時間超越 -4- 前編
そろそろ「時間超越」は新刊ネタではなくなるのだが……やむなし(笑)
※2019/6/13追記:当時のカテゴリーは「新刊(ハヤカワ版)」だった。
4章も2回に分けてお送りする。ちょっと大物誤訳があるので、そこまでなんとか。
むかし、これはじめた頃(「消えた仮面の男」あたり)は、正誤表みたいなつもりでいたのだが……もう、表なんかじゃ、ダメだこりゃ(長さん風に。
それではいってみませう、W・フォルツ原案、五十嵐洋著、な「時間超越」へのツッコミ第8回~。
■182p
ハヤカワ版:
“疎開”がはじまった。いままでのところ、だれも“逃避”という言葉は使っていない。
原文:
Gemessen an der Geschwindigkeit, mit der die Evakuierung vollzogen wurde, hätte sie eher die Bezeichnung “Flucht” verdient.
試訳:
疎開がおこなわれた速さは、いっそ“脱出”と呼ぶほうがふさわしかった。
Gemessen は動詞 messen「測定する」の過去分詞。
「速度――疎開が実行された速度――で計ってみると、それ(疎開)は、(疎開というより)むしろ名称“脱出”にふさわしい」となる。
ハヤカワ版:
いわゆる“救難計画”はこれまでも数多く立案されてきたが、実行されたのはこれがはじめてである。《ソル》ははじめて“緊急事態”に遭遇したといっていい。
原文:
In allen Rettungsplänen war eine solche Evakuierung vorgesehen, aber es gab sicher keines unter den Besatzungsmitgliedern, das ihr bisher mehr als theoretische Bedeutung beigemessen hatte. Nun war der Ernstfall eingetreten.
試訳:
あらゆる救難計画において、こうした疎開は予想されていた。だが、これまで乗員たちのひとりとして、それに理論として以上の重きをおいていたものなどいなかった。それがいきなり、本番である。
わたしはわりと直感で訳してしまうクチで、わからないとなると本当にわけわからんことになってしまうのだが、そういうときはマガンから、「だから、頭から訳せばいいんだよ。逐語訳だけど、意味は通るで?」としごく順当なご指摘をいただくハメになる。
その伝でいくと、この訳文、直感どころの話ではなくなっている。消えた単語いくつあるんだ。というか、そもそもこの段落で話題の「疎開」という単語が見あたらないのだが……。
ハヤカワ版:
アラスカ・シェーデレーアはテラナーが次々と《ソル》をあとにするのを見守った。結局、船にのこったのは、ドブラク、闇のスペシャリスト十二名と自分だけだ。
《ソル》……鋼の巨大な構造物、技術の奇跡あるいは怪物は、いまや完全に無力だった。短い命を終えた、巨大な柩といってもいい。
原文:
Alasak konnte nur erahnen, was in den Menschen vorging, die die SOL verlassen mußten. Für ihn selbst war die Entwicklung gespenstisch. Die Vorstellung, allein mit Dobrak und den zwölf Spezialisten der Nacht an Bord zu sein, war bedrückend. Er stellte sich diese riesige stählerne Hülle vor, in der er völlig bedeutungslos war. Dieses technische Monstrum, das ihm umschloß, war zu einem gewaltigen Sarg geworden, in dem sich noch für kurze Zeit Leben regen würde.
試訳:
アラスカには、《ソル》を去らねばならない人々の胸中に去来するものなど、推しはかるしか術はない。かれ自身にとって、この展開は奇怪きわまる。船内にドブラク、闇のスペシャリスト十二名と自分だけ、と想像すると圧倒される。この巨大な船殻のなかで、自分はまったくの無力。かれを包みこむ科学技術のモンスターは、あとわずかばかりのあいだ生命が蠢くだけの、巨大な柩と化した。
gespenstisch は訳が難しいのぅ…… unheimlich と同義のようだが。
あいかわらず、原文と訳文で単語の修飾が組み替えパズルである。そのうえ、時制があってないので、アラスカでなく船が無力だとか、まだ生命体が乗っているのに御臨終になっていたりする。原文の意味、まるで伝わっとらんやないか。あ、誰が船内に残ってるかだけは合ってるのか(笑)
ハヤカワ版:
「さて、どうする?」と、ドブラクが腹に響く声でたずねる。
原文:
“Kommen Sie?” drang Dobraks Stimme in seine Gedanken.
