時間超越 -3- part4
「時間超越」ツッコミの7回目、第3章の最終回である。
今回は、長い文章が多くて入力に手間どった。みずからやってることながら、正直勘弁してほしい。もうちょっとマシになってるだろうと予想してたのに……。
嗚呼、4章も後半真っ赤っかになっちまったしorz
と、とりあえず、172pから再開~。
■172p
ハヤカワ版:
ようやく専門家会議が招集された。各セクションの責任者たちが、《ソル》司令室にやってくる。
原文:
rief Rhodan die Verantwortlichen zu einer Besprechung in die Zentrale der SOL.
試訳:
ローダンは協議のため、各セクションの責任者を《ソル》司令室に招集した。
うん。これはイチャモンの部類。でも、こういう場合、専門家じゃなくて、幹部会議って言わない? 確かに科学者はワリンジャーしか見かけなかった気もするけど。このあと協議されるのも、むしろ《ソル》運営の問題だしさ。
■173p
ハヤカワ版:
貯蔵室のブラックホールは、そのあいだもゆっくりと膨張をつづけた。いまでは直径六メートルに達し、さらに“成長”をつづけている。
原文:
Das Black Hole im Lagerraum hatte inzwischen einen Durchmesser von sechs Meter erreicht und schwell weiter an.
試訳:
倉庫のブラックホールはその間に直径六メートルに達し、さらに膨張をつづけていた。
重要なことだから2回言いましたか?(笑)
ハヤカワ版:
闇のスペシャリストはこの創造物があたえる破滅的効果をほとんど考慮していないらしく、結果的に《ソル》内ではさまざまな“不利益”が生じたもの。
原文:
Die ungeheuerlische Masse dieses Gebildes hätte zweifellos eine Katastrophe heraufbeschworen, wenn die zwölf Spezialisten der Nacht die schädlichen Auswirkungen ihrer Schöpfung nicht weitgehend abgeschirmt hätten. Trotzdem häuften sich die Zwischenfälle an Bord der SOL.
試訳:
その怪物的な質量がカタストロフィを招かなかったのは、闇のスペシャリストが被造物の悪影響をおおかた遮断していたからだろう。それでも、《ソル》船内ではハプニングが相次いだ。
試訳はかなりの意訳。直訳すると、「その物体の怪物的な質量は、疑いもなくカタストロフィを招いただろう(推定)。闇のスペシャリストが、その被造物の悪影響をおおかた遮断していなかったとしたら(仮定)。」。
ハヤカワ版、華麗に超訳したつもりだったとしたら、それはそれで泣ける話である……。
ハヤカワ版:
やがて、《ソル》の幹部も、こういう方法ではうまくいかないと、あきらめはじめた。
原文:
Der eingeleitete Prozeß, darüber waren sich die Verantwortlichen an Bord einig, war nicht mehr aufzuhalten.
試訳:
《ソル》幹部の意見も一致するところだが、動きだしたプロセスはもうとどめようがなかった。
動きだしたプロセス、というのは、闇スペがブラックホールをつくって何やらやりはじめたこと、ととるべきだろう。コンタクトとれないから、とめられない。これを、あきらめた、と強弁してできないことは、ないこともないけどね……。何をあきらめたのかが、わかってないとこみると、そういうわけでもなさそうだし。
ハヤカワ版:
司令室に収集された幹部たちは、かぎられた時間内で結論をださねばならず、それは決して楽観的なものではなかったのである。実際、テラ科学陣もドブラクも、ブラックホールが成長を加速させるか、どこかで停滞するか、その一点ですら見解の一致を見ることがなかったのだ。しかも、テラ科学者のなかには、ブラックホールが最後には船全体をのみこむと考える、悲観論者も多数いた。
原文:
Die Mitgleider der von Rhodan in der Zentrale des Schifes einberufenen Konferenz waren sich darüber im klaren, daß alle Entscheidungen unter Zeitdruck getroffen werden mußten. Weder Dobrak noch die Wissenschaftler an Bord vermochten zu sagen, ob das Wachstum des Black Holes sich verlangsamen oder beschleunigen würde. Es war nicht abzusehen, welche Große das Black Hole schlißlich erreichen würde. Die Pessimisten unter den Wissenschaftlern befürchteten nach wie vor, daß es schließlich das gesamte Schiff verschlucken würde.
