アムリンガルの年表にからむもにょもにょ
先日、マガンと電話しながら女戦士の新刊チェックをしていたら、NEO22巻でヴェガ星系にかつて存在した惑星がアンブルになっていた。これ、原語はAmburで、オリジナル版の読者なら、人工惑星ワンダラーの別名アムブルであることをご存じだろう。
まあ、NEOは別シリーズなので、なにがなんでも固有名詞を統一する必要もない。ただし、正篇については、アムブルでよかったなあと個人的に思っている。そう遠からず、とある壮大なミスリードがやってくるからだ。
#単に、わたしがひっかかっただけともいう。としか言わないかw
※ここに来る方に言うまでもないかもだが、今回、いろいろネタバレである。念のため。
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タルカン・サイクル中盤。当時(1987年)、すでに年に2、3作しか執筆しない状態のダールトンに、草案作家ヴルチェクは、タルカン宇宙に漂着したローダンとも、ハンガイ銀河の四半分とともにこの宇宙で作戦を開始したヘクサメロン勢力とも関係のない挿話を担当させる。エルンスト・エラートの放浪である。
ヴィールス・ボディを失ったエラート、シェーデレーアから分離したカピン精神体テスターレの両名は、“バルコン人の斥候(バルコン)”が語った、新たな肉体を与えてくれる〈成就の地〉へとたどりつくべく、バルコンのシュプールをたどり、深淵の騎士団の聖堂惑星クラトにいたる。バルコンを加えた3名が、惑星地下、ポルライターの極秘データ・バンクでバルコン人について調べたところ――
1 バルコン人のシュプール
出てきた検索結果が、
1)アムリンガルの年表(Zeittafel von Amringhar)
2)スープラヘトの封印者(Bändiger des Suprahet)
3)〈それ〉の誕生協力者(Geburtshelfer von ES)
4)ヴィオモンの賢者(Weiser von Wyomon)
という、箸にも棒にもかからない情報である。〔1366話〕
当時のテラナーがつかんでいたところでは、「スープラヘトの封印者」とは130万年前、力強き者の命をうけ大群の進路を脅かすスープラヘトを封印した大群建造者の一団のこと。当初オールドタイマーと呼称された彼らは、後に「キトマの種族」とか「クエリオン人」と呼ばれることになる。〔1275話〕
そして、惑星ケムバヤンの〈成就の地〉にいたる過程で、3人はバルコン人が「スープラヘトの封印者」の系譜につらなる者であることを知る。さらに〈成就の地〉でバルコン人(=クエリオン人)の斥候が用いる作業用ボディに宿ったエラートとテスターレは、謎の声(〈それ〉という見解が有力)から「アムリンガルの年表をみつけよ」という指令を下される。〔1384話〕
え、んじゃ3とか4もバルコン人のこと? なんて思う間もなく、プロットの卓袱台返し、1400話のドリフェル・ショックによって、物語は一気に700年の時間を超えてしまう。
作家会議のカリカチュア『カオターク・ミーティング』をある程度信用すると、ヘクサメロン・ストーリーが没ったのは、1395話の原稿ができているか、最低でも草案がグリーゼに配布されてからという急転直下。それじゃあアムリンガルの年表って伏線もポシャったか、というと、これがそんなことはなかった。
封鎖された銀河系への道を探るローダンらは、〈四腕の予言者〉ことイホ・トロトの足跡をたどり、大マゼラン星雲のパウラ・ブラックホールの事象の地平の下に隠された小惑星で、アムリンガルの年表の“残骸”を発見する。もとは、林立する水晶柱ひとつずつの頂上にデータ・クリスタルが鎮座していたという。
トロトの検証によれば、どうやらドリフェル・ショックで巨大構造体が破壊される以前に、エラートがこの地を訪れていたらしいのだが……。〔1418話〕
2 星の暗黒回廊とアミモテュオ
