ローダン3000話『地球神話』(2)

ローダン

伝説と化した故郷・地球を探しもとめる話の代表格は、やっぱりE・C・タブのデュマレスト・サーガだろうか。The ReturnとChild of Earthまだ読んでないんだよねえ……どうなったのかにゃあ。
それはさておき。3000話『地球神話』、ちょっと長くなってしまったので、後編ではなく中編である。

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ローダンは艦内セミトロニクス〈アナンシ〉を再起動するため、《ラス・ツバイ》司令室へ向かった。反重力シャフトも停止しているので、2時間がかりである。
司令室の入り口で、指紋認証……細胞認証……血液認証…まだか…音声認証:

『リンカーン』
「第16第アメリカ大統領」
『ノーマ・ジーン・モーテンソン』
「マリリン・モンロー」
『スーザンとマイクルの誤差は』
「8分」
『ようこそ、ペリー・ローダン』

……おい、出入りするだけでそれか。しかも、なんだその、シクさんと一緒だと口にできなさそうなパスワードwww

指揮台の座席におさまったローダンは、ゼミナさんとの対話で得た知識を反芻する。神話と化した地球。現在、銀河系を支配するカイラ人。そして、活性装置携行者のインパルスを探知するゾンデ、“モバイル・メンタル走査器”が銀河系ハローを徘徊しているという。
だが、このまま手をこまねいているわけにはいかない。ローダンはおのが権限で〈アナンシ〉再起動の命令を下した。直径8メートルの透明な球体に、セミトロニクスのアヴァターが浮かび上がる。

「ご機嫌いかが、ペリー?」

いつものセリフで問いかける半透明なブルーの姿は、しかし、“成長し”ていた。かつては4、5歳くらいの少女の姿であった〈アナンシ〉は、いまや成人した女性となって浮遊していた。それがいかなる意味を持つのか、ローダンにはわからない。
損傷を負った《ラス・ツバイ》の修復を開始し、サスペンション・ベンチで眠る乗員たちを覚醒プロセスに移行させ、既存ハイパー周波を傍受し状況の確認をはじめたセミトロニクスに、ローダンは訊ねる。いまは「いつ」なのか。

「新銀河暦2045年9月8日です」

そう――彼らは493年を失っていたのだ。

艦の損傷は、予想外の強度に達していたカオテンポラル干満フィールドによるものだと報告する〈アナンシ〉。その仮説では、ワンダラーはもはやこの宇宙の一部ではなく、《ラス・ツバイ》はその断絶がもたらす時空・ハイパー空間の乱流に巻き込まれたとのこと。
また、その際生じた“突発性多次元非同期”のため〈アナンシ〉自体も自己を引き裂かれたような状態にあったという。
ゼミナさんが〈アナンシ〉を麻痺させた理由として「発狂しそうだったから」と述べていたことが、セミトロニクス自身によって肯定された形であった。

ともあれ――〈茨姫〉のめざめに呼応した猟犬のように――巨艦は覚醒した。
サスペンションから復帰した乗員たちが司令室でも空席を埋めていく。白髪のアルコン人アトラン。ローダンの妻、アトル人シク・ドルクスタイゲル。孫娘ファリエ・セフェロア。艦長のエルトルス人カスカード・ホロンダー。パイロットのブリオニー・レフ、アンドリス・カントヴァイネン。……そーいや、若芽の保護者テーラー君はどーなっちゃったんだろうねぇ……。
アルコン人のひそかな視線に、こちらもほんのちょっとだけうなずくローダン。やだ、目と目で通じ合っちゃってる……。当然、疑惑の対象は、のんびりあくびをかましているゼミナさんである。問題は、ふたりのミュータントの反応。ドン・ヤラドゥアのうなずきは、メタボリストがゼミナさんの生態活動をロックオンできるということ。一方のグッキーの表情からは、読心に失敗したことがローダンには見てとれた。