試訳:
ローダンによって司令室に招集された会議のメンバーにわかっているのは、あらゆる決定を時間との競争で下さねばならないということ。ドブラクもテラ科学陣も、ブラックホールの成長が減速するか加速するかさえ予測できない。ブラックホールが最終的にどれほどのサイズになるかはいうに及ばずである。科学者のなかのペシミストたちは、依然として、それが最後には船全体をのみこむことをおそれていた。
結論というか、複数形だし。そもそも結論出てないし。これから協議するのに結論出しちゃう(笑)から、次の会話がおかしくなるんだよね。それでいて、サイズの話はカットされてるしなあ……。
■174p
ハヤカワ版:
バラインダガル銀河での経験以来、《ソル》乗員はこうした“不条理”を、現実のものとして認めるようになったのだ。
原文:
Nach den Erlebnissen der SOL-Besatzung in Balayndagar war diese Vorstellung für Alaska Saedelaere alles andere als absurd.
試訳:
バラインダガルにおける《ソル》乗員の経験に照らせば、アラスカ・シェーデレーアには、そうした想像もばかげているとはとうてい思えなかった。(改行無し)
そう、原文はアラスカ視点なのだ(くどい)。
nach は「~の後ろに(位置)、~の後で(時間)」以外にも、「~に従って(基準)」等の意味もある。「そうした想像」というのが、「船全体がブラックホールにのみこまれる」なのは言うまでもない。形容詞 absurd は「不条理な、ばかげている」で、alles andere als ~が「~以外のすべて」転じて「決して~ではない」。
ハヤカワ版:
「セネカとセタンマルクトが、あらたな計算結果を伝えてきた」と、ローダンが議論に割りこむ。
原文:
“Im Verlauf dieser Diskussion werden neue Berechnungen von SENECA und dem Shetanmargt erwartet”, eröffnete Rhodan die Beratungen.
試訳:
「ディスカッションの途中で、セネカとセタンマルクトからの新しい計算結果が出るはずだ」と、ローダンが議論の口火をきって、
新しいデータ入力したから、じき計算結果が出ると思うよ、である。eröffnen で「開封する、(会議等を)はじめる」。上で書いたとおり、結論は、このあとの討論で出すので、割りこむも何も、はじまってないのだ。
ハヤカワ版:
「結果はネガティヴだった。ドブラクやわれわれの科学陣同様、解決策は見つからなかったということ」
原文:
“Ich muß Sie jedoch davon unterrichten, daß Dobrak und unsere Wissenschaftler sich von dieser Aktion keine Lösung erhoffen.”
