2900話:怪奇! 水星の地下に謎のレムール兵馬俑を見た!!(爆

ローダン

3月17日発売の、ヴェレーナ・テムゼン著の2900話「宇宙遺産(Das kosmische Erbe)」をもって、新サイクル〈ジェネシス(Genesis)〉が開幕した。

ぶっちゃけ、2700話からはじまった「3000話へむけての壮大な物語の緒」であったはずのアトピック法廷/時のかなたの地の両サイクルが、「すべての時間の果て」までいってまた戻ってくるとゆー超荒技のすえ、「すべての未来を知る」超存在テズが別の時間線にひっこんですべてご破算とゆー超グダグダな結末をむかえたため、2900話から仕切り直しというとんでもない事態になっている……のだが。
残り100話、いったい何がどうなるのやら。

ともあれ、今回はあらすじ書いてたらやたら長くなってきたので、まずは序盤のみで。
前サイクル終了から29年を経た、新銀河暦1551年5月のある日に、物語は幕を開ける。

「歴史的瞬間です! テラナーの心に寄り添いお届けする〈刮目放送〉アウゲンクラー、こちら現場のナーティヤ・コマルカンです。いま並び立つ2人の男性、どちらもヒューマノイドですが、異なる惑星、それどころかちがう島宇宙の生まれであります……!」

握手する2人の男。ひとりは自由ギャラクティカー連盟主席、フェロン人ヘケナー・シャロウンであり、この場においてはギャラクティカムをも代表する。いまひとりは、着任したばかりのラール人大使カドホノル=ロム。かつて敵対した両銀河が、新時代に友邦として新たな絆を結んだ瞬間である……。

……プチ。
「ちょっと消さないでよおじーちゃん見てるのに」

水星へ向かう直径30mのマイナー・グローブ《カッツァー7》。操縦席に座るファリエ・セフェロア=ローダン中佐が茶々を入れる。

「このあと、おじーちゃんも出てるんでしょ?」
「まあ、そうだがね。大使殿とは握手しただけで、あとはそっけないものだよ」

ある意味、それも当然といえよう。おじーちゃんこと、自由ギャラクティカー連盟のサン計画担当コミッショナー、ペリー・ローダン氏は、2110万光年かなたのラルハトーン銀河では〈ヘトールク・テッサー(すべての破壊者)〉として悪名を馳せているのだ。
ちなみにサン計画とゆーのは、アトピック法廷にまつわる事件が起きる直前、ローダンの提言を受けた、時のギャラクティカム議長にしてアルコン皇帝ボスティクによって命名された、多銀河連合的な星間防衛プロジェクトである。由来は会談の舞台となった星系からで、決してSAN値が下がるとかそーゆーのでわない。

ともあれ、ローダン、ボスティク両名の“エクピュロシス実行(予定)犯疑惑”からこっち、すったもんだのあげく放置されていた計画が、近年ようやく実現へと進捗を見せ、いっそラルハトーンも仲間にしちゃえばいいじゃないと、大規模転送ステーション〈星門〉連絡網の再建にかかる財源やら人材やらも、プロジェクトの範疇とみなされている。
オルプレイド銀河での事件が終わりを告げ、銀河系に帰還した後、ローダンの孫娘ファリエさんは、パイロット一筋だったはずがなぜか軍人さんになり、いまでは《ラス・ツバイ》所属空間揚陸部隊の指揮官である。

である……が、今回、水星に向かう搭載艇を運転操縦しているのは、単に孫との時間をとりたいおじーちゃんのたってのご指名であった。まあ、孫の方は孫の方で、最新型の艇を飛ばせるとあってパイロットの血が騒ぎ二つ返事で承諾したらしい。
ひとりで水星側ステーションと連絡をとっている少尉はいい面の皮である。

「それで、いま向かってる遺跡って何なの?」
「ふむ。古代中国の兵馬俑というのは聞いたことがあるかね?」

テフローダーのお嬢さんには無理な話である。
古代中国、秦の始皇帝がその墓所に、生前を模した軍隊やらなにやらの焼き物の人形(等身大)8000体余りを配置したとされている。サンシャインに見にいったぜ兵馬俑展。
で、今回、地下資源探査の折に発見されたレムール人のステーションに、多数のレムール兵の彫像が発見された。前例のない発見であるだけに、古代レムールのオーソリティというか、実際にレムール人に“会った”経験をもつ稀有な人材であるところのペリー・ローダンにお声がかかったという次第。

水星の小都市カラド・タウンからほど近い遺跡発掘現場。
ボーリングによって開けられた縦穴は現在封鎖されており、転送機を介してのみ立ち入りが可能である。発掘主任である考古学博士ファデラ・ロッツィ女史に案内されて踏み入ったローダンたちの前に、ずらりと並んだ赤みがかった金属でできたレムール兵の彫像。その数、12000体。

「ハレム・アーミーの国へようこそ」

考古学者のひとりナカチェのセリフに首をひねるファリエさん。
ハレムといっても後宮ではありません(ぁ 彫像の素材の名称なのでした。
ふたつと同じもののない、まるで各時代のレムール兵をとりそろえたような彫像は、その99.99%がレムール合金(テルコニットより硬いぞ)製。赤みがかった色はここからきているのとこと。残りの0.01%のそのまた99%は、レムール人がドロカルナム(竜の金属)と呼んだPEWメタル。
そして、最後に残るのが正体不明のハイパーアクティヴな素材、仮称〈ハイパー作用剤X(Hyperagens-X)〉、略してHAX。
HAX入りレムール金属製アーミー・スタチュー。略してハレム・アーミーなわけだ。