試訳:
「行かんのか?」と、ドブラクの声がかれの思考をやぶった。
ハヤカワ版:
「というと?」
原文:
“Wohin?”
試訳:
「どこへだ?」
上記2つはワンセット。まあ、このくらいは意訳でいいじゃない、と言われそうだ。単に、素直に訳せばいいのに、と取りあげただけなのだけど。
■183p
ハヤカワ版:
「では、自分だけでやってみる!」ドブラがクゆっくりと歩きだす。「道はかならず見つかるはずだ」
原文:
“Machen Sie sich keine Sorgen!” Dobrak bewegte sich langsam auf den Ausgang zu. “Ich werde einen Weg finden.”
試訳:
「心配することはない!」ゆっくりと出口にむかって歩きだしながら、「道なら、わたしがみつける」
「あなたは死なないわ……。私が守るもの」(笑)
いや、ぜんぜん関係ないんだけどね。実はけっこう自信家なんだと思うのだ、ドブラク。
■184p
ハヤカワ版:
ケロスカーがなにを考えているにしても、それは実現しないだろう。それでも、アラスカは異人に同行したかった。だが、明確な命令を無視するべきだろうか? 結局、チーフの指示にしたがうことにする。
原文:
Obwohl Alaska Dobraks Vorhaben für undurchführbar hielt, fühlte er sich enttauscht. Er erkannte, daß er den Kelosker gern begleitet hätte. Sollte er den Befehl Rhodans ignorieren? Seine Gefühle schienen ihn dazu bewegen zu wollen, aber sein Verstand riet ihm, die Anordnungen Rhodans zu akzeptieren.
試訳:
ケロスカーのもくろみは実現不能だと考えつつも、アラスカは落胆していた。自分も同行したかったことに気づいたのだった。命令を無視すべきだろうか? 感情はそうしろとそそのかす一方で、理性はローダンの指示を受けいれろと告げていた。
結局、この文章内では、アラスカはどっちにするか決断できていない。宇宙的本能(笑)と人間的理性のはざまで揺れ動いている状態で、次のドブラクの行動でなしくずしとなる。
訳文:
計算者はそれを悟ったのか、踵を返すと無言で司令室を出ていった。
原文:
Dobrak schien zu erraten, daß Saedelaere in der Zentrale bleiben würden, denn er wandte sich ab und ging wortlos hinaus.
試訳:
ドブラクは、かれが司令室に残るものと思ったのだろう。踵を返すと無言で出ていったから。
これは上記のとおり、アラスカがどうするか、まだ決めかねている状態に合わせた。
■185p
ハヤカワ版:
「貯蔵室に到達するまで、スクリーンで追ってくれ」
「いまは一時的に見えていません」
原文:
“Wenn er sein Ziel erraichen sollte, werden Sie das auf den Bildschirmen erkennen können.”
“Vorläufig ist nichts zu sehen!”
試訳:
「かれが目標にたどりつければ、そこのスクリーンでわかるはずだな」
「さしあたり、何も見えません!」
実際、カメラは倉庫あたりに集中してむけられているのか、途中にいるドブラクを追跡するようすは(少なくとも映像的な点については)まったく見うけられない。ビッグブラザーはいつも君を見ているんじゃないのか、ローダン(笑)
#6章見てると、できそうなんだけどねぇ。カメラによる追尾w
ハヤカワ版:
ドブラクは反重力リフトで、闇のスペシャリストがいるデッキに下りるはず。それまではすることがない。こうしていると、あらためて緊張をはらんだ静寂がのしかかってくる。音は聞こえず、動くものもない。あるのは“呼吸”するブラックホールだけだ。
黒いゼロは“息を吸いこむ”ごとに《ソル》からさまざまな物質を吸収し、“吐きだす”ごとに通廊や各区画を破壊していく……。
原文:
Er konnte sich vorstellen, wie Dobrak den Antigravschacht erreichte und zu jenem Deck hinabglitt, wo die Spezialisten der Nacht das Black Hole geschaffen hatten. Der Mann mit der Maske empfand die Stille im Schiff mit nie erlebter Intensität. Nichts rührte sich, nichts verursachte auch nur das geringste Geräusch. Und doch war Bewegnung im Schiff. Es war, als hätte das Black Hole zu atmen begonnen.
Mit jedem Atemholen saugte das Schwarze Loch etwas von der Substanz der SOL in sich hinein und jedesmal, wenn es ausatmete, verströmte es seine unheilvolle Kraft in Räume und Gänge des Schiffes.