試訳:
「ただし、ドブラクや科学陣がこの方法では解決は見込めない考えだということも、申し添えておかねばならない」
つまり、計算を「いましてる真っ最中」という事実が、「結果を伝えてきた」という誤訳にひきずられて、ネガティヴとか創作に走っている始末。結局、文章の時制がどうなってて、いま何がおこっているか、という一番基本的な事実がなおざりにされているっぽい。しかも、後でそれと矛盾した文章に遭遇するとさらに修正。……原文より脳内妄想優先なのは、いまにはじまったことではないけれど。
ハヤカワ版:
「ブラックホールの出現自体が、われわれには説明できない現象だ。したがって、これが《ソル》サイズまで膨張する可能性も、否定はできない」
原文:
“Es erscheint uns allen unvorstellbar, daß das Blask Hole im Lagerraum bis zur Größe der SOL anwachsen könnte”,
試訳:
「倉庫のブラックホールが《ソル》サイズまで膨張しかねないとは、われわれ皆にとって想像しがたいことと思う」
unvorstellbar は、「想像できない」。動詞 vorstellen は、「紹介する、前に出す、思い描く」等多くの意味をもつが、これを説明がつかない、と訳すのは想像できなかった(笑)
ハヤカワ版:
いまいちばん重要なのは、このブラックホールがこれまで、闇のスペシャリストにより中性化されていたという点だ。おそらく、ああやって円陣を組むことで、活性化させるのだろう。
原文:
Die schlimmsten Auswirkungen dieses Black Holes wurden bisher offenbar von den Spezialisten der Nacht neutralisiert. Wir wissen nicht, wie sie das machen, aber der Kreis, den sie gebildet haben, hängt offenbar unmittelbar damit zusammen.
試訳:
このブラックホールの最悪な影響は、これまで明らかに闇のスペシャリストによって中立化されている。どうやっているのかはわからないが、かれらの組むあの円陣がこれと密接に関係していることは明白」
173pにもあった、闇スペが「悪い効果を遮蔽している」ことを公表している。だから、円陣が開いたらヤバいんでね? という話である。つづくセリフも、そう。
■175p
ハヤカワ版:
「ブラックホールが貯蔵室大になっても、それがただちに危険を意味するものではない」と、言葉をつづける。「むしろ、スペシャリストの環が“開いた”瞬間、その内部にもぐりこむチャンスが生じると思う」
原文:
“Die absolute Gefahr beginnt also für uns nicht erst, wenn das Black Hole über die Grenzen des Lagarraum tritt”, fuhr Waringer fort. “Sobald sich der Kreis der Spezialisten öffnet, werden wir in unerträglichem Maß von den Auswirkungen dieser kleinen Schwarzen Null betroffen sein.”
試訳:
「つまり、絶対的な危険は、ブラックホールが倉庫のサイズを超える時点ではない」と、ワリンジャーはつづけて、「スペシャリストの環が開いたその瞬間、われわれは、あの小さな黒いゼロの耐えがたい影響にさらされるのです」
……と、ワリンジャーが語っているのは、要するにタイムリミットの話。チャンスが生じる、と言ってるとしたら、その後のローダンの「賢明な提案は?」は、かなり娘婿をバカにしたセリフである(笑)
ハヤカワ版:
それとも、船内に逃げ場があるのか?
原文:
Wohin sollte man vor einer Gefahr fliehen, die sich im Schiff selbst entwickelte?
試訳:
船自体の内部に発生した危険から、どこへ逃げろと?
ちなみに前文も、「故郷がまたしても危機に瀕している。今回は逃げ道がない。」である(家、が好きだねえw)。まあ、このへんは主観になるが、ソラナーは「船で逃げたい」のだ、ホントは。それをどう表現するかだと思うんだけど……。
ハヤカワ版:
「軍事的介入は最善の打開策ではありません。しかし、現在の状況を見るかぎり、軍事行動も正当化されるでありましょう。船の一部が破壊されるかもしれませんが、全滅するよりはましです」
原文:
“Wir sind der Ansicht, daß wir unsere militärischen Möglichkeiten bisher nicht optimal eingesetzt haben. Die augenblickliche Situation rechtfertigt unserer Ansicht nach auch Aktionen, die eine großen Teil des Schiffes zerstören würden. Das ist immer noch besser als der Verlust des gesamten Schifes.”
