時間超越 -3- part2

ハヤカワ版, 誤訳

うう……ぜんぜん進まん……。
どんどん細かいとこを切り捨ててるわけだが、それでも3章、3分割で終わるかどーか。
まあ、休みのときにガーーーッと入力すればいいんだが……それで休みツブすのもどーだかなぁ。

■159p

ハヤカワ版:
通常空間側の出入口も崩壊したようである。
原文:
Auch der Eingang zu ihnen war vom Zusammenbruch bedroht gewesen.

試訳:
(接続部への)入口も崩壊寸前である。

ここでいう「接続部」というのが次元トンネルであることはおわかりだろう。カリブソの超自我は現在ルーテにいて、そこで「(トンネルへの)入口」というのだから、通常空間側ではなく、次元バルーン側である。

ハヤカワ版:
 この奇妙な現象は、空間のあいだの空間にエネルギーの混沌が生じたために起きた。
原文:
Dieser unerklärliche Vorgang hatte bewirkt, daß es im Raum zwischen den Räumen zu einem energetischen Chaos gekommen war.

試訳:
 この原因不明の崩壊が、空間のはざまの空間にエネルギーの混沌をもたらした。

逐語訳すると、「この説明のつかない現象はもたらした、空間のはざまの空間でエネルギーの混沌にいたることを」。原因と結果が逆である。

■160p

ハヤカワ版:
いままで、もっと大きなミスがあったときも、あきらめたことはない。
原文:
Jetzt aufzugeben, wäre ein großer Fehler gewesen.

試訳:
いまあきらめることは、大いなる過ちであるはずだ。

ギャンブルで大ハマりしているときの人間の心理のようなものか(笑) 幸いカリブソの場合、ジャックポットをひいたようだが……。ちなみにこの文章は、過去完了ではなく接続法II式。

ハヤカワ版:
全滅した形跡がない以上、ほかに説明がつかなかった。
原文:
Eine andere Erklärung gab es nicht, wenn man nicht die Vernichtung der Fremden im Verlauf der Katastrophe zu akzeptieren bereit war.

試訳:
ほかに説明はつかない。カタストロフの渦中でテラナーが壊滅したことをうけいれるなら別だが。

後半を直訳すると、「もしカタストロフの過程で異人たちが壊滅したことをうけいれる用意がなければ」――うけいれれば、「ほかに説明はつく」のである。

■161p

ハヤカワ版:
 実際には、そうなった場合はこの時間の井戸を破壊するつもりである。それを人形に伝えないことに、うしろめたさを感じた。自分自身がこの人形を創造したのだから。
原文:
Er verriet nicht, daß er für diesen Fall die Vernichtung des Zeitbrunnens auf Derogwanien geplant hatte. Manchmal hatte er ein schlechtes Gewissen, wenn er die vielen von ihm geschaffenen Puppen sah.

試訳:
 その場合はデログヴァニエンの時間の井戸を破壊する計画であることは話さない。自分が創造した大量の人形を見ると、ときおり、良心のうずきをおぼえるのだ。

schlechtes Gewissen は翻訳が難しい。なにせ、ドイツ語圏の掲示板で、「schlechtes Gewissen ってどんな意味?」というスレッドをみつけてしまったくらい(笑) うしろめたさ、やましさ、良心の呵責、罪悪感……気がめいる、不安になる(このへん、英訳から孫引き)とかいうケースもあるようだ。カリブソが大群の建造、生命の播種等にかかわっていることを考えると、生命ならざる生命をつくってしまった罪悪感ととるのが一番いいかもしれない。ただ、そうすると次の文章とのつながりがいまいち……うーん。ヤな気持ちになる、ってわけにもいかんしなぁ。

ハヤカワ版:
 だが、すべてを失ってこの惑星を去るよりは、数段いい。
原文:
Es war besser, wenn sie keine Gelegenheit bekommen, Derogwanien zu verlassen.