イホ・トロトが現地にいたる、ほぼ700年前からの経緯が語られて、そこで〈ミモトの宝玉(Das Juwel von Mimoto)〉というものが出てくる。エスタルトゥ十二銀河に潜入したM-87の斥候が語り、サイノスやポルライターもからんできたそれは、〈暗黒のキューブ〉とともに〈星の暗黒回廊〉の星図をなすという。また、その時点ですでにトロトは“カンターロ”の名も耳にしている。怪しからん、と読者は当然思うわけで。〔1419話〕
ほぼ同時期に、マールの書いた惑星小説309巻『アムリンガルの宝玉』が刊行されている。タルカン宇宙にいた頃のローダンを描いたエピソードで、そこでテラナーはアムリンガルとは「公会議が招集されたとき、ヘクサメロンの領主たちが会合する場所」と聞かされ、これと関連があるっぽい映像をおさめたデータ・クリスタルを入手する。ただし、このアーカイヴのその後は不明。まあ、外伝だし。
で、星の暗黒回廊というのが、ブラックホールを結ぶ搬送路であることがわかり、訪れたシラグサ・ブラックホールにはカルタン人伝承者の《ナルガ・サント》の残骸が。どうやら、銀河系を包む障壁を突破しようとして失敗したっぽい。同胞たちの惨状をみかねたダオ=リンは巨船をピンホイールへと運ぶのだが、そこへ首を突っ込んできたのが、ハンガイ銀河におけるカルタン人の分派カラポン人。
「本船に〈モトの真珠(Perle Moto)〉があるはずだ!」と、居丈高に要求する軍人さんの言葉に興味を抱いたダオ=リンは、ハンガイ銀河、カラポン帝国の首星まで遠征して、みごと皇帝所蔵の〈モトの真珠〉を奪取する。これもまたデータ・クリスタルであり、エルンスト・エラートのメッセージがおさめられていた!〔1427話、1449話〕
アムリンガルの年表に由来するデータ・クリスタル。例の水晶柱のてっぺんに設置されていた、全長14cm、幅8cmほどの代物だが、その名をアミモテュオ(Amimotuo)という。ミモト、モト、という名称はここからきている。
このあたりで、上記ミスリードというか、わたしは妄想したね(笑)
アムブル(Ambur)
アムリンガル(Amringhar)
アミモテュオ(Amimotuo)
あれ、Amからはじまるのって、ひょっとして、バルコン人じゃなくて〈それ〉関連なんじゃね?
そうして、まるで待っていたかのようにやってくる新たなるAm!(爆)
ローダンの手にわたったモトの真珠は、エラートのメッセージを紡ぎ出す。彼は小惑星アムリンガルでクエリオン人キトマから「アムリンガルの年表は“〈それ〉の年代記作者”が綴ったもの」と聞かされると同時に、アミモテュオを託され〈それ〉のための使命を果たすことになる。ネーサンを経由した《バジス》の分解、そしてゲジルの捜索……だが、数十年の捜索のすえにわかったことといえば、〈アマゴルタ(Amagorta)〉なるものが関与しているとだけ……。〔1460話〕
#ちなみに〈それ〉の年代記作者については、1349話に初出である。
すでに星の暗黒回廊の管理種族アノレーと接触していたローダンたち。アノレーによると、アマゴルタとは回廊の建造者たる種族〈始祖〉が隠遁した場所だという。カンターロのデータバンクから抽出された情報は、それが銀河系中枢部のブラックホールと明らかにした。〔1470話〕
アマゴルタの事象の地平下に潜入したローダンらは、〈アマレナ(Amarena)〉の手記を入手。ヴァウペルティアの子孫だる2種族が統合されたアマレナ(彼らの言語で“民族”)こと〈回廊の主人たち〉は、星の暗黒回廊の管理をアノレーに譲渡した後、さらなる進化の道をもとめてアマゴルタに隠遁。しかし、ドリフェル・ショックの影響で退行をはじめた自分たちが局部銀河群を破壊することをおそれた彼らは、アノレーの分派たるカンターロに協力を依頼し、種族規模の自死を選んだ……。〔1471話、1472話〕
あ、あれ。なんか、そこでプッツリ切れちゃったんだけど?(汗)
3 妄想の果て
アムリンガルの年表ネタは、次のサイクルも継続された。
