ストフラ:アムリンガルの宝玉
続いての在庫処分は、惑星小説309話『アムリンガルの宝玉(Das Juwel von Amringhar)』(クルト・マール著)の超要約。FCミレニアム・ソルの会誌向けに書いたものだが、はて、これ掲載されたんだっけ……?(笑)
1988年に発売されたこの本。わたしは当時、神田三省堂経由で原書を購入していたのだが、なぜか注文しても入荷がないまま「品切」通告を受けてしまった……のだが、92年のハマコンでFC企画のカルトクイズ景品候補に、問題のブツがwww 企画担当を拝み倒して譲ってもらったので、会誌の先読みコーナー・ストーリーフラッシュにネタを提供する約束だったわけ。
1300話台後半で初めて名前の出てきた「アムリンガルの年表」が、カンターロ・サイクル序盤で「壊れた」状態で発見されたあたりで、当時草案チームの片棒かついでいたマールがこのタイトルで惑星小説である。ひょっとしなくても、使えなくなったネタをそっちで始末したか!? と疑っていたので、是非とも読みたかった。
※5/3追記:エスタルトゥとヘクサメロンをめぐるストーリーは当初“宇宙の新生”まで予定していたらしいが、実質的打ち切りのため1399話で急遽幕切れになった経緯がある。
さて、物語は『プロジェクト・メーコラー』でいうと第5章の終わり、潜入工作がバレたローダンが、ハウリの母星系ウシャルーを脱出した、その少し後からはじまる……。
新銀河暦447年11月末……。ペリー・ローダンが死にゆく宇宙タルカンに漂着して、すでに9ヵ月が過ぎ去っていた。カルタン人、ナックら22種族の連合カンサハリーヤが推進する〈プロジェクト・メーコラー〉は、年老い収縮過程にある宇宙から、いまなお若きメーコラーことわれわれの宇宙への脱出をはかり、巨大な銀河ハンガイを四分割しての転送を進めていく。また、謎に包まれた組織ヘクサメロンの唱える「最後の六日間の哲学」は宇宙の熱的死を未来への新生と教義づけ、狂信的なハウリ族を尖兵として「不信者」たる22種族のプロジェクトを妨害する。二勢力の反目に巻き込まれつつ、ローダンは失踪した超知性体エスタルトゥのシュプールを探し求める。ハウリの軍団はかれを許しがたい宗教的異端者とみなし、また、不可解にもローダンを「イマーゴ」と崇める種族――放浪するロボット種族ジュアタフと、占星術に根ざした世界観を持つベングエル族――の出現もあって、道は困難をきわめた。そして遭遇する、ヘクサメロンを構成する6者の筆頭、火炎の領主アフ=メテム。その語った神秘の場所ナコド・アズ・クォール、すなわち「永遠の穴」に、この宇宙をめぐる謎の解答があると考えたローダンであったが、ヘクサメロンの本拠があるらしい、かの地の所在は杳として知れなかった。
これは、その探索の途上、ハンガイ辺境を放浪するテラナーと、ふたりの同行者が出会ったもうひとつの謎の物語である……
ことの起こりは、ドリフェル・カプセル《レダ》の傍受したふたつの通信だった。
銀河ハローの惑星クザルルに定住する、みずからをアングマンシクと称するベングエルの一氏族が、その世界に異人の侵入したことを告げ、星々に助けを求めている。そして、もうひとつの暗号化された送信のコードからして、その異人とはどうやらハウリであるらしい。イマーゴ探求者と関わることは避けたいが、それでもヘクサメロンの狂った宗教に苦しむものを見捨てるわけにもいかないと結論し、ローダン一行――テラナーと、アッタベンノのベオズ、カルタン人ナイ=レン、そして《レダ》――は、ひそかにクザルルに着陸する。
