放出しちゃった感がある。「死にたえた」「気配がない」とまで書くと、あとでアラスカが、人形が「死滅」しているのを発見しても、驚かなくなっちゃうさw
■263p
ハヤカワ版:
時間の井戸を使えば、いつでも逃げることができる。
原文:
Der einzige Ausweg aus dieser Situation war der Zeitbrunnen.
試訳:
この状況からの唯一の脱出口は、時間の井戸だ。
まあ……言ってる内容は、おおよそ変わらないけどね……。
ハヤカワ版:
それでも、たえず地球の運命について、考えてしまう。どのようなカタストロフィが二百億の住人を脅かしたのだろうか? それとも、そのカタストロフィはすでに“起こって”しまったのだろうか?
原文:
Alaskas Gedanken kreisten ständig um das Schicksal, das die zwanzig Milliarden Bewohner Terras bedrohte. Welche Katastrophe stand auf der Erde bevor? Hatte sie inzwischen schon stattgefunden?
試訳:
200億のテラ住民を脅かす運命について、たえず考えてしまう。地球を待ちうけるのは、いかなる災厄? それはもう起きてしまったのだろうか?
訳文だと、どっちも「過去」じゃないかw いろいろいじりすぎなんだよ。
ハヤカワ版:
市内のほかの場所でも、状況は変わらなかった。
原文:
Der Terraner war sicher, daß es überall in der Stadt genauso aussah.
試訳:
きっと、市内いたるところがこのありさまなのだろう。
まだ、見てまわっていない。一軒目の状況からの推察である。
ハヤカワ版:
ある日の寒い夕方、
原文:
Die Tage wurden kürzer, die Abende empfindlich kalt.
試訳:
日が短くなり、夜は肌寒くなってきた。
いやー、これを「ある日の夕方」って訳せる胆力だけは見習いたいわ(笑)
……性も数も格も時制も比較級もどうでもいいんだな。
まあ、後の記述と照らし合わせると、アラスカは4月末にこの惑星に到着し、12月初頭にテラへむかう。半年以上、孤独にすごしているのだ。季節も変わるわけやね。
ハヤカワ版:
建築材料はいくらでも入手できたし、町にいけばたいていの日用品がそろっていたのである。
原文:
Baumaterial stand ihm genügend zur Verfügung, die gesamte Stadt gehörte jetzt praktisch ihm.
試訳:
建築資材なら好きなだけある。いまや都市全体が事実上かれのものなのだ。
zur Verfügung については、先だって書いたよね。好きにする――というのは、おそらく、万里の長城ばらして石材利用するようなもんだ(笑)
日用品? だれがそんな話してるんだっけ。
■264p
ハヤカワ版:
ある朝、目ざめると、雪が降っていた。デログヴァニエンではじめての雪だ。あたりの風景が白い色に染まっていく。
どうやら、すべてを失いたくなかったら、この惑星を去らなければならないらしい。
原文:
Als er eines Morgens erwachte und der erste Schnee des Jahres die gesamte Landschaft weiß gefärbt hatte, war Alaska sicher, daß er das Ende des Winters auf Dergwanien nicht mehr erleben würde.
Wenn er den Verstand nicht völlig verlieren wollte, mußte er diese Welt verlassen.
試訳:
ある朝めざめると、初雪で風景がまっしろに染まっていた。このままでは、デログヴァニエンで冬の終わりを迎えることはあるまいと、確信があった。
理性を根こそぎ失いたくなければ、この世界を離れなければならない。
まあ、凍死すると思ったのかはさておき。無駄に削除してる部分多すぎだろう、これ……。
ハヤカワ版:
二百億の人間は、じつは消失しなかったのかもしれない。あるいは、あとでテラに帰還したか。ともあれ、そこに行けば、すべてが明らかになるだろう。
勇気を持たなければ。
原文:
Zwanzig Milliarden Menschen konnten nicht einfach verschwinden, redete er sich ein. Sie würden zurückkehren. Alles würde sich als Irrtum herausstehen.
So sprach er sich selbst Mut zu.
