377巻『戦略家ケロスカー』…
原書、持ってないと思っていたら、あったよ(笑)
掲示板の方でご質問のあった3点について、確認するために、377巻を買ってきた(を
■35p
ハヤカワ版:
「了解。誘導ビームを設定。しかし、ウルトラ戦艦をここに格納できるのか?」
「当然だ。銀河系全体でも、これだけの大型船はほかにない。もっとも、ウルトラ戦艦はまだ発見できないわけだが」
原文:
“In Ordnung. Leitstralen stehen. Aber eine bescheidene Frage: Wollt ihr etwa mit einem Ultrariesen in Schlepptau in den Hanger einfliegen?”
“Blöder Witz. In der gesamten Galaxis scheint es keinen Kugelraumer dieser Größenordnung zu geben. Wir haben jedenfalls keinen zu Gesicht bekommen.”
試訳:
「了解。誘導ビーム発信。ときに、ささやかな疑問なんだが。ウルトラ巨艦に曳綱をつけて格納庫へとびこむつもりじゃあなかろうね?」
「ばかいうな。銀河系のどこにも、このサイズの球形艦はないみたいだな。ともかく、まだわれわれ、ご対面はしてないわけだが」
……あー。編者さん、SZ-1とウルトラ戦艦が同じ大きさだってこと、わかってないのかも? ジョークなことも……理解できて……ないかも……。
ともかく、この会話、巡洋艦の通信員とSZ-1の通信センターのあいだでかわされているわけだが、そこからわかっていない可能性もある。後半のセリフも、ウルトラ戦艦ない→少なくとも見てない(巡洋艦)→作戦失敗?(SZ-1) とつづくもの。ハヤカワ版でも、つづくセリフとの齟齬は生じてないけど、意味的にはちがってるね。
■45p
ハヤカワ版:
「そうだろうか?」と、ローダン。「ディメセクスタ・エンジンは、現状ではもっとも高性能だ。《ソル》もそれで銀河系からバラインダガル銀河に行ったし、メールストロームから脱出さえした」
原文:
“Was?” rief Rhodan dazwischen. “Der Dimesexta-Antrieb ist das höchstentwickelte Ferntriebwerk, das wir anbieten können. Die SOL ist auch damit ausgestattet – und wir haben nicht nur den Flug in die Milchstraße aus Balayndagar geschafft, sondern sogar aus dem Mahlstrom.”
試訳:
「なんだって?」ローダンが割ってはいった。「ディメセクスタ・エンジンは、提供しうる最高の遠距離駆動だ。《ソル》にも搭載されている――バラインダガルから銀河系への飛行はもとより、メールストロームからの脱出にもこれを用いたのだが」
……スタートとゴールが逆になってますねえ。
原文見てたらまちがえるはずないし、これも編集の問題? なんか、昔とあんま変わらないなあ。
■54p
ハヤカワ版:
(前略)対角線の最長部が三千メートルというのは、ポスビの船としては最大級だ。
原文:
doch mit einer Kantenlänge von 3000 Metern gehörte er zu den grölßten Posbi-Schiffen.
試訳:
一辺三千メートルというのは、ポスビ船としては最大級だ。
……Kantenlänge という単語は、「角と角のあいだの長さ」である。それを、「対角線」ととったのだろう。
ただし、Kante には「角」以外にも、「稜線、縁」という意味があるので、「辺」と考えてまちがいない。
これまでもフラグメント船の大きさについては「一辺~メートル」が通用しているし、対角線ってブラウン管じゃないんだからさ(笑)
以前にも書いたとおり、わたしは嶋田さんの訳書って、『ダーウィンの剃刀』(シモンズ)くらいしか読んだことがないのだが。あれ、読みやすかった記憶があるんだけどね……。
ああ、関係ないけど、こんな数字を挙げておこうか。
750-758、765、768、771、777、778、785、792-795、799。
アフィリー・サイクル後半の、いま手元にある原書の話数である。800以降は、1000話まですべて、ある。
ディスカッション
コメント一覧
ありがとうございます。「やはり思ったとおりか」などというのは心苦しいのですが、誤訳は何がいけないのか一目瞭然では?と勝手ながら思いました。
ケアレスミスで、実際にある類のものなのかもしれませんが、もし何も疑わなければ「ヴルチェクはシリーズの設定について勉強が足りないなあ」と、作家に対する評価を誤ってしまうこともあるのではないでしょうか。
私見ですが、最近の誤訳には2通りあるようです。
1つ目は、純然たる誤訳(読み違え)。
124pの「~なんとも信じがたい武器を使ったのだ。」は、助動詞が wu”rden なので、実はこれからすること。なおかつ、この「信じがたい武器」はブラフで、それ自体が長期間兵器(時限爆弾)であることに、ラール人は気づかないだろう、というのが原意。要するに、読めていないということです。
もう1つは、先だっての論議で、話題にありましたね。脳内補完。
123pの「ラール人はまんまとそのとおりに行動することになる。」ですが、原文は「(戦略は計算済みなので)ホトレノル=タアクに対しては、いかにもこれから作業するようなふりをするだけでいい。」……はい、全然ちがいます。ケロスカーがすでに戦略を立案済み、という文章から、ラール人がきりきりまいさせられることが、つづく文章に織込まれてしまったんですね。
原文どおりでない、ということは、かえって前後のつじつまは合っている(合わせている)ので、個人的にはこっちの方がタチ悪いと思うんですけどね……。