ベングエルという種族は、樹上棲類人猿から進化したとされる。しかし、ただ自然のままに進化したとは考えられないふしがあるのだ。彼らはおのが子供の生まれるとき「自我」を喪失し、知性もなく本能のみによって生きる原始状態に還ってしまう。自我が継承される、と彼らは語る。だが、それだけではない。彼らと、やはりイマーゴ探求者であるジュアタフが、ある特定の状況でそろうとき、奇妙な閃光とともに双方の『自我』が失われるのだ。ローダンはこの現象を「対自殺」と呼んでいたが、タルカンで得た友ベオズの抽象的な「予知夢」とからんで、そこにエスタルトゥの手が及んでいるのではないかと、そう思われてならなかった。
アングマンシクは惑星定住が長かったせいか、テラナーの姿を見ても「イマーゴ!」と叫んで押し寄せてくるようなことはなかった。それでも、星を読み、未来を知るというベングエル特有の哲学は変わらないため、ローダンは自らを「星々の派遣した救い」と称して彼らの共同体に入り込む。そして、指導的立場にある司祭から状況を聞いたところ、クザルルに進駐したハウリはごく小部隊で、なにか特別な任務をおびているらしい。それも、アングマンシクの先祖がタルカンの諸銀河を放浪していた時代にからむ何かを捜索しているというのだ。
ローダンに策をさずけられ、集落を訪れたハウリたちを出迎えたアングマンシクに、小部隊の指揮官であるヘクサメロンの預言者は、こう告げた。
「おまえたちは〈アムリンガルのゆりかご〉という言葉を知っているはずだ」
しかし、アングマンシクに伝わる伝承の中には、そんな名称は存在しなかった。集落からそう遠くない台地には、かつて祖先がそれを操って宇宙を往来した宇宙船が無数に横たわっているが、おそらくそこにもそんな記録は残っていないだろう、と司祭は語った。
その言葉を信じず、強硬手段をとろうとするハウリたちに対抗するため、ローダンとアングマンシクたちは「アムリンガルの宝玉」のコードネームを用い、ハウリを分断し、無力化することに成功する。その過程でテラナーは、アングマンシクたちが、おそらく数千年来触れたこともないはずの宇宙船の機器類やパラライザーの使用法をたちどころに理解していくさまを見て驚嘆する。親から子へと伝えられていく彼らの「自我」。そこには、やはり何か大いなる秘密が隠されているにちがいない。
捕らえられたヘクサメロンの預言者に、ローダンは訊ねる。アムリンガルとはいったい何なのか、と。しかし、ハウリの返答は、すこぶる宗教色の濃い、不明瞭なものでしかなかった。
「アムリンガルとは、公会議の招集されるとき、ヘクサメロンの領主がたが一堂に会するところ。いまだかつて死すべきものの目の触れたことのない場所だ。シャムーの地の神々の御魂、かの地にいまし、領主がたを照らさん……」
そして、ハウリたちのひとりとして、ナコド・アズ・クォールの名すら耳にしたことがないという。テラナーの求める秘密は、やはり火炎の領主その人に会うことでしか知りえないらしかった。
ローダンとアングマンシクが「宝玉」を宇宙船の1隻に載せ、ロボット操縦で星々へと遺棄したと思い込まされたハウリはクザルルを去った。もちろん、ロボット船に宝玉など存在しないから、じきにさらなる増援をひきつれて戻ってくるだろう。だが、そのころには、再び宇宙船を動かすことをおぼえたアングマンシクたちは、ひとりとしてクザルルにいなくなっているはずだ。ただ、自我を失い、原始に還ったものたちだけを残して。
別れのとき、アングマンシクの司祭はローダンに彼らの宗教上の宝物――虹色にきらめくキューブ――を手渡す。もしや、それこそ、いつわりのはずであったアムリンガルの宝玉なのか? だが、司祭自身も、その真相は知らないという。なんにしろ、アムリンガルの名はアングマンシクに災いしかもたらさなかった。それがもし「宝玉」であるとしても、ハウリが信じているように、アングマンシクの手を離れている方がよいのだ、と司祭は笑った。
……再びあてどない放浪の途についた《レダ》で、ローダンは「宝玉」のメモリーを再生させる。キューブは記憶クリスタルだったのだ。しかし、その記録とは、オリオン星雲にも似た星間ガスの雲と、そこで輝く6つの恒星の映像だけであった。不規則な六角形を描く恒星のひとつはベテルギュース型の赤色巨星で、伴星として中性子星が周囲をめぐっているらしく、その軌道は、ある仮想点を周回している――。