試訳:
二十億もの人間が、ぱっと消失するはずがない。きっと戻ってくる。なにもかも間違いだったと、明らかになる。
そうやって、みずからを鼓舞した。
自分が到着の「時点」で、人間の姿がないことは、理解している。そのあと、戻ってくるにちがいない――と、嘘でもいいから自分を奮い立たせるために言いきかせている。なので、原文は仮定の未来なのだ。
ハヤカワ版:
アラスカ・シェーデレーアはデログヴァニエンを去り、テラに向かうことにした。カリブソの調整を信じるなら、伝統的テラ暦で三五八一年十二月には、到達するはずである……
*
時間の井戸をぬけると、雪原に出た。地表はすっかり雪におおわれている。
原文:
Dann, als man überall dort, wo Menschen lebten und die Zeit in herkömmlicher Weise maßen, den Dezember des Jahres 3581 erreicht hatte, verließ der Transmittergeschädigte Alaska Saedelaere Derogwanien.
Er benutzte den Zeitbrunnen, der unmittelbar nach dem Verschwinden des Terraners erlosch. Eine schneebedeskte Bodenfläche blieb zurück.
試訳:
そうして、人類が暮らし、旧来の暦を用いるすべての場所で、三五八一年十二月をむかえるころ、転送障害者アラスカ・シェーデレーアはデログヴァニエンを離れた。
使用された時間の井戸は、テラナーが通過してまもなく消失した。あとには雪におおわれた大地が残された。
なにが困ったって、段落どころか、*印までいじってることだ。しかも、話がつながっている個所に挿入して、訳がおかしくなっている。訳文だと、井戸使ったのはカリブソになっているわけだが……五十嵐さん、自分で原文読んでるか? まじで翻訳ソフト使ってない? 原文にない「カリブソによる調整」とか、ソフトが訳せてないところを原文にあたらないでいじっているとしか思えないわ。ひどすぎ。
■265p
ハヤカワ版:
カリブソの超自我はあたりを観察し、愕然とした。アラスカ・シェーデレーアがいないのだ。
テラナーはこの決定的段階を予想していなかったはず。
原文:
Callibsos Über-Ich, das ab und zu zu den alten Plätzen zurückkehrte, um sich umzusehen, wunderte sich, daß es Alaska nicht mehr antraf.
Eigentlich hatte es dem Terraner diesen entscheidenden Schritt nicht zugetraut.
試訳:
観察のため、時折もどってきていたカリブソの超自我は、アラスカに遭遇しなかったことに驚嘆した。
テラナーがこの決定的な一歩を踏みだそうとは思っていなかったのだ。
後の文の主語 es は、超自我が中性名詞なので。これも、そもそも何が主語なのか、ちゃんと確認できてないから、こんな変な訳文になる。「この決定的段階」って、なんなのか説明してほしいわ。
ハヤカワ版:
超自我は大宇宙で“新しい家”を探すため、捜索の旅に出た。
原文:
Sein Über-Ich wanderte durch die Räume auf der Suche nach einer besseren neuen Heimat.
試訳:
超自我は、幾多の空間をぬけて漂泊する。新たなる、よりよき故郷をもとめて。
……。
やっぱ300巻のころに、無理してでも全文照合やっとくべきだったか、とつくづく思うわ。だれもなんにも言わないから、悪化してるじゃないか。こんなん、わしだったら、冥土でフォルツに顔合わせられんぜ。
「月2回もあるんだから、そんなに時間かけられん」とか言うなら、月1に戻せばよろし。正直、こんな誤訳だらけの読まされてる日本の読者は悲惨だぞ?
ディスカッション
コメント一覧
長期連載お疲れ様でしたw
他の訳者さんもこんなレベルなんでしょうか
それとも五十嵐さんがダントツでアレなんでしょうか
後者ならすげ替えればある程度改善されそうなもんですが
前者だと・・・うーん困るなぁw
西塔さんが統括やってくださいw
ご愛読ありがとうございます^^
これでようやく、いつものダラダラしたペースに戻れます(笑)
一連の記事を見て頂戴した反応のひとつに、
> これだけ原文とちがってて、とにかく形にできるんだから、ある意味すごいよね。
というものがありましたがw
個人的には、すでに月2回刊も半年になろうかと思いますが、それを含め、これまで一度もオトしていないのは正直すごいと思っています。定期的な作業をこなしつづけるのって大変ですよね。内幕は存じませんが、なんだか複数の訳者のスケジュール調整とか、むしろ編集者的な部分もうけもってそうだし。
え、わたし?
いつも一向にやる気を出さないのを、飴と鞭であやつるのにマガンが苦労しています(笑)
だいたい、1話チェックに1ヵ月半かかったら、月2回どころか毎月だって無理じゃないですかwww