1000話「テラナー」について (2)
1000話「テラナー」について、論じたりあげつらったり(笑)する本企画、2回目である。
まず、本来は第3部「その男、ペリー・ローダン」で扱う範囲だが、セリフをひとつ引用する。
ハヤカワ版(p201):
「説明しにくいんだけど……調和のとれた光の波。なにか不思議なものがあって、自分がその一部みたいに感じた」原文:
≫Es ist schwer zu beschreiben≪, sagte er. ≫Eine … harmonische Woge aus Licht. Und das Eigenartige war, dass ich mich als Teil davon fühlte.≪
試訳:
「うまく言えないよ。あれは……光の波の、ハーモニーだった。それで、変なんだけど、ぼくもその一部だって、感じたんだ」
試訳はほぼ2004年に訳したそのまま。
円盤惑星でのつかのまの邂逅は記憶から消去される(※)が、“宇宙への窓”からのぞいた調和の世界へのあこがれは、少年ペリー・ローダンの胸の奥深くに刻み込まれた。
それは、約束された不死への、そしてその遥か先へといたる道程の切符だった。
※しっかり記憶させる(p200)、は誤訳である。
第1部 大宇宙(の後継者)への道
通常、ローダン世界において「大宇宙」の意味で用いられるのは中性名詞 Universum (英:universe)、ウニヴェルズム級とかのアレである。あとは、映画『宇宙からのSOS』の「宇宙」は Weltall、“世界万有”だ。
宇宙船を Raumschiff と書くように、部屋・空間を意味する Raum も宇宙の語義で使われることもままあるが、だいたいは時空 Raumzeit のように“空間的広がり”の意がメインとなる。
さて、1000話での6章「宇宙への道」の原題は Die Straße zum Kosmos (英:cosmos)。この宇宙とは、ギリシア語の“秩序、宇宙、世界”に由来するもので、単に宇宙を意味するのではなく、秩序と調和のあらわれとしての宇宙……と書くと、ローダンのグラフィティを連想する方もいるだろう。
つまり、このあらすじは、
#地に10本の聖剣があったり、オレの燃え上がったりするナニカではない。
以前マガンと話していた際、「Kosmische Burg って、訳は宇宙城でも意味的には“秩序の城”だよね」というネタがあった。コスミック・ハンザも同様の含みがあり、ローダンたちがコスモクラート陣営から離反した後は大方の役割を失い、最終的には解体されてしまう。フォルツ的にはもうちょい意味があったはずだと思うのだが、それはまた最終回で述べる。
あと、ハヤカワ版については、“宇宙”ハンザなのに“コスミック”・バザールなのも私的にポイント低い。どっちかに揃えようよ。
……超話題逸れたな(笑) 閑話休題。
◆
第6章はこれまでのシリーズ999話のあらすじを、ハヤカワ版にしてわずか18ページに凝縮するという恐ろしいことを試みている。いきおい、アレコレとカットされているわけだが、それ以前のところで、フォルツが力点を置いているのが、ストーリーの大筋とちょっとズレているというか、単語の選択もかなりわかりづらい。むしろひどい(笑)
それを、ローダン読んでない人が訳せば当然、実際のストーリーとはかけ離れてしまうわけだが。
例えば、冒頭の「月までのはじめての飛行」は原語が zum ersten Mondflug で、字面を見ると正しい訳に思われるのだが、Mondflug von Apollo 11 と書くと「アポロ11号の月面着陸」であり、シリーズでは《スターダスト》以前に有人の月周回飛行がおこなわれていることを考慮すると、ここも月着陸と訳すべきだろう……しかし、原文見ちゃうと、一概に誤訳とも言い切れないのだ。合わせ技一本である、困った話。
今回は、まあ、シリーズの読者であれば違和感を感じたであろう箇所を中心に取り上げてみたい。
◆
ハヤカワ版(p206):
そこには決定的な役割をはたす、大きな力を持ったなにかが存在するらしい。原文:
in der es Mächte und Existanzformen gibt, die darin eine bestimmende Rolle spielen.