試訳:
人形たちには、デログヴァニエンを離れる機会のないほうがよろしい。

あまり人目に触れさせたくないのか、あとで出てくるような暴走をおそれたのか。惑星を去らない方がいいのは sie =人形たちである。

ハヤカワ版:
次に意識ある夢にはいったときが、見失ったシュプールを再発見する、唯一のチャンスになるはずだから。
原文:
denn je eher er den nächsten bewußten Traum einleiten konnte, desto größer war seine Chance, die verlorene Spur wiederzufinden.

試訳:
次に意識ある夢にはいるのが早いほど、見失ったシュプールを再発見するチャンスが大きくなるのだから。

je(比較級), desto(比較級)で、「~なほど…」。要するに、時間がたてばたつほど、足跡は消えていくものなのだ。ましては現場はどしゃぶりみたいだし(笑)
あえて「夢にはいるのが遅れるほど、手がかりを再発見するチャンスが小さくなる」と逆に訳した方が、緊迫感は出るかもしれない。……ハヤカワ版はその段階すっとばして遠くまでいっちゃったぽい。これは、まあ、わたしの考える「超訳」の範疇ではあるが。

ハヤカワ版:
 アラスカ・シェーデレーアは男女乗員の唖然とした表情を観察していた。人々はこの事態を、《ソル》の安全を脅かすものとは考えていないようだ……あるいは、考えたくないのか。全員、闇のスペシャリストは信頼できる同盟者だと考えている。だから、その知識や技能は、かならず人類に役だつものと思っているのだろう。
 それで、こうした状況にもかかわらず、人々は冷静に行動しているのだ。
 だが、アラスカにいわせると、現実から目をそむけているとしか思えない。
原文:
Die Betroffenheit in den Gesichtern der Männer und Frauen ringsum machte Alaska klar, wie wenig man mit einer Aktion der Spezialisten der Nacht gerechnet hatte, die sich auch bei einer wohlwollenden Betrachtung nur als Angriff auf die Sicherheit des Schiffes interpretieren ließ. Man hatte sich bereits darauf eingestellt, daß die Dimensionauten zuverlässige Verbündete waren, die ihr Wissenn und Können ausschließlich in den Dienst der Menschen stellten.
Dabei es nur logisch, daß eine solche Gruppe auch eigene Interessen verfolgte, ungeachtet der von den Menschen als feststehend angenommenen Gegebenhaiten.
Wie blind wir doch waren! dachte Alaska.

試訳:
 周囲の男女の唖然とした表情を見れば、どう贔屓目に見ても船の安全に対する攻撃としか思えない闇のスペシャリストの行動を、予想だにしていなかったことが、アラスカにもわかる。人々はすでに、次元航法士たちを信頼に足る同盟者、その知識と技能は最終的に人類のためになるものだと考えていたのだ。
 とはいえ、論理的に考えれば、そうしたグループとて独自の利益を追求し、人類がゆるがぬものとうけとめる事実を顧慮しないことは充分ありえた。
 われわれ、なんと盲目だったことか! アラスカは思った。

wohlwollend は「好意的」。einstellen auf で「~的な立場に立つ、~を標準とする」。ただし、現在完了形なので、過去そうしてきた、という表現。艦内に無断でブラックホール作られて、「ああ、あれ、オレたちのためにしてくれてるんだ」とか考えるやつがいたらどうかしてるっしょ。
次の段落は「そいつらだって人類の固定観念無視して利益追求すると考える方が論理的」。
盲目……はコードにひっかかるのかな。まあ、それ以前に、目をそむけてる場所がちがってるけどね、ハヤカワ版だと。

■162p

ハヤカワ版:
「このような質量が船内にあること自体が、非常に危険です!」
原文:
“Es wäre viel zu riskant, mit einer solchen Masse an Bord etwas zu unternehmen.”

試訳:
「こんな質量を載せたまま何かをしようとすること自体が、あまりに危険です」

なにやっても危険なのはわかるが。

ハヤカワ版:
「超光速飛行を試みてはいけない!」
原文:
“Es ist überhaupt kein Überlichtflug möglich”,

試訳:
「そもそも超光速飛行ができません」

いちいち言ってる内容が微妙に異なるのは、なんでかね?