1時間後、主立った幹部を集めて会議で状況確認がおこなわれた。新銀河暦2045年――ほぼ500年後の未来に漂着した事実が人々に重くのしかかる。
アトランは当然のようにゼミナさんに対する疑念を口にする。ローダンとて100%の信頼を寄せるわけではないが、もしゼミナさんに悪意があれば、無人の《ラス・ツバイ》をいいようにできたのも疑う余地のないことではあった。
ちなみに、さっきあくびをかましていた彼女は――これ、実はドン・ヤラドゥアが疲労を促進したせいだという――、その了承のもと配置されたタラ型ロボットに案内されて、あてがわれたキャビンにひっこんでいる。移動時に、なんにもしないのに巨大なトランク――パアウ――が、すううっとその後ろに続いたのには少し驚いた(笑)

〈アナンシ〉指揮のもと、修理ロボットが応急処置にあたっているが、多くの機能はまだ回復しないか、十全に作動しない。
パラトランス・プログレッサーは起動不可能。36基あるパラトロン・コンヴァーターの動作も保証できない。パラトロン・バリアを張れないことはもちろん、パロス影バリアも投入不可。攻撃兵器としてのパラトロン・ランチャーも駄目。最強の〈アーゲンフェルトの雷〉も、4基のプロジェクターすべてが使用不可となっている。
とはいえ、銀河系内での航行ならリニア駆動でことたりる。216門のMVH砲や、ハイパーパルスランチャーの動作にも問題はない。希望する乗員の離脱に使用した2隻を除く、マーズ級巡洋戦艦6隻。240隻のコルヴェット、120隻のマイナー・グローブ、500機のスペースジェット、420機のハレー型戦闘機、300台のシフト……。
そう、《ラス・ツバイ》はスーパーノヴァ型万能母艦、まさしく“強大な力”なのだ。

ハローから銀河系へ飛行し、“中央銀河要塞”とやらにレジナルド・ブルとのコンタクトを求める、とおおよその方針を決したところで、ローダンは休憩に入った。

自室のベッドに横たわり、子供6人孫1人の写真をおさめたホロ・キューブなぞ見つめるローダン。その大半は、いまドコでナニしてんのかわからん連中だが……おい、デロリアンの写真とかいつ撮ったw

30分ほどそうしたところへシクさんが来室。ワオ! 銀河の救世主様のベッドね、もちょっと場所空けて! とルパンダイブ……はしなかったが(笑) そっと身を寄せ合うふたり。

「で、記憶に欠落があるとかゆーあのナイスバディなお客様のこと、どー思ってんの?」
「ナイスバディかね?」
「そー思わなかった?」
「……(視線をそらす)」

こ、こわいwww だが、シクさんはそれ以上その点について追求することはなく、横臥したままローダンの方を向いて、

「このままにしたら、どうなるかしら?」
「このまま、とは?」

もし、銀河系へ帰らなければ? 失われた500年は、乗員の誰にとっても流刑のようなもの。だが、これをチャンスとみなしたらどうだろう。誰もわたしたちを待つものはいない。誰もあなたを待っていない。あなたはその全力を尽くし、〈劫火〉を消し止めた。銀河系への負債はない。あなたは自由なのだ……。
それも考えないではなかったよ、とローダン。10秒くらいね、とも。
――この故郷なるものの特別な重力よ。
そう笑うシクさん自身、故郷であるアンスレスタ銀河と隔絶して久しい。いつかそこへも帰る日が来る。いつか、われわれがしたいと望むことをできる日が。

その時、警報が鳴り響いた。

接近中のふたつの物体は平たい楕円形……つまり小判形で全長100メートルちょっと。舳先と艫にアンテナが林立している。5000万キロと、トランスフォーム砲射程のはるか外で、2基は《ラス・ツバイ》を中心とした周回軌道に移った。発される、暗号化したハイパー通信。
グッキーのテレポートで司令室へ連れてこられたゼミナさんは、それがカイラ人のゾンデ、前述のモバイル・メンタル走査器であると喝破した。彼女の聞き知るところでは、数万基が銀河系ハローに展開しているという。
広大なハローに対するにはわずかな数ともいえるが、ナシャダーンによると、それは“ひとつの世界がこの宇宙から消えた場所”、すなわちワンダラーのあった宙域を集中的に警戒していたらしい。ゾンデはローダンの、というか活性装置のインパルスを13光年の距離から探知できる模様。ただし、装置の増えるごとに相乗効果で有効距離が延びる。アトランの活性装置で13×13、さらにグッキーのものがプラスされて13×13×13光年……。優に2000光年の距離から《ラス・ツバイ》の所在を突き止めることが可能となるという。