試訳:
そこには特定の役割をはたす勢力や存在形態がある。
そこ、とは“普遍的秩序(universelle Ordnung)”。人類世界を含むひとつの巨大な秩序体系の中に、そこにおいてある一定の役割をはたす諸勢力や(これまで見たこともない)存在形態(を持つものたち)がいる、のだ。
それは大群であったり、七強者たちであったり、超知性体であったりする。あるいは、クエリオン人(大群建造者たる36種族連合)や深淵の騎士。視点を変えれば、ロ……ルーワーやガルベッシュすらも、そうである。
カリブソの言う、「大宇宙にひろがるどんな種族も、特定の使命を得る」のだ。
(→ 時間超越 -10- part1)
ハヤカワ版は勢力(Mächte)と力ある者(Mächtige)を読み違えたか、“存在形態”という漠然とした訳語を嫌ったか。でも後ろの方で使ってるけど。
あと、“特定の”とか“決定的な”を意味する bestimmend (bestimmen の現在分詞)は、最終回で取りあげる“天命(Bestimmung)”と同根の語。無理くり訳すと「天与の役割」とも読める。
ハヤカワ版(p207):
探検を指揮する瀕死の科学者クレスト原文:
Crest, der todkranke wissenschaftliche Leiter der Expedition,
試訳:
死病に侵された、探検の科学的指導者クレスト
アルコン人には未知の死にいたる病、白血病のことである。まあ、実際瀕死でもあった(笑)
ハヤカワ版:
計画を実際に動かしている者たちも、その事実を遺憾に思ってなどいなかった。原文:
eine Tatsache, die nicht zuletzt von den Teilnehmern dieses Mission zutiefst bedauert wurde.
試訳:
ミッションに参加するものたちこそが、誰よりも深くこころを痛めた事実だった。
nicht zuletzt は英語でいう not least、「特に、とりわけ」を意味する。原意的には、「一番最後じゃない」から転じて「一番最初に」みたいな。いちおー、ローダンたちは(とゆーか、宇宙開発を志す人々は)ゲドーじゃないよ、と言っているわけだ。
「ミッションの参加者」と「ミッションの運営者」的な意味の取り違えと思われる。
ハヤカワ版(p208):
人類の活力は宇宙開発に向けられ、すでに宇宙航行を開始していた、ほかのいくつもの文明の存在が明らかになった。原文:
Es gelang ihm, die Aktivitäten der Menschheit auf die Erschließung des Weltraums zu lenken, Anstrengungen, die anderen Zivilisationen, die bereits Raumfahrt betrieben, nicht verborgen blieben.
試訳:
(ローダンは)人類の活力を宇宙開発へと向けることに成功するが、その努力は、既存の宇宙航行文明の注意をひかずにはおれなかった。
ハヤカワ版から消滅した「努力」とはその前段、「人類の活力を宇宙開発へと向ける」ことを指す。これを、隠しおおせなかった、というが文意。
宇宙航行文明(複数形)は、ファンタン人、IVs、トプシダーのこと。
まあぶっちゃけ、宇宙開発へと導かれた人類側の“冷たい”核融合爆弾によって破壊されたアルコン巡洋艦がSOSを発して、もろもろ露見してしまうわけだ。
ハヤカワ版:
異星種族の圧力の前に、ローダンは地球を破壊するとのブラッフを余儀なくされる。原文:
Der Druck der außerirdischen Mächte wurde schließlich so stark, dass Perry Rhodan keine andere Wahl hatte, als mit einem Bluff die Vernichtung der Erde vorzutäuschen.
試訳:
地球外勢力の圧力は高まる一方で、ペリー・ローダンには地球破壊を装うというブラフしか選択の余地はなかった。
誤訳とは言わないが、なんとなく「それ以上近づくと、ち、地球破壊しちゃうぞ!?」的はったりに見えるのでw >ハヤカワ版
ハヤカワ版(p210):
さまざまな世界の宇宙航行種族が麻薬を求めて銀河系に蝟集してくる。原文:
wurden viele Welten raumfahrender Völker in der Galaxis von Rauschgift überhemmt.