発掘の副責任者デジオ・ガッタイも合流し(寝坊した)、解説は続く。彫像の様々な“装備品”中で最新と思われるものや、ステーション内部の調査は、この遺跡がおよそ55000年前のものと結論づける。一方、ガッタイによる素材の年代測定は、彫像が作成されたのは35000年前とする――すでにソル系にレムール人など存在しない時代だった。
そして……

「退屈した学者のひとりが、たまたま監視カメラの映像を早送りしたところでわかったのですが」

彫像の顔が、かすかに動いているのだ!
ボーリングと、引き続いての発掘で、ステーション内部に再び空気が満たされた結果と目されている。当初はごく顕微鏡サイズ的に、徐々にその動きの度合いは増しているらしい。まるで彫像たちが、天井の、あるいはその彼方の一点を凝視しているかのように。
そこで、ナカチェが驚愕のうめきをあげた。彫像たちの“動き”が肉眼で確認できるほどに加速していた。しかも、かすかな緑色の輝きをおびて。
ハレムに混入されたPEWメタルが活性化しつつあるのだ。

……舞台はいったん地球へと戻り、ローダンはラール人大使歓迎のレセプションへと出席する。
改めてカドホノル=ロムと対面したローダンであるが、このラール人、必ずしもサン計画に賛同する立場ではないが、「ヘトールク・テッサー」との言葉のキャッチボールを楽しんでいる様子。案外仲良くなれるやもしれず。

ここでローダンは懸案事項を切り出した。かつてアトピック法廷に収監された後、ローダンとボスティクは囚人仲間ラール人アヴェストリ・パシクとともに脱獄しラルハトーン銀河へ逃げたわけだが、彼らを救出にきた《ラス・ツバイ》から、幾名かが現地に残留した経緯があった。
レジナルド・ブルやイホ・トロトらである。
消息のわからない友人たちの捜索のため、近年になってエクスプローラー船《オヴァロン》がラルハトーンに派遣されたが、こちらもその後、音信が絶えていた。
《オヴァロン》の名こそ知っていたものの、再建途上のラール人文明にとって重大事ではなかったため、現状はわからない。だが、いくつか伝手をたどってみよう、と答えるカドホノル=ロム。

「貴公のような人間に、貸しをつくっておくのも、悪くない」

ラール人大使との会話を終えたローダンに、護衛として随伴していたファリエさんが、水星から至急再訪を求める連絡が入っていることを告げる。
レセプションを中座する旨を告げ、水星首都アサルク・シティへの転送機連絡使用の許可を得ようと連盟主席シャロウンを探しあてたところ、その前に〈タワー〉へ来るようTLD長官からの要請が入っていた。

アッティラ・レッコルの後を継いだマウリッツ・ヴィンガーデンは、薄くなった頭髪をオールバックにした身長1.6mの小男だが、目の前にして感じるオーラはけっして馬鹿にしたものではない。
ポジトロニクス、特に生体ポジトロニクスというものを信用しない(前サイクル、ポスビがらみでいろいろあったしね)ヴィンガーデンが、あらゆる盗聴から遮蔽されたと語る執務室で、ローダンが告げられたのは予想だにしない話であった。

「2時間ほど前、水星のバックドア転送機で到着した旅客の中に、不審人物がおります」

受入転送機からあらわれた5m角の貨客コンテナがほどけ、乗客が三々五々歩み出る。そのひとり……身長はおよそ1.8m、30歳前後、暗色の髪と無精ひげ。多機能ジャケットもズボンもカーキ色だ。荷物といっては、レザー製のバックパックひとつきり。
ローダンには見覚えのないこの男について、わかっているのは搭乗員名簿にあった名前だけ。

〈アウレスのアダム(Adam von Aures)〉


アウレス……それは、ローダンの息子デロリアンがかつて契約を結んでいた、知性ある都市の名前。だが、そこは本来、デロリアンが伴った数名の協力者を除いて無人であったはず。この男が、そこと関係があると?

だが、ヴィンガーデンが懸念を抱いているのは、それだけではなかった。
綴りの一部を消し、組みなおし、1文字付け足して……現れた名称は、ローダンをも戦慄させた。
新銀河暦1514年、銀河系に現われたアトピック法廷は、将来起こりうるべき重大な宇宙的災厄〈銀河系の劫火エクピュロシス〉の主犯格(Kardinal-Fraktor)として、3名の人物を糾弾した。
ペリー・ローダン、アルコン皇帝ボスティク1世、そして、最後の、正体不明の人物が……

〈アダウレスト(Adaurest)〉

会わねばならない。いまや超存在〈テズ〉の存在しない時間線にあるこの銀河系において、エクピュロシスは実際に起こりうる脅威である。もし、この男がアダウレストであるなら、危機を未然に防ぐためにも情報源たりうる。

しかし、アウレスのアダムは、TLDエージェントの追跡にも関わらず、忽然と行方をくらませていた。
レムール遺跡から急を告げる連絡が入った、まさにそのタイミングで。

(続く?)

Posted by psytoh