試訳:
ありありと想像できた。ドブラクが反重力シャフトで闇のスペシャリストのいるデッキに下りるさまを。船内の静寂を、かつてないほど強く感じる。動くものとてなく、ことりとも音はしない。なのに、船内に動きがあるのだ。ブラックホールが呼吸をはじめたかのように。
黒い穴は、息を吸うごとに《ソル》の機材を呑みこんでいき、また息を吐けば災いに満ちた力を船の通路や部屋に流しこんでいく……。
このへん、基本的にはアラスカの妄想(笑)である。もっとも、後の部分で、「倉庫からのパルスが強くなった!」と電波受信してたりもするのだが……。
ハヤカワ版:
ケロスカーもまだ、ロボット・カメラの有効範囲内には、はいっていないようだ。
原文:
obwohl der Kelosker jetzt im Aufnahmebereich der Robotkameras hätte auftauchen müssen.
試訳:
そろそろケロスカーがロボット・カメラの写角にはいっていなければおかしいのに。
漫然と見ているだけではなくて、いろいろ疑念が渦巻いているのである。
ハヤカワ版:
「セネカのコンソールに移動してくれ。
原文:
“Setzen Sie sich mit SENECA in Verbindung”,
試訳:
「セネカとコンタクトしてみろ」
セネカとの会話についてだが、セタンマルクトとの合体後、どうなっているのかわからない(前書いたとおり、読めてないからorz)。しかし、それ以前は、ふつうに「セネカ!」「はいはい、なんでござんしょ」と、音声だけでいけたように思うのだが。
以下、何回かセネカ関連の部分をとりあげているが、そこは「音声認証のためマイクに話しかけているイメージ」だと思っていただきたい。これ、わたしの主観(独断)である。
ハヤカワ版:
音声接続のスイッチを入れるだけでいい。
原文:
brauchte er nur eine Sprechverbindung zu SENECA herzustellen. um ihn zu befragen.
試訳:
質問するため、セネカへの音声コンタクトをつけるだけでいい。
ハヤカワ版:
とはいえ、たとえセネカでも、ドブラクの所在はわからないのではないかと思う。
原文:
Er schreckte jedoch davor zurück. Innerlich war er überzeugt davon, daß man Dobrak in keiner Weise bei seinem Vorgehen stören durfte.
試訳:
しかし、アラスカは尻込みした。内心、どんな形でもドブラクの行動をさまたげてはならないと確信していたのだ。
訳文は、完全に訳者さんの主観。わたしの主観で言わせてもらえば、セネカはわかるけど教えないだろう。「行動をさまたげてはならない」からだ。
■186p
ハヤカワ版:
孤独な男は計算システムのスイッチを切り替え、認証を終えた。
原文:
Der einsame Mann in der Zentrale der SOL beugte sich nach vorn, stellte eine Verbindung zum Rechenverbund her und identifizierte sich.
試訳:
《ソル》司令室でただひとりの人間は身を前にかがめて、合同計算脳とコンタクトをとると、認証をおこなった。
いまだったら、声紋認証なんだろうと思うが……削孔テープから14年だからな……。
で、「身をかがめ」てるのは、マイクに口を近づけたんだと、思うんだけど。はてさて。
ハヤカワ版:
《ソル》生まれとして、“故郷”が心配でいてもたってもいられないのだろう。たえず帰還の可能性を探っているにちがいない。
原文:
Alaska erkannte mit einem Blick, daß es die Sorge um das Schiff war, die Hellmut belastete. Die SOL-Geborenen zählten wahrscheinlich jede Minute, bis sie wieder zurückkehren konnten.
試訳:
アラスカは、ヘルムートが船を心配するあまりおしつぶされそうなのをひと目で見抜いた。おそらく《ソル》生まれたちは、船にもどれるまで毎分を数えつづけているのだろう。
「――嗚呼……もう離船してから34分28秒……」
「――や、秒までは数えないから」
■187p
ハヤカワ版:
「かれらなら、計算システムの機能がどうなったか、知っているはずです!」
原文:
“Sie wissen, wie wichtig die Funktionsfähigkeit des Rechenverbunds für das Schiff ist.”