ハヤカワ版:
「もう遅すぎる」と、チーフが応じる。「貯蔵室にこもった時点で、オルウに説明をもとめるべきだった。そうすれば、ブラックホールを排除できたかもしれないが……」
原文:
“Vielleicht später”, entgegnete Rhodan. “Sobald wir den Lagerraum abgesperrt haben, werde ich mit Olw zu verhandeln versuchen. Ich werde ihn um Erklärung bitten und ihn auffordern, das Black Hole zu entfernen.”

試訳:
「それはまた後だ」と、ローダンが応じる。「倉庫を封鎖ししだい、わたしがオルウを交渉を試みる。説明をもとめ、ブラックホールの除去を要請しよう」

ミュータントは、ひょっとして交渉が決裂したら、あ・と・で(はあと)
あいかわらず、時制を読む気がないね……。もはや脳内翻訳だのぅ。

ハヤカワ版:
 マスクの男はかぶりを振った。もし貯蔵室を封鎖しても、状況はほとんど変わらなかっただろう。チーフもそれはわかっているはずだ。心理学的計測手段は《ソル》乗員が信じているほど精密ではない。
原文:
Alaska bezweifelte, daß Absperrung des Lagerraums überhaupt möglich war. Wahrscheinlich glaubte auch Rhodan nicht an den Erfolg einer solchen Aktion. Die Maßnahmen wurden aus psychologischen Gründen ergriffen. Die Besatzung der SOL sollte glauben, daß man in der Zentrale Herr der Situation war.

試訳:
 倉庫の封鎖が可能か否か、アラスカは懐疑的だ。おそらくはローダンもそうした作戦で成果があがるとは思っていまい。対策は心理学的見地からとられたもの。《ソル》乗員に、司令室の人々が事態をコントロールしていると信じさせるためなのだ。(改行)

とりあえず、対策をうったふりで(以下、次の項へ)

ハヤカワ版:
 そこで、ローダンは時間を節約した。
 闇のスペシャリストがなにを意図しているのか、そのまま見守ったのである。
原文:
Rhodan arbeitete offensihtlich auf Zeitgewinn.
Zunächst einmal mußten die Verantwortlichen herausfinden, was die Spezialisten der Nacht vorhatten.

試訳:
 ローダンは明らかに時間稼ぎをしている。
 司令室の幹部たちも、まずは闇のスペシャリストがなにを意図しているのかを探りだす必要があった。

意図を探りだす必要がある→時間がかかる→対策をうったふり→信じた乗員たちはひと安心。
訳文だと、あまりに無責任……つーか、計測手段って、なにー?

■163p

ハヤカワ版:
封鎖処置のためだろうか? アラスカにはそうは思えなかったが。
原文:
Alaska war überzeugt davon, daß sie die Absperrungsmaßnahmen registriert hatten, aber das schien ihnen nichts auszumachen,

試訳:
かれらが封鎖処置を認識したのをアラスカは確信していたが、それもどうでもいいことらしかった。

んー。誤訳、じゃないよね。ややはしょりすぎな気もするが。

■165p

ハヤカワ版:
 もちろん、かれらを行かせるのも、制止するのもかんたんである。
原文:
Es wäre natürlich einfach gewesen, gegen die zwölf Zgmahkonen vorzugehen und sie auszuschalten.