試訳:
「われわれ、軍事的手段がこれまで最適な投入をなされていないという見解です。現状を鑑みて、船の広範なエリアを破壊しかねない作戦も正当化されると、われわれは考えます。それでも、船自体をうしなうよりはましです」
この場合の「われわれ」は、ヘルムートが代表する「《ソル》生まれ」。全滅、じゃなくて、かれらは故郷をうしなうことが何よりこわいのだ。いままで遠慮してたかもしれないけど、許可するから助さん格さんやっておしまいなさいなのである。
■176p
ハヤカワ版:
ヘルムートは反対する者がいないと考えているようだ。アラスカはそこに、《ソル》生まれの特殊な心理的重圧を見てとった。
原文:
Alaska gestand sich ein, daß er solche Einwände von Helmut am allerwenigsten erwartet hatte. Jetzt machte sich die besondere psychologische Belastung der SOL-Geborenen bemerkbar.
試訳:
こんな異議がよりによってヘルムートから出てこようとは、アラスカは思いもしなかった。《ソル》生まれの特殊な心理的重圧が露呈したかたちだ。
動詞 eingestehen は「告白する、認める」。am allerwenigsten は「あらゆるもののなかで一番少なく」予期していた、ので、思いもよらなかった、となる。アラスカは、「考えてませんでしたー」と認めざるをえなかった、ということ。船を故郷と考える《ソル》生まれが、まっさきに船の破壊を許容する提案をしたことに驚いているのである。
ハヤカワ版:
それに、正確ではないが……もし十二名を強制的に排除したら、あのブラックホールはコントロールを失って、暴走するだろうな」
原文:
Ich halte es inzwischen für völlig falsch, diese zwölf Wesen auszuschalten, denn dann würden sich das von ihnen geschaffene Black Hole unkontrolliert entwickeln.”
試訳:
いまではわたしは、あの十二名を強制排除しようとするのは完全に誤りだと考えている。そんなことをすれば、かれらのつくったブラックホールは無制御に成長するぞ」
正確ではないが……って、そもそも、さっきワリンジャーが言ったじゃない、闇スペの手をはなれたらブラックホールの影響がヤバいって(笑)
ハヤカワ版:
「仮定にひきずられていたら、いつまでたっても答えは出ないと思いますが」と、ヘルムートが抗議する。
原文:
“Ihre Antwort beweist, daß Sie immer noch von der Annahme ausgehen, daß sich alles wie von selbst regeln wird”, warf Hellmut Rhodan vor.
試訳:
「そのお答えでわかりますよ。いまだに、放っておけばすべてなんとかなると考えておられる」と、ヘルムートが非難する。
まあ、主人公がなにもしなくても解決するのはATLANヘフトの方だし(笑)
von der Annahme ausgehen が「仮定に基づいている」……直訳は「仮定から逃れられない」かな。なので、文章を逐語訳すると、「あなたの回答が証明している、あなたが依然として仮定に基づいていることを、すべてがひとりでに規則を守るという」。
訳文自体は悪くないと思うんだけど、原文の「答え」って、前にあるローダンのセリフのことだしなあ。
ハヤカワ版:
制御された核爆発なら、効果があるでしょう」
原文:
Wir müssen vorübergehend einen kontrollierten Atombrand schaffen.”
試訳:
一時的に、制御された核火災をおこせばよろしい」
直訳は、「われわれは一時的に、制御された核火災を生み出さなければならない」。核爆発はまずいでしょ(笑) 船の大半を破壊してもオッケーな原文にひきずられたかな。
■177p
ハヤカワ版:
それに、核爆発を起こしたら、貯蔵室の防護壁では耐えきれないだろう」
原文:
Abgesehen davon bezweifle ich, daß der Atombrand über die Barriere hinweg einen Einfluß auf die Vorgänge im Lagerraum hätte.”
試訳:
それはさておいても、核火災が障壁をこえて倉庫内の事態に影響をおよぼせるかは疑問だがね」
さておいたのは、「殺人は正当化されない」こと(笑) まぁ、あえて訳さないのが正解か。
で、原文中でバリアーって言ってるのは、ブラックホールのオーラのことかと思われ。だいたい、倉庫の壁がこわれたからって、闇スペ排除が目的なら願ったりかなったりじゃないか。
ハヤカワ版:
「実際、これが最良の選択肢となるだろう」
原文:
“Und genau das werden wir tun!”