試訳:
「《ソル》にとって合同計算脳の機能度合がどれほど重要か、あなたもご存じでしょう」
えーと。ドイツ語で、sie は「彼ら(複数)、彼女」、Sie は「あなた、あなた方(ともに丁寧語)」の意味があり、かつ文頭だと大文字化するから混同しやすくて……とか、弁護する気も必要もぜんぜん感じないぞ? ここんとこは、前後関係からみて、明らかに「《ソル》(の搭載脳)の機能不全を軽視する、けしからんアラスカにお説教」の図である。
■188p
ハヤカワ版:
「もう一度いう。ケロスカーが闇のスペシャリストのもとに到着したと、チーフに伝えるのだ」
原文:
“Ich werde es tun, wenn Sie inzwischen die Nachricht weitergeben, daß der Kelosker bei den Spezialitsten der Nacht eingetroffen ist.”
試訳:
「呼んでやるから、そのあいだに報告しておいてくれ。ケロスカーが闇のスペシャリストのもとに到着したと」
直訳だと、報告してくれるなら呼んでやる、である。汚いなマスクマン汚い。
ハヤカワ版:
しかし、予想したとおり、計算者は応答しない。しかたなく、サイバネティカーの要望にこたえることにする。
原文:
Der Kelosker reagierte jedoch auf keine der Fragen, die Alaska ihm stellte. Nun erst entsprach Alaska der Bitte des Kybernetikers un rief das Robotpärchen.
試訳:
しかし、ケロスカーはこちらのどんな問いかけにも反応しない。そこでようやく、サイバネティカーの要望にこたえてロボット・ペアを呼びだした。
しかたなくない、しかたなくない。約束したじゃんかよ(笑) 単に優先度がちがうだけで。
あと、予想どおり、も原文になし。まあ、この程度ならまだかわいいのだが。
ハヤカワ版:
ふたたび、貯蔵室からの映像に注意をもどす。
原文:
Dabei ließ er den Bildschirm mit Dobrak und den Speziailisten nicht aus den Augen.
試訳:
その間も、ドブラクとスペシャリストの映るスクリーンから目をはなさない。
だから、優先度はこっちのが上なんだってばw
■189p
ハヤカワ版:
シェーデレーアはひかえめに笑って、
原文:
Alaska lächelte ungläubig.
試訳:
アラスカは信じられぬといいたげな笑みをうかべた。
ここは、句点じゃなくて読点で終えるのが重要なのだ。なぜなら、
ハヤカワ版:
「むしろ、ドブラクのほうが怪しいな。船に残ったのは、そのためだろう。セネカのスイッチを切らなければ。だが、その前に……」
原文:
“Ich vermute, daß Dobrak hinter allem steckt”, fuhr Hellmut erbittert fort. “Deshalb ist er auch an Bord geblieben. Sie müssen ihn ausschalten, bevor er…”
試訳:
「ドブラクが裏で手をひいているのかもしれない」と、ヘルムートが苦々しげにつづけて、「船に残ったのもそのためだ。かれを排除しなくちゃいけません、さもないと……」
次のセリフはアラスカのじゃないからだ。ヘルムート、と書いてあるのに、わざわざそこ削ってまでアラスカのセリフにしたかったのだろうか。というか、次のローダンのセリフでわかりそうなものなのに。
ハヤカワ版:
「待て、アラスカ! ヘルムートの見解も考慮しなければ。
原文:
“Langsam, Alaska!” rief Rhodan. “Hellmut hat seine Interpretation der Ereignisse von sich gegeben. Sie muß nicht unbedingt richtig sein.
試訳:
「待て、アラスカ! ヘルムートは事態の自分なりの解釈を述べたにすぎん。それが無条件に正しいわけではない。
削ったところを補正すれば、「ヘルムートの発言を鵜呑みにしてドブラクを殺っちゃあかんねんで」という趣旨になる。ドブラクを疑っていたのは、さて、誰だったろうか――と考えれば、前の段落がおかしくなっていることにたどりつく……はず……。
ハヤカワ版:
《ソル》が説明できない状況におちいったと思っているのだ」
原文:
Er sieht in jedem unerklärlichen Ereignis eine Bedrohung für das Schiff.”
試訳:
説明できないできごとは、すべて《ソル》への脅威に見えるのだ」
in とか jedem とか Bedrohung はどこいっちゃったんだろうか……。あれだね、原文を拾い読みして任意の単語だけで訳文つくったみたいな。前後とのつながりが説明できない状況におちいってるぜ(笑)
ハヤカワ版:
「わかっているのは、ドブラクが計算システムに関与して、スペシャリストたちを助けているということ。とはいえ、それも絶対的に正しいとは断言できませんが」
原文:
“Immerhin wäre es denkbar, daß Dobrak den Rechenverbund einsetzt, um den Spezialisten zu helfen. Das muß jedoch nicht unbedingt falsch sein.”