エラートの依頼でパウラ・ブラックホール内の小惑星アムリンガルを調査したナックのパウナロは、残骸が“不完全なコピー”であると断定。なら、まだ年表捜索というオレたちの使命は終わってないんだ、と安堵するエラートとテスターレ。〔1500話〕
活性装置を返却せいと言われたローダンたちが右往左往するのを尻目に、彼らはナックの妨害をうけつつ惑星ケムバヤンを再訪、年表(偽)の断片から、〈それ〉の最も古い同行者が炉座銀河にいることを知る。〔1510話、1519話〕
眼光星系の惑星宵影に、水晶生命体ノクターンの集積体〈炉座の賢者〉を訪れたエラートらは、ノクターンこそが「〈それ〉の誕生協力者」であることを知り、その援助で、“真の”アムリンガルの年表へと到達する。〔1535話、1536話〕
ただし、それがドコであり、ナニが書かれているものなのかは、一切触れておらず、次にエラートが登場するのは〈それ〉の使者としてなので、ワンダラーなのかにゃあ、と非常にもにょもにょした幕切れであった。
一応、サイクル終盤の時期に、1000万年前、局部銀河群のどこか、アムリンガルと呼ばれる場所で“公会議”が開かれ、ヘクサメロンの主ヘプタメルが臨席したことが述べられたり〔1593話、惑星小説358巻〕
真のアムリンガルの年表はほぼ超空間に存在し、ワンダラーと紐付けられているっぽいと描写されたり〔1598話〕
もして、個人的にはアムリンガル=銀河系だと筋も通るしおもろいのになあとちょっとだけ期待したのだが、基本、これ以降アムリンガルの年表についてシリーズで取りあげられることはなくなってしまった。
はるか後、ヴルチェクが草案作家を引退する直前の2000話において、「誕生協力」の詳細が描かれたり(バルコン人ではなく、ヴォジャル人だった)、銀河系の古名が〈アマンドゥル(Ammandul)〉であるとされ、ああ、やっぱヴルちゃんはAmイコール〈それ〉関連のサインのつもりでいたのかなァとちょっとほっこりしたのだけど。まあ、それはそれ。
#〈それ〉以前にはファリスケ=エリゴンと呼ばれていた(さらに後付け)。
そして、ヴルチェクの後を継いで草案作家となったフェルトホフの時代、おもむろに、700万年前に大マゼラン星雲をアムリンガル、小マゼラン星雲をキリンガル(Kyringhar)と呼称していたことが明らかとなる。〔2149話〕
だが、これもフェルトホフが夭折したため、以降の展開はなかった。せめて、なぜアマンドゥルの年表ではなく、アムリンガルなのかくらいはと期待したのだが。残念。
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……とまあ、ミスリードなのか、伏線が死んだのか、わたしが妄想ふくらませてヒトリ踊っていただけなのかは、さだかではない。ないんだったら(笑)
ヴィーロノート編からはじまるエスタルトゥ話には、ほかにもいろいろと伏線がある。
カルタン人……とわたしは訳しているが、原語はKartanin。母星の名がカルタンで、女系(猫型亜人)種族なので女性名詞を意味する語尾-inが優先されるが、男性単数だとKartaneとかだったりもする……のだけど、一番の理由は、「タルカン」との類似がわかりやすいから。これ、カータニンとか訳したらアウトである。
エスタルトゥ(Estartu)及びその中央星エトゥスタル(Etustar)、ピンホイール(さんかく座銀河)のカルタン名アルドゥスタール(Ardustaar)の近似とか。
ストーカーがチョモランマにぶっ建てた〈英雄の学舎〉に設置された、5万年前の第三の道の哲学の創始者と伝わる男性オーグ・アト・タルカン(Oogh at Tarkan)の彫像の描写が、よく見るとお猫様であるとか。
30年前のわたしは、上記のような妄想だだもれるくらい楽しませてもらったのだが。
日本の読者さんたちにも、そんな楽しみ方ができることを願いたい。
べ、別に同じ穴のムジナが欲しいわけじゃないんだからねっ(オイ
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