試訳:
「そして、実際われわれ、そうするつもりだ!」
……提案して協議してから決定しよーぜー、ローダン(汗) 自分で言ってて盛りあがっちゃったのかなあ。genau は「ちょうど、正確に、まさに」等の意味。訳文自体は、かなりソフトに意訳した感じだろうか。
ハヤカワ版:
しかし、それほど悪いアイデアではなかった! 搭載艦艇の大半は、ヒュプトン銀河の辺境を充分に調査できるだけの、エンジンを装備しているのだから。チーフはその点も見落としてはいなかったのである。
原文:
Aber das war nicht das Schlimmste! Rhodan schien vergessen zu haben, daß kaines der Tochterschiffe Triebwerke besaß, die stark genug waren, um die Grenzen der Hyptongalaxis zu überfliegen.
試訳:
だが、最悪なのは、そこではなかった! どうやらローダンは、搭載艇にはヒュプトン銀河をはなれられるだけの出力のあるエンジンは装備されていないことを、失念しているらしかった。
ちなみに、この段落も、「アラスカ・シェーデレーアは思案した。」が抜けている。アラスカが考えただけで、実情にはそぐわない可能性もあるわけだが……。
最初の文は、「しかし、それが最悪というわけではなかった!」で、「それ」とは前文すなわち「故郷からの追放」である。そこを、「それは“最悪じゃない”だった」と読んだので、後半とつながらなくなったようだ。「さすがチーフ!」までいくと、もはや失笑モノ。
ハヤカワ版:
さらには、ヒュプトン銀河で立ち往生するという意味も。
原文:
Darüber hinaus schien Rhodan sich mit der Tatsache abzufinden, für alle Zeiten in der Hyptongalaxis festzusitzen.
試訳:
それはさておいても、永遠にヒュプトン銀河に島流しになるという事実をローダンは見のがしているのではないか。
über ~ hinaus で「~を越えて、~を過ぎて」。hinaus 単体で「~から外へ」なので、前文の内容「《ソル》破壊の容認」を通りこして、と読んでみた。訳文は、いろいろ削ぎ落として、前文と並列の形をとっているが、それもひとつの手だと思う。
■178p
ハヤカワ版:
「それはどうかな。《ソル》とともに死を迎えるよりは、軽巡での生活を選ぶ乗員のほうが、はるかに多いと思うが」
原文:
“Sie würden es tun”, prophezeite Rhodan. “Wie jedes andere Wesen ziehen Sie ein Weiterleben an Bord eines Leichten Kreuzers dem Ende an Bord der SOL vor.”
試訳:
「応じるとも」と、ローダンは予言して、「他のあらゆる生物同様、《ソル》で死ぬよりは軽巡で生きるほうを、きみたちとて選択するさ」
原文の Sie は《ソル》生まれ全体ととる方がすっきりする。
ハヤカワ版:
メントロ・コスムの助手の若いサイバネティカーが手をあげて、
原文:
Der junge Kybernetiker erhielt unerwartet Hilfe von Mentro Kosum.
試訳:
若きサイバネティカーに予期せぬ援軍があらわれた。メントロ・コスムが、
若いサイバネティカー、というのは、当然ジョスカン・ヘルムートを指す。エモシオ航法士の助手?にサイバネティカーって、五十嵐さん、どんだけローダン・シリーズの内容考慮してんの……。コロム=ハンの助手(サブ)は、2名ともエモシオ航法士だったよねぇ。
直訳すると、「若きサイバネティカーはメントロ・コスムからの予期せぬ助けを得た。」。
……訳文みると、助けっつーよりかは、すっぱり切捨ててるっぽいけど(笑)
ハヤカワ版:
「全乗員が疎開すれば、《ソル》は使命を達成できなくなります。したがって、いまここでそれを論じるのは、無意味だと思いますが」
原文:
“Wenn wir die gesamte Besatzung evakuieren, kommt das einer Aufgabe der SOL gleich”, sagte er. “Über die sich daraus ergebenden Konsequenzen braucht nicht diskutiert zu werden.”