そして、《ツバイ》が加速をはじめた瞬間、進行方向に3隻の巨艦が物質化した。
基本はゾンデと同じ小判形だが、中央部が空洞になったリング状。長径2800メートル。厚みは300メートル。空洞部には、4本の支持架に納まった赤いエネルギー球体が宝玉のように輝いている。シルバーにきらめく鏡面のような船体に、大小さまざまなドーム状突起が見える。
こちらから呼びかけるより早く、中央の船から通信が入った。

ホロ球体に浮かび上がったのは、ヒューマノイドと言えないこともない黄金の姿だった。
比較対象がないのでわかりづらいが、おそらくローダンよりも背が高い。ずんぐりした胴体に長い脚。両肩が球状に張り出しており、両腕の先には2本の手――外側を向いた方は筋肉質で不格好、内側はごく繊細な造りをしている。
肌は金色で斑が見られる。無毛の頭蓋では特に文様のようだ。土色の瞳に瞳孔は紫の横棒。鼻は平たく、鼻孔がこちらのにおいを嗅ぐかのように開いた。唇はなく、口のまわりは角質化していた。
抑揚のないインターコスモで、

「本艦は《マイダク・オダイル》。ハロー領事アイオングマ・バルダライセの命を受け、我らのテリトリーを警固する部隊の先鋒である」

道を空けてもらいたい、と言うローダンに対し、カイラ人は臨検を要求する。

「キミのもののような船をワレワレはずっと待ち受けていた。カイラ領事府の平和同盟に対する脅威とならぬよう確保する必要がある」

誰を脅かすつもりもない。本艦に来るのもよい、わたしにもそちらへ行く用意がある。しかし、本艦を明け渡すつもりはない――そう言った瞬間、ローダンは相手の内側の手の一方が、ほんのわずかな合図を送るのを見た。
ホロンダーの言う“目玉船(Augenschiff)”――その中央の艦が砲門を開いた。

敵の砲はおそらくインパルス砲。展開されたHÜバリアがなんなく跳ね返す。インパルス・モードのMVH砲によるこちらの反撃も、高性能なパラトロン・バリアと思われる障壁の前に効果がない。お互い、手探りの状態である。
リブロトロン・エンジン――ホークVコンヴァーターによるリニア駆動――が復旧したとの〈アナンシ〉の報告に、次の被弾と同時に半空間へ離脱するよう命じるローダン。無駄にリスクを負うこたねーだろというアトランの諫言は少々遅きに失したか(笑)
目玉船の次なる攻撃は、1000メガトン級のパラトロン・ランチャーだったらしい。フル火力ではなかったようだが、それでもリニア空間へ逃走する寸前、《ラス・ツバイ》を包むHÜバリアが崩壊する威力だった。
「間一髪だったな」と、アルコン人。
「いつものことでは?」そう返すローダンだが……いや、この場合はアトランの方が正しいんじゃないか?(笑)
それはさておき、すたこらと接敵宙域から逐電する《ラス・ツバイ》であった。

-*-

〈出口のない道〉は、カイラ人の擁する最悪の懲罰ステーションである。
ランコを救うために情報を集めた際、真偽のさだかでない様々な噂を耳にした。囚人を狩りたてる野獣、プラズマの塔、気温はつねに80度を超え、囚人たちは疲れて眠るまでひたすら逃げ続ける……。