はたして、それが神秘の場所アムリンガルと関わりがあるのかさえ、わかりはしない。かくして、ひとつの冒険はいま終わりを告げ、テラナーの目はナコド・アズ・クォールへとつづくであろう、いつ終わるともしれない長い道のりだけをみつめていた……。
……やがてローダンは、ナコド・アズ・クォール、超絶なプシ波を発する「永遠の穴」を見いだす。それは、コスモヌクレオチド・ドリフェルの「門」! モラル・コードはタルカンにまでその力を及ぼしていたのだ。さらに、アフ=メテムとの邂逅を経てメーコラーへと生還した後、テラナーは超知性体エスタルトゥ復活の目撃者ともなる。
そうして、銀河系への帰途、暴走したドリフェルの猛威によって停滞フィールドに閉じ込められ、 700年の時間を失った後に、かれはまた「アムリンガル」の名を耳にすることになるのだ。局所銀河群を包括する超知性体〈それ〉の力の球形体の歴史を記した〈アムリンガルの年表〉にからんで……。
さらに数十年後、ローダンはコスモクラートの使者から、ハウリの口にした「公会議」が、1000万年前、いみじくもかれの故郷である局所銀河群のいずこかの銀河――そここそがアムリンガル!――に招集されたことを知るのだ。アムリンガル……謎多きかの場所は、いまだ見いだされない。
……とゆーわけで、アムリンガルの謎が増しただけのお話だった(笑)
作中出てくるアムリンガル公会議については、1593話でちょろっと、翌1993年に出た惑星小説358巻『七日目の王』(マール)でこれまたちょろりと触れられているが、同年マールが亡くなったため、以降の展開はなかった。
先読みされている方ならご存じのとおり、アムリンガルの年表ネタはカンターロ・サイクルどころかリング人サイクル中盤まで続いたあげく、どこにあったのか、何が書いてあるのか、これまたホントウのところはさっぱりわからないままに終わる。
2200話台になって小マゼラン星雲の昔の名称がアムリンガルである、という設定が唐突に出てくるが、だからどーしたという状態である。
さらにその後、ニューロヴァース・サイクルで得られた知見を加味して考えると、「〈それ〉の誕生史が書かれた年表」「過去と未来の事件を記録した年表」とゆー代物は、あるいは〈それ〉の年代記作者であるデロリアン・ローダンが紡ぎあげた、1800万年の時間ループの記録ではないのかとも思うのだが、昨今の草案チームはんなもんどうでもよろしいみたい。
最後に、当時血涙流して漏らした叫び:
マール、おまっ、プロット作家が、どーしてこのタイトルで猿の惑星にっ……!
■Perrypedia:Das Juwel von Amringhar
ディスカッション
コメント一覧
宇宙の新生!打ち切りになっていなければ、ヘクサメロンの最期が本編で描かれたりですとか、“アムリンガルの公会議”の過去話、さらにはなぜエスタルトゥがタルカン宇宙から救いを求める声に応えたのか、についても(一部が)明かされたりしたのでしょうか。
当時、巻中レポートに掲載された予告記事「ヘクサメロンの王国」を読むと、宇宙の新生にまきこまれたローダンがコスモクラートの呪いやらなにやらから解放される仕組みになっていたようです。……あの状態のタルカンから、作中可能な期間内にどーやってそこまでいくのかわからないのですが(笑)
ストーリーがそちらへ進めば、やはりヘクサメロンとの直接対決もありえたでしょうし、ヘプタメルもその後描かれたものとはちがった形になっていた可能性はあります。
ただ、その方向で書ききれたかどうかは、疑問も残ります。結果的に、カンターロ・サイクルはかなり好評を得たわけで……英断、だったんでしょうねえ(^^;