禍転じて……はポジティブ?

誤訳

aus der Not eine Tugend machen /
試訳:怪我の功名

上述の熟語は諺で、「禍転じて福と成す」が通例。ちゃんと普通の独和辞典にも載っている。困窮から長所を作り出す、というのが直訳。

以前、この熟語に初めて遭遇したときに、その場面にどーもマッチングしないなあと思った。
ローダン1300話、銀河系を追放されたローダンたちが、旧友=アラスカ・シェーデレーアの呼びかけにしたがい、おとめ座銀河団の〈網を歩む者〉組織に合流。網歩者たちがレジスタンス闘争をくりひろげる相手こそ、それからまもなく銀河系をも陥落させる〈永遠の戦士たち〉であった。
数年後、「敵の本拠を討つことで、われわれは銀河系のために戦うことができる」と胸をはるイェン・サリクに、アトランの言うセリフが、「そーゆーのを、aus der Not eine Tugend machen と言うのだよ」だった。
当時は辞書どおりに訳したのだが、アトランのシニカルな論調というか、「銀河系を追い出されて、ここにしか居場所がないのが、たまたま敵との激戦区になっただけで、いばれた話ではない」という含み(があると思うのだ)が、訳文にはないように思えた。
禍転じて福と成す、というのは、ポジティヴシンキングというか、うまくしてやったりな感じがある。対してアトランの皮肉はややネガティヴっぽい。しっくりくる諺は……と考えた結果、現状では試訳のようになる。

「そういうのを、怪我の功名と言うのだ」

■原典:マール&ヴルチェク『網を歩む者たち』

Posted by psytoh