いま見せられた映像では、遺伝子操作で凶暴化したオクリルが囚人2名を追い立てていた。逃亡者の一方の目には果てしない疲労感しかなく、動作もまるで人形のよう。やがて、倒れ伏した姿は動かない……。
カイラ人の恐るべき兵器〈生命抑圧器〉を知らぬものはない。ゾリウス星系に下された〈ヌーム〉の懲罰はあまねく知れ渡っていた。いかなる原理か、それは“生きる意志”を奪うのだ。子供を成すこともなく、未来は奪われ、無人の地と化す。
当時、現地にいたNDEの工作員も、ミッションを遂行する気力どころか、帰還する意志すらなくし、その惑星のいずこかで息をひきとったという。NDEはその全力を傾けて、この恐怖のテクノロジーの秘密を探ろうとしてきたが、これまでのところ、カイラ人の諜報組織CP――サイファー・ポールではない(笑)、〈カイラ全書館(das Cairanische Panarchiv)〉である――を相手取っての情報戦には勝ち得ていなかった。

だが、1年前の作戦で得られたわずかな映像によれば、〈出口のない道〉では〈生命抑圧器〉が使用されているものの、理由は不明(囚人を長く苦しめるためか)ながら、その効果は比較的抑えられているらしい。意志力を根こそぎ奪われる前に、装置本体を探り当てることも可能かもしれないのだ。
ジュナさんの役割は、要するにおとりである。〈出口のない道〉への潜入それ自体は隠しおおせるものではない。それゆえに、より明らかな“目的”――〈生命抑圧器〉ではない――を持つ隠蔽役として、彼女が必要だった。

アファラク星系第8惑星、氷雪世界ペロリウス。これまで氷惑星を訪れたことのないジュナさん的には、真っ白で平坦な死の世界を想像していたのだが、現実はまるでちがった。雪山や雪庇は、吹きすさぶ霜のなか、まるで海のようだった。餌を求めて徘徊する毛皮に包まれた獣、白い冬羽の鳥が舞い、嘴だけが非現実的なまでに赤い。

ジュナさんとサイプランは、デフレクター・フィールドに隠れてこの世界を飛翔していた。頭上はるかに、こぶし大に見える環状ステーションこそ〈出口のない道〉である。
だが、いま集中しなければならないのは、前方、白銀の世界のなか浮かび上がった白い塔……制御センターだった。
高さ103メートルの塔のてっぺんに、直径12メートルの居住球体が設置されている。鏡のような白を好むのはカイラ人建築に共通することだが、この惑星だとまるで迷彩効果を狙ったかのようだ。

本来、作戦のこの部分はサイプランだけで十分。自分が連れてこられたのは、要するに訓練である。最初はトリヴィドで放送されるような冒険の登場人物になったような非現実感だけがあった。
だが、いまの彼女は怖かった。警報が鳴りはしないか。補給業務を管理するポジトロニクスが置かれた、普段は無人のこのステーションに、攻撃をしかけてくるものがいはしないか。死が恐ろしかった。ランコを助けられずに終わるのが、怖かった。
目の前でデコーダーを操作しているNDEの男……テラを信じている男。なぜ、彼やコンダイクは、ああも確信をもって語れるのだろうか。テラなど、テラナー(笑)以外には何の意味もないお伽噺ではなかったのか。

クラックして開いた扉を抜け、停止した反重力シャフトをのぼる。倉庫と思われる場所には補給物資と思われる箱が山積みにされ、そのごく近くに……格子型転送機があった。それを抜ければ〈出口のない道〉。だが、同時にカイラ人の支配領域のまっただなかに飛び込むことになる。今回、ここに潜入したのは、別の目的あってのことだった。
再度のデコーディング。通廊を抜け、センサーを迂回しつつ管理ポジトロニクスのターミナルへ。サイプランが多目的アームバンドを操作し、NDEが入手したセキュリティ・コードでハッキングを開始した――が。