試訳:
 もちろん、ツグマーコン人十二名を攻撃し、排除するというのは単純明快だ。

動詞 vorgehen に gehen(行く)が入っているからといって、「行かせる」と訳すのはあまりにお粗末。vorgehen gegen … で「~に立ち向かう、攻撃する」。ausschalten「スイッチを切る」は、以前このブログで書いたとおり、「抹殺する、始末する」の意。

あとは、実際に対策が講じられ、「始末」することが不可能と判明するのはもうちょい後のことなので、末尾は訳文のまま、「攻撃して排除するのはかんたんである。」の方が素直かもしれない。そっちのが、次の文章ともつながりがいいしなあ。

■166p

ハヤカワ版:
 カリブソはまた“意識ある夢”にはいる前に、ある程度の準備をととのえた。経験から、超自我が空間のあいだの空間に到達した瞬間に、混沌とした状況を思いだして、反射的に逃げもどる可能性があると知っている。それを防ぐには、充分に休養をとって、精神力の回復をはからなければならない。
 しかし、一方でシュプールを見逃さないためには、急ぐ必要があった。そこで、ある程度のリスクをおかすことにしたのである。かならずしも、超自我が肉体に逃げもどるとはかぎらないから。
原文:
Bevor er seinen nächsten bewußten Traum antrat, bereitete Callibso sein Über-Ich auf die chaotischen Verhältnisse im Raum zwischen den Räumen vor. Er wußte aus Erfahrung, daß das Über-Ich sich daran erinnern würde. Auf diese Weise wollte er eine erneute spontane Flucht ausschließen. Wenn er überhaupt noch Hiweise finden wollte, mußte er sich beeilen. Deshalb wartete er nichts bis zur völligen Wiederherstellung seiner psychischen Kräfte, sondern entschloß sich, ein gewisses Risiko einzugehen. Er konnte sich zwar keine Situation vorstellen, in der das Über-Ich nicht in den physischen Körper zurückkehrte, aber völlig auszuschließen war diese Möglichkeit nicht.

試訳:
 カリブソはつぎに意識ある夢にはいる前に、超自我を空間のはざまの空間の混沌とした状況に対して準備することにした。経験から、超自我がそれを思いだすことはわかっていた。この方法で、再度の突発的逃走をふせごうというのだ。もし手がかりをみつけたければ、急がねばならない。そこで、精神力の全快まで待たず、一定のリスクをおかすことにした。超自我が肉体に帰還しない状況は想像できないが、その可能性がまったくないわけでもなかった。

ハヤカワ版は一見スジが通っているが、原文とはだいぶちがっている。段落を2つに分けたのは、まあ、いい。原文も、そこで内容的には分かれているといっていいだろう。
そのわりに、原文の意味が、訳文に反映していないのはなぜなんだろうね……?

ハヤカワ版:
恒星は地平線に近づき、
原文:
Im Licht der noch tiefstehenden Sonne

試訳:
まだのぼりきらぬ恒星の光に

noch tiefstehend で、「まだ低い位置にある」かな。なので、訳文だと「夕方」だが、「朝まだき」なんじゃないかと思われ。うーん、もっとも夕方の太陽をこうやって表現する前例があると降参だけど。

■167p

ハヤカワ版:
あまりにゆっくりとした変化なので、ワリンジャーの訓練された目でも、最初はそれとわからなかったようだが。
原文:
Der Prozeß wickelte sich langsam ab, aber Waringers gschulten Augen war der Beginn nicht entgangen.

試訳:
プロセスはゆっくりと進行するが、ワリンジャーの訓練された目はそのきざしを見逃さなかったのだ。

接続詞が aber なんで、前後の文章の内容は相反するはず……。

ハヤカワ版:
 ローダンも同じことを考えていたらしい。
原文:
Rhodan war sich darüber im klaren, daß er nicht länger abwarten konnte.

試訳:
 ローダンにも、長くは待てないことはわかっていた。

ぜんぜん、おなじことじゃないし。
darüber…daß が、「daß以下について」である。ふつーの関係代名詞なんだが。

ハヤカワ版:
 アラスカ・シェーデレーアが見守るうち、
原文:
(なし)

試訳:
(なし)

確かに、アラスカ視点の話だとは、前回書いた。しかし、原文にある場所、ザックザク削っておいて、ないとこに挿入するセンスが理解できんわー。

力尽きたので、今回はここまで。
次回は、ミュータントがらみが大変なことに……orz

Posted by psytoh