試訳:
「全乗員が疎開するなら、それは《ソル》の使命と同等。そこから導きだされる結論については、論議する必要もないかと」
試訳が硬いので、まだいまいちわかりづらいが。コスムはきっとこう言いたいのだ。「俺たちのいるところ、それが《ソル》だ!」(違
たぶん、《ソル》の使命もいっしょに疎開してるんだよー、ということだろう。さて、《ソル》生まれに、この手の仲間意識が通用するのかな、と思ったら――
ハヤカワ版:
ことによると、まもなく船のコントロールをとりもどせるかもしれないのだから」
原文:
Vielleicht können wir schon bald an Bord unseres Schiffes zurückkehren.”
試訳:
ことによると、すぐにまたわれらが船に帰還できるかもしれない」
こちらは、対《ソル》生まれの、ものすごく即物的な懐柔である。がんばれ、デイトン(笑)
ハヤカワ版:
だれの目にも明らかだ。《ソル》生まれもこの決定に同意せざるをえない。
原文:
Es war klar, daß die SOL-Geborenen sich seiner Entscheifung beugen würden.
試訳:
《ソル》生まれが、かれの決定にしたがうことは明らかだ。
難癖に近いのは承知。ただ、ヘルムートの決定にしたがうのは、《ソル》生まれ「も」ではないことに注意。かれは、《ソル》生まれの発言者である。乗員全体の意向を代弁するものではない。
ハヤカワ版:
「では、作業にかかりましょう!」
原文:
“Wir machen mit!”
試訳:
「ごいっしょしますよ、われわれも!」
動詞 mitmachen は「ともに(行動)する」。なので、疎開する、参加する、応じる等、ヘルムートの意思表示であって、命令形ではない。上述のとおり、《ソル》生まれの発言者にすぎない。というか、「わかりましたよ、いけばいいんでしょ、いけば!」くらいな気がするのはわたしだけ?
■179p
ハヤカワ版:
「テラナーは計算システムを必要とするのだろう?」
原文:
“Sie brauchen mich für den Rechenverbund”,
試訳:
「合同計算脳のために、わたしが必要なのだろう?」
うーん。いまいちしっくりこない。時制を無視して「~必要だったのだろう?」ってやった方が落ちつくわ、ここ。あるいは「わたしを必要としたのは、計算システムのためだろう?」かな……。ほとんど痴話げんかのセリフみたいだなw
■180p
このへんから、会話の内容が微妙にズレている。いくつか連続してとりあげてみる。
ハヤカワ版:
「どうでしょう? わたしも残るべきだと思いますが」
原文:
“Was halten Sie davon, wenn ich ebenfalls an Bord bleibe?”
試訳:
「わたしも残るといったら、どう思われます?」
ハヤカワ版:
「なにか思うところがあるようだな?」
原文:
“Was veranlaßt Sie zu dieser Frage?”
試訳:
「なぜ、そんな質問を?」
ハヤカワ版:
「そうではないのですが」(中略)本心だ。とっさに思いついただけである。
原文:
“Ich weiß es nicht”, gestand der Transmittergeschädigte wahrheitsgemäß. Er überlegte, wie er auf diesen spontanen Einfall gekommen war.