「問題発生。時間を稼いでくれ」

おいいいいっ!?(笑) 何らかの警報にひっかかって、ロボットが触手をワキワキさせながら登場――ジュナさんの銃がうなり、即刻退場した。響き渡るサイレン。
格子戸が開いて飛行するロボット部隊が室内に突入してくる。
「つかまえた――あと、1分」サイプランがつぶやく。
だが、すでにジュナさんのディスプレイにはバリアの過負荷を知らせる警告ランプが点滅している! 30秒で支度しな! 爆弾のスイッチを入れ、放り投げるジュナさん。ビビってたんじゃないの?(笑)

「コード保存……完了!」

どっかーーーん。ジュナさんの目の前が真っ白に……。

気がつくと、シャフトを下降中だった。サイプランがこちらの防護服を遠隔操作していたらしい。
「目がさめたか。それ、爆弾を落とせ!」
もうわやくちゃである(爆)
搭載艇でふたりを出迎えたコンダイクA-1も、開口一番、
「成果はあったのか? ……あの花火の他に」
もう潜入工作というかほとんどテロである。だが、そう、成果はあったのだ。
〈出口のない道〉への転送機受入コード。
〈生命抑圧器〉が待ち受ける、牢獄への。

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さらに2度のリニア行程を経て、《ラス・ツバイ》は1000光年以上の距離を稼いでいた。とはいえ、ゼミナさんの(ナシャダーンの)理論通りなら、これでも探知圏外に出たとは言えない。〈アナンシ〉も、猶予はせいぜい4、5時間と見積もっていた。
ローダンは今後の方針を決めるべく緊急会議を招集した。艦内評議会のスポークスマンであるコル・ツバイが、乗員投票の結果を報告する。賛成多数により、ローダンは今後もミッションリーダーとして認められた。3000名以上の保留票はあったが、反対票はなし――まあ、反対しそうな人間は、そもそもワンダラー行く前に下船してますけどね、とコル・ツバイが苦笑する。アトランも代表権を持つ取締役……じゃない、サブリーダーとして認可された。そもそも、リーダーに突き上げしてる場合じゃないよねえ(笑)

〈アナンシ〉からも通信傍受で得た新情報が報告される。いつの時点かは不明だが、ソル星系では〈ラプトゥス(der Raptus)〉と呼ばれる事件があったという――“除去”ないし“強奪”を意味する。何があったのかについては、これまた伝説が錯綜している。
――テラとルナの除去
――長らく星系を占拠していたテラナーの一団のエクソダス。
#これについては、秘密の銀河間転送機網を経由して伝説のララトム(Larratum)銀河へ逃げたとされる。ラルハトーン(Larhatoon)銀河の濁りだろう。
――本来の居住者たちの銀河系ハローの惑星への追放。
#惑星の名は、カーソルだったり、ワンダラーだったりする。

その他、テラナーの歴史にまつわる、種々雑多なバージョンの数々:
――テラナーはソンブレロ銀河ことグルエイイン(Ghrueyin)に発祥し、そこで戦乱を起こしたあげくに追放された。(タケル人か)
――テラナーの故郷は、とある暗黒星雲の中の惑星ガイア。(NEIじゃねえか)
――銀河系に最初のテラナーの一派テルムール人(die Termurer)がおり、その故郷惑星は“星のけだもの”たちによって破壊された。(イロイロごった煮)

真実はどこにあるのか。それは現在の銀河系の住人には手が届かないものになっていた。
ポジトロニクス殺しポジサイド〉と呼ばれる、銀河規模の情報カタストロフによってすべてのデータバンクが破損するか、機能を失った。その後起こった〈データの大洪水〉――あらゆる計算脳が、それぞれ相反する内容の多量のデータで上書きされた――により、どれが正しいデータであるのか、もはや確認できない状態にある。
「なんと親切な偶然か」アトランが皮肉る。
そう、偶然のはずがない。何者かが計画的かつシステマティックに人類の歴史を破壊し、改竄したのだ。
いかなる手段をもってすればそれが可能なのか、想像もつかない。だが、もし、本当にあらゆるポジトロニクスが“殺され”てしまったのだとしたら……。

《ラス・ツバイ》が、最後に残された人類の記憶なのだった。

(続く)

■Wikipedia:E・C・タブ

Posted by psytoh