試訳:
(この銀河の)さまざまな宇宙航行種族の惑星が麻薬に席巻される。
リクヴィティフ禍の時点では、銀河間航行はまだ夢物語。in der Galaxis はIII格なので「その銀河(天の川銀河系)内の宇宙航行種族の惑星(世界)」。
ハヤカワ訳だと、あっちこっちの島宇宙から銀河系に集合しちゃいまっせー。
ハヤカワ版:
銀河系のなにもない空間で、原文:
im galaktischen Leerraum
試訳:
銀河間の虚空で
まあ、ここはフォルツの選択した単語が特別ひどい。「銀河の虚空」だもんなァどう見ても。むしろハヤカワ版、最近の定番「空虚空間」にしてないだけ苦慮した訳という見方もある。
ただ、銀河と銀河の間の、という形容詞を想像しようとすると、galaktisch で正しい気もするのだ。
原文は、「銀河(のはざま)の虚空で荒れ狂う戦い(in eine im galaktischen Leerraum tobende Schlacht)」に巻き込まれるというもので、ポスビとローリンの暗闘の舞台は、やはり銀河間と考えるべきではある。
ハヤカワ版(p211):
銀河系に存在する非ヒューマノイド種族の帝国原文:
eines zweiten galaktischen Imperiums,
試訳:
第二帝国
第二の銀河帝国……とやるよりは、固有名詞使った方がわかりやすいかな。
以下余談だが、Perrypediaを参照すると、ローダン宇宙におけるブルー族はヒューマノイド扱いである。皿頭だけど。まあ手足2本ずつだわな……。
つーか、1800話台でのフォーラム・ラグルンドの説明って、「テラ・アルコンに対抗する非ヒューマノイド種族中心の同盟」って言ってたよね!? ブルー族だけじゃなくてアコンもでかい顔してるのになあとか思ってたよ当時(笑)
ハヤカワ版:
数年をへるうち、人類は多くの植民惑星で自給自足できるようになっていく。原文:
Im Verlauf vieler Jahre strebten immer mehr von Menschen gegründete Kolonien auf anderen Planeten nach Autarkie.
試訳:
数十年を経るうち、人類の植民惑星の多くで独立をもとめる動きが顕著になっていく。
autark はたしかに自給自足だが、大文字のAutarkieだと閉鎖経済(鎖国)とか自立とかの意味合いが大きい。どんどん、たくさん、自立にむかって、努力する、のだ。
だいたい、自給自足がいきすぎて犯罪行為ってなんやねん(笑)
※このへんはプロフォス編以外、ヘフト本編ではあまり扱われないが、ATLANシリーズ第1部「人類の委託を受けて」後半(西暦2800年代が舞台となる)で繰り返しテーマとなる。
ハヤカワ版(p213):
アトランは決闘により、この権力に憑かれた、かつて愛した女性を倒した。原文:
Atlan gewann das entscheidende Duell gegen eine machtbesessene Frau, zu der er bereits Zuneigung gefasst hatte.
試訳:
アトランは、権力に憑かれたこの女性を愛しながらも、決闘のすえ倒した。
誤訳っつーか……なんか、昔の女みたいなんだもの(笑)
その女性に対して・すでに・好意を・抱いていた、なので、現在進行形である(ぁ
ハヤカワ版(p214):
ローダンのドッペルゲンガーとしてあらわれた男のおかげでかろうじて踏みとどまった。原文:
Ein Mann, der als Doppelgänger Rhodans auftrat, konnte schließlich den völligen Niedergang verhindern.
試訳:
ローダンの影武者となる男の登場が、かろうじて完敗を阻止したのだった。
まあドイツ発SFだから、ドッペルゲンガーでもええのかもしれんけど。ここはダブル(替え玉)の意味合いをわかりやすくした方がいいんじゃないかな。
ハヤカワ版:
超空間にある巨大ロボットの武器庫原文:
das Arsenal der Giganten im Pararaum
試訳:
超空間にある巨人の武器庫
巨大ロボット(オールド・マン)のではなく、巨人たち(時間警察)の武器庫である。
ハヤカワ版:
《クレストIV》とその乗員はようやく救援に駆けつけるが、原文:
gelang es schließlich, der CREST und ihrer Besatzung Hilfe zu schicken.
試訳:
《クレストIV》とその乗員へ援助を送ることにようやく成功した。
フラグメント船の決死隊のこと。
アルコン人Crestは男性だが、艦名CRESTは女性名詞なので、上記例文の der CREST はIII格。
なお、この時点で《クレストIV》は銀河系に戻ってこない。
ハヤカワ版:
その姿を見たウレブは、テラナーにハルト人を殲滅させる作戦を急遽変更し、直接介入してきた。原文:
Ihr Auftauchen forderte das unmittelbare Eingreifen der Uleb heraus, die die Vernichtung der Haluter durch die Terraner verlangten.