試訳:
「とにかく想定できるのは、ドブラクがスペシャリストを支援するために合同計算脳を投入しているということ。ですが、それはかならずしもまちがいとはいえないのでは」
falsch は正誤の「誤」である。unbedingt が「無条件に、必ず」。必ず誤じゃない……ということは、条件付でなら正でもありうるわけだが。訳文とはちょっとニュアンスが異なる。
ええと、ちょっと混乱しそうだけど、「それは無条件に間違いではないにちがいない」かな。
実は、このへんから、「誰が誰の側についているか」が、すごく微妙な展開にさしかかっている。アラスカのセリフも、微妙にからんでいそうなので、こう訳したほうがわかりやすいだろう、ということである。
■190p
ハヤカワ版:
みずから行動しなければ。司令室にすわっていても、問題は解決しない。
原文:
Unbewußt war er sich bereits die ganze Zeit über im klaren gewesen, daß er das Problem nicht von der Zentrale aus lösten konnte.
試訳:
意識下では、とうの昔に明らかだったではないか、司令室からではこの問題を解決などできないと。
lösten は lösen の誤植ととらえてまちがいないはず。ただし、この文章、アラスカがドブラクと同行したかったことが、前述の「宇宙連関に対する本能」にもとづく欲求だったと見るべきではないか。とすると、意識下云々のくだりは、削除しちゃまずいのだ。
ハヤカワ版:
理解していただきたいのですが、現状ではすべてがスペシャリストに有利になっています!」
(中略)
「ケロスカーの老人と、計算システムか!」と、うなった。「すべてはオルウと、その友のためというわけだ」
「思うに、いずれ状況はこちらに有利になると思いますが」と、シェーデレーアはしずかにいう。
原文:
Verstehen Sie doch: Alle sind auf Seiten der Spezialisten!”
(…)
“Ein alter Kelosker und der Rechenverbund!” stellte er richtig. “Alle anderen sind gegen Olw und seine Freunde.”
“Ich hätte erwartet, Sie auch auf unserer Seite zu sehen”, sagte Alaska ruhig.
試訳:
おわかりでしょう。皆、スペシャリストの側に立っているのです!」
(中略)
「老ケロスカーと合同計算脳か!」と、ローダンは数えあげて、「他の誰もが、オルウと仲間たちに敵対しているというのにな」
「わたしは、あなたもこちら側だと思ったのですが」と、アラスカは静かにいった。
分離動詞 richtigstellen は「整理する」で、正しくは、アラスカの言う「皆」が誰と誰、と言いなおした、ということ。
訳文だとなにげない会話になってしまっているが、実はここがこの章のクライマックス。叛逆のマスクマン……は、ちと大げさか。しかし、ここはすなわち、アラスカがみずからをスペシャリスト側に惹かれていると宣言した場面であり、アラスカが、いわば「踏み越えて」しまった瞬間を訳せなければ、この話を訳した意味がないのだ。
……。
まじでこれ発見したときは泣きそうだった。いやマジで。
いま6章まで赤ペン添削終わったところだが……。これもまたアレで。マガンに話したら、あのヒトも泣くかなあ。支配者様のご託宣その2が、「絵を描いてみるとよくわかるにょ」だからなあ。
訳すときに、その場面を思い描いてないんだよね、どうやら。“中腹”って言葉が出てくるとこ見ると、想像しようとはしてるんだろうけど。単数・複数とか、柱と彫像の位置関係とか、必要な情報がインプットされてないよ、その映像orz
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コメント一覧
お久です。ハードワークご苦労様ですw
しかし、最近の翻訳ローダンって超訳だったとは知らなかった。
おひさしゅう(^^)
誰得なハードワークではありますが。ひさびさに集中してやってみたら、予想外にひどかったので、やめられませぬ……。
ああ、超訳なのは、すでに大群サイクルで確認済みです。あの頃もすげかったので、大群後半~旧ミュータントは、実はほとんど読んでません。
しかし、一部でチームいがらし(笑)と呼ばれている新人訳者さんが大量加入したころのは、もっとマトモだったんですがね……。まあ、月2回刊行となると、時間かけてらんないでしょう。他に仕事かかえてアレを月4冊訳すと考えると、実にぞっとしない話です(-_-;
#人数増やして所要時間の水増しをはかっても限界ありますし。