試訳:
「わかりません」(中略)どうしてこの突然の思いつきにいたったのか、自分でも首をひねった。
素直に訳せば、特につながりに苦しむ文章ではない。最初にけつまずいている感じだ。
アラスカ自身、自分がなんでこんなことを言いだしたのか、よくわかっていない。なんでかというと、後述されるとおり、本能の赴くまま、何も考えないで行動を決めているからである。すごいな、それでも活性装置をもらったローダンの側近だ!(笑)
ハヤカワ版:
「セネカはたえず最新情報を報告してくる。それをチェックしてくれ。計算システムがいつまで正常に作動するか……それはわからないが」
原文:
“SENECA wird uns über Funk zwar ständig über die Entwicklung berichten, aber wir wissen nicht, wie lange der Rechenverbund unbeeinflußt bleibt.”
試訳:
「セネカはたえず最新情報を通信経由で報告することになっているが、合同計算脳がいつまで影響をうけずにいられるかわからないのだ」
オートメーションがダメなら人力で報告よろしゅう、ということだろう。でも、その場合、通信にも影響出てるんじゃないのかなあ。
■181p
ハヤカワ版:
「本気なのだな?」
原文:
“Was wollen Sie wirklich?”
試訳:
「ほんとうの望みは何だ?」
ハヤカワ版:
さらに、殲滅スーツと細胞活性装置という存在もあった。そのうちいつか、自分が大宇宙の秩序のなかでどういうポジションに置かれているか、理解できる日もくるだろう。
原文:
Unter dem Einfluß seines Zellaktivators und des Anzugs der Vernichtung hatte Saedelaere sich weiterentwickelt. Irgendwann hatte er begriffen, daß er in wunderbarer Weise in eine kosmische Ordnung eingegliedert war.
試訳:
活性装置と殲滅スーツの影響もあって、シェーデレーアはさらに先に進んだのだ。いつしか、自分が驚くべきかたちで宇宙秩序のなかに組み込まれていることも理解した。
後の文は過去完了形……つまり、物語の時点での過去をあらわしている。未来ではない。というか、1章冒頭で、アラスカのことを「宇宙的人間」ein kosmischer Mensch と言っているのは、ここにつながっていたわけだ。
ハヤカワ版:
おのれが大宇宙の運命とつながっているという認識は、アラスカのなかで本能的に育まれたものであった。その背景になにがあるかも、無意識下で知覚しているような気がする。たとえば、今回の出来ごとも、その一端であるように思えた。
原文:
Zusammen mit dieser Erkenntnis war in Alaska der Instinkt für kosmische Zusammenhänge erwacht. Er traf viele Entscheifungen unbewußt, ohne zunächst die Hintergründe zu verstehen.
試訳:
そうした認識とともに、アラスカのなかで、宇宙的関連に対する本能がめざめていた。多くの決断を、無意識に、背景を知ることのないまま下した。
ハヤカワ版:
「わかった。たのむ、アラスカ」と、ローダンが決定する。
原文:
“Kommen Sie mit uns, Alaskä, drängte Rhodan.
試訳:
「いっしょに行こう、アラスカ」と、ローダン。
ハヤカワ版:
シェーデレーアは頭を下げた。チーフには、自分に対する命令権がないから、あくまで自由意志によるのだが。
原文:
Dankbar erkannte Saedelaere, daß Rhodan ihn aus der Befehlsgewalt entließ und ihm freistellte, eine Entscheidung zu treffen.
試訳:
感謝の念とともに、アラスカは気づいた。ローダンは命令という拘束を解き、かれ自身に自由な決断を下させようとしてくれたのだ。
ローダンは、ドブラクに対して命令権はないけど、アラスカはちがう、と180pで言っている。なので、「いっしょに行こう」というセリフを命令(決定)ととると、感謝する必要がなくなってしまう。命令でなく、お誘いなら、断ってもオッケーという話。
……。
ある意味、予想通りなのは、抽象的な話ほど訳が混乱していること。ほかは、まあ創作まじりとはいえ、その場では筋の通った文章になっているのだが。章の前と後ろで設定が変わったりするのはご愛嬌か(をひ
まあ、クライマックスの訳がアレだし。やる気ないんじゃろなあ。
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