試訳:
ハルト人の登場はウレブの直接介入を招き、テラナーによるハルト人殲滅が要求として突きつけられた。
関係代名詞 die がウレブ(複数形)のことで、彼らはテラナーによるハルト人の殲滅を望んだ、である。
ハヤカワ版(p215):
これらの勢力圏が地球と対立を深めたため、三四三〇年、太陽系は時間バリアのなかに姿をかくす。原文:
Diese von Menschen gegründeten Machtblöcke schlossen sich zu einer Aktion gegen die Erde zusammen, doch die Angreifer stießen im Jahre 3430 ins Leere, als das Solsystem in einem Zeitfeld verschwand.
試訳:
これら人類が打ち建てた権力ブロックは地球攻撃のため手をむすぶが、三四三〇年、ソル星系が時間フィールドにかくれたため空振りに終わった。
歴史的にはまちがってないんだけど、原文と照らし合わせると、なんだかオブラートに包んだような訳になっている(笑)
ハヤカワ版:
だが、その後コレッロはローダンの味方になり、原文:
Es gelang, Corello zu einem positiv handelnden Menschen zu machen
試訳:
コレッロをポジティヴな人間とすることに成功し、
まあ……洗脳ってポジティヴじゃないっスよね……(汗)
でも、この後、宇宙はポジティヴとネガティヴに満ち溢れてるんだよー、という話に持っていくわけだから、この単語を消去するのは得策ではないと思われ。
ハヤカワ版(p216):
予定から一ヵ月遅れで原文:
Monate später als geplant
試訳:
予定から何ヵ月も遅れて
実際には、ほぼ丸3年である。えーと……2年と11ヵ月?
ハヤカワ版:
事態は急迫し、太陽系は地球ともども大群にのまれそうになる。原文:
Die Entwicklung spitzte sich dramatisch zu, als das Solsystem mit der Erde ebenfalls vom Schwarm aufgenommen wurde.
試訳:
太陽系もまた地球ごと大群に併呑され、事態は急展開をむかえる。
のまれそう、ではなく、のまれてる。
だからこそ、以降、大群内部での作戦が可能となるわけで。
ともあれ、ローダンはここではじめて、大宇宙に存在する「特定の役割を果たす」何かの片鱗を体験する。大群と建造者(クエリオン人)・管理者(サイノス)については、アラスカ・シェーデレーアの(意図せざる)協力もあって、多少の知見を得るが、その全体像は依然闇の中である。
ハヤカワ版(p217):
多くの人々は、それまでの発想を捨てることができなかったから。原文:
Andererseits konnte man nicht auf seine Einsicht in die Zusammenhänge verzichten.
試訳:
一方で、関連を洞察する彼の才能は不可欠なものとみなされた。
アイツ何言ってんだかわかんねーけど、困ったこと起きたときは便利だよなー、である。これでは政治危機を回避しても、一般大衆との溝は埋まらない。
英雄と言うより、学級委員を押しつけられたとゆーか。宇宙いいんちょ(はあと) ペリーヌ・ローダン…幸うすそうw
ハヤカワ版(p218):
新型エンジンの試験のため、ローダンは《マルコ・ポーロ》で並行宇宙に向かった。原文:
Bei Experimenten mit einem neuen Antrieb wurde die MARCO POLO mit Perry Rhodan an Bord in ein Paralleluniversum geschleudert.
試訳:
新型エンジン実験の際、ローダンを乗せた《マルコ・ポーロ》は並行宇宙へはじきとばされる。
ニューガス=新型燃料対応エンジンであって、別に異宇宙間駆動じゃあないよね。
schleudern は、カタパルトで打ち出すイメージか。投げ出される、も可。
ハヤカワ版:
ゼロ時間デフォルメーターを使い、過去のローダンに警告することで、PAD病の発生は回避された。原文:
Ein zweites Mal musste Rhodan das Paralleluniversum aufsuchen und seinen negativen Doppelgänger ausschalten.
試訳:
“再試行”時のローダンは、並行宇宙を訪れ、ネガティヴなコピーを自らの手で抹殺することを余儀なくされた。
「ネガティヴ」は残す形にしてほしかったのは、コレッロのケースと同じ。
正直、文章としてはハヤカワ版の方が遥かにわかりやすい。まあ、日本語で作文しているんだから、当然といえよう。原文にはゼロ時間デフォルメーターの名称すら出てこないので、時間修正がおこなわれたことすら明確ではない。
ただ、このあたりになると、フォルツが単純にストーリーのおさらいをしているわけではないことがわかってくると思う。キモは、ローダンの戦いなのだ。
ハヤカワ版(p222):
人類は古くから存在する宇宙的な力の争いに巻きこまれていることに気づかないまま、この対立を解消する道を模索する。原文:
Ohne zu ahnen, dass sie sich damit endgültig in die Belange uralter kosmischer Mächte einmischten, suchten die Menschen nach positiven Lösungen dieses Konflikts.
試訳:
それにより、ついに太古からつづく宇宙的勢力の利害に踏みこむことを予感すらせぬまま、この紛争のポジティヴな打開策を探しもとめる。
今回ばかりは、巻き込まれるのではなく、自分から首を突っ込んでしまったんである。当初こそ失われた地球を探しあてるという理由があったし、超知性体〈バルディオク〉のもとへ誘拐されたあたりになると、巻き込まれたと言えなくもないけれど。
なお、ここでも「ポジティヴ」は不要として削られてしまっている。
ハヤカワ版(p223):
強者は物質の泉の彼岸という、謎めいたべつの時空連続体からきていた。そこにいる存在が、アインシュタイン宇宙の生命と知性の発展を操作しているらしい。原文:
Die Terraner fanden heraus, dass Mächte aus einem anderen Raum-Zeit-Kontinuum, das hinter den geheimnisvollen Materiequellen lag, offenbar steuernd auf die Entwicklung von Leben und Intelligenz im Einstein-Universum eingriffen.
試訳:
テラナーたちは、謎に満ちた物質の泉の彼岸にあるという、別の時空連続体の勢力が、明らかに指導的立場でアインシュタイン宇宙の生命と知性の発展に介入していたことをつかむ。
またしても「勢力」と「強者」の読み違えである。
強者の製造工場はケモアウクによって発見されており、この宇宙の産であることは確実。
ハヤカワ版:
だが、めったにかれを裏切ることのない本能的直感は、宇宙的意味についての洞察が、これからますます深まるだろうと告げていた。原文:
Sein Instinkt, der ihn selten getrogen hatte, sagte ihm jedoch, dass er mehr und mehr Einblick bekam in eine ursächliche Auseinandersetzung von universeller Bedeutung.
試訳:
とはいえ、めったにあやまつことのない彼の本能が、宇宙的意味を持つ根元的対決への洞察を今後も得ていくだろうと告げていた。
ursächlich は「原因の、因果の」。フォルツ宇宙においてもろもろの根源となっている、相反するものとは、すなわちポジティヴとネガティヴである。
神話においては、往々にして善神と悪神の対立の構図が見られる。これは後に、無限アルマダをめぐる抗争の中で、秩序と混沌の両勢力の争いとして顕在化する。
◆
かくして少年は、かつて夢に見た調和の源――と思えるもの――へとたどりつく。まあ、最終的なところは、〈それ〉との対話を経ないと理解が及んでいないのだが。
この宇宙はポジティヴな力とネガティヴな力の係争の場であり、自分がどちらに与するかは自明でもある。しかし、ひとつのゴールに到達したことで、ローダンは目標を見失い、鬱屈した日々をすごすことになる……のは、第3部あたりに譲ろう(笑)
フォルツ宇宙は必ずしも厳格に二元化されたものではない。ポジティヴとネガティヴは、善悪とイコールではないからだ。
セト・アポフィスはローダンたちから見て「敵」ではある。しかし、彼女自身は、自分がどこでどうまちがえたのかわからないまま、溺れそうになってあっぷあっぷしているだけなのだ。
作中で positiv、negativ がどのくらい使用されているか数えてみたら、それぞれ8回と7回だった。意外と少ない……と思うかもしれない。しかし、1000話が出た1980年当時には、姉妹編ATLANシリーズが「暗黒銀河」サイクルのクライマックスを迎えようとしていたことを忘れてはならないだろう。
ネガティヴな超知性体としては、セト・アポフィスに先駆けて〈闇の伯父〉が登場し、それ自体がかつて存在した〈イェフェナス〉の負の側面……ネガティヴな断片であったことが物語られている。
シリーズにおけるポジティヴとネガティヴの闘いは、やがて秩序の勢力と混沌の勢力の主導権争いに場を譲るが、これもまた、善と悪との闘いでは、けっしてない。
それゆえに、ゴールと思われたものは淡くも夢のように消え去るのだが……それはまた、別の物語である。
◆
「第2部 抗う歯車たちの肖像」に続く。
次回は、ちょっと間が空くと思われるが、巻頭に戻り「機械にすぎない(p139)」人々の探索についての予定。
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません