テラは夢を見ている
えー、まあ覚書というか、死蔵しているものをちょこちょこっと出しておこうかなと。
以下は、1500話「不死を呼ぶ声」の翻訳をしている際に、関連するあらすじとして用意したもの。1500話前半において、1491/92話に出てくる少女ブリスが重要な役どころで再登場するので、『銀河系に還る』ですっぱりカットした彼女の紹介のためだった。
結局、1500話は7割方進んだあたりでストップしたので、こちらも出番がなくなってしまった。ここらで供養しておきたい(笑)
#いつもと違って段落アタマが一字下げなのもそのへんで。
謎の停滞フィールドに囚われて遅すぎる帰郷を果たしたペリー・ローダン。だが、三重の障壁に包まれ外宇宙から隔絶された銀河系はドロイド種族〈カンターロ〉の圧政下にあった。レトルト生命たるクローンと本来の生胎発祥者を種族内で互いに争わせ、また宇宙航行を禁ずることで星間文明の分断に興じるカンターロの背後には、タルカンに発祥する種族ナックの支持と、そして神秘に包まれた〈回廊の主人たち〉と名乗る存在があった。
太古にブラックホールを結ぶ〈星の暗黒回廊〉を築き、滅び去った偉大な種族の名を詐称する存在の玉座は、封鎖された銀河系の中でもさらに禁断ゾーンの太陽系、テラ! 〈主人〉に仕えつつも不可解な行動をとるナックのアイシュフォンとエムザフォルにいざなわれ、ローダンは超バリア〈デフトラ・フィールド〉に包まれ、すべてのハイパー機器が作動しえぬ〈絶対停滞〉状態の太陽系に潜入し、〈制御ステーション・タイタン〉から転送機を経由して故郷テラの地を踏んだ。そこは擬似体感装置〈シミュセンス〉のネットワークが支配するドリーム・テラ、眠りながら架空の人生を生き、死んでいくアクセサーたちの世界だった。
事前に〈チップ〉を移植され、ネットワークに接続されたローダンも、夢のテラを目撃し、回廊の主人のひとりドリアン・ワイケンの姿をかいまみた――銀河系を支配するテラナーの代表者として。なんと甘美な夢! テラナーこそ銀河系の支配者。だが、夢から覚めてみれば、そこにあるのは廃墟だけが連なる荒れ果てた惑星でしかない……。
一定の年齢に達したテラナーは、手首に埋めこまれたバイオ・チップからシミュセンス網にアクセスし、夢の世界(トラウムテラ)に融合する。しかし、介護ロボットの世話をうけながら死ぬまで夢見つづける人々のなかにも、やはり現実との接点を捨てきれない者たちがあった。その一派が〈ドリームハンター〉。他人の夢に介入することをなりわいとする夢の狩人たち。数千年の人生のためか、夢の指標たるドリーム・インデックス値の異常に高いローダンは、かれらにとり恰好の獲物。ハンターのモルト・ゲリンに追われ、ローダンはテラニアの廃墟に逃げ込んだ。かれを匿った子供たちは、〈キッドボット〉と自称した。
ブリスとシンヴィというふたりの少女に率いられたキッドボットは、シミュセンス網にアクセスできる年齢に達しない幼いテラナーたち。いたるところにある廃墟から、なにがしかの使える装置類を拾い集め、〈電子市場〉と呼ばれる闇市で売ることで生計をたてているのだった。そして、一定の金額がたまると、リーダーはチップを手に入れ、シミュセンスに入ることができる。ローダンの案内で穴場をみつけたキッドボットは次のエレクトリック・バザールでかつてない収益を上げ、闇チップを獲得したブリスはグループを離れて夢のネットワークにアクセスした……。
ブリスの母アレイラは、〈ドリームヘルパー〉に属していた。「夢見る権利は平等」というモットーを掲げるヘルパーたちは、他者の夢をもてあそぶハンターと対立関係にあったが、ローダンはかれらが共にシミュセンス網の存在に依存したものであることに気づく。二勢力は、いわば硬貨の両面。覚醒しつつも依然として夢見つづけているのだ。しかし、ともかくもハンターよりはヘルパーのほうにより共感を見出したローダンは、そのもとでチップの制御装置〈マルチタスカー〉を提供され、それまで時折生じていた夢の「発作」から完全に自由となる。そして、ヘルパーの長老の語る〈ギガ〉の伝承を耳にする――。
ギガ……「タイタンから生還した男」。シミュセンス網の制御装置は、土星の衛星タイタンにある。制御ステーション・タイタンの中央管制シントロニクスが、テラのすべてを管理しているのだ――ルナのネーサンの存在はなぜか知られていない。ギガなる男は、シミュセンス網をさかのぼり、タイタンに達してなお生還した唯一のドリーマーと伝えられていた。かれはシミュセンスの究極をきわめた男。タイタンのくびきから、ただひとり自由な者。シミュセンスの世界に埋没してしまうのを防ぐマルチタスキングも、このギガがもたらしたとされている。
ヘルパーたちと別れ廃墟にわけいったローダンは、アクセサーの中に植民惑星出身としか思えない者を目撃、惑星ロクフォルトで消息を絶った人々のことを思い出す。〈主人〉たちは悪夢の虜となったテラナーを緩慢に滅びへと押しやりながら、なおもドリーム・テラを維持せんと意図しているらしい。
おなじ廃屋でローダンはまたもモルト・ゲリンに遭遇、囚われの身となる。しかもドリームハンターの本拠こそ、かつての宇宙ハンザ同盟本部HQ-ハンザ! ハンターの首領パスカルは、おそらくローダンを除いては史上最高のインデックスの持ち主。しかしかれは年老い、死の寸前でかろうじて踏みとどまっている状態であった。この老人を生き永らえさせているのが、やはりギガの伝説――いや、ギガは老パスカル自身の「夢」にあらわれ、全シミュセンス・システムを掌握する〈究極のモジュール〉の存在を語ったというのだ。権力への鍵はタイタンにある……。パスカルを動かすのは、しかし権力欲ではなく、自らが死した後もドリームワールドの中で永遠の生命を得たいという渇望であった。生命維持装置のただなかで動けない自分に代わって制御ステーション・タイタンを攻略すべき人物として、パスカルはローダンを選んだ。アブスティルの中で唯一機能する転送機通廊の終点こそタイタン!
無人のタイタンを進むのは、ローダンを筆頭にモルト・ゲリンと部下のハンターたち、そしてローダン救出にHQ-ハンザへ侵入し捕らえられたアレイラとシンヴィ。かれらを待ち受けるのは、〈ドリームオペレーター〉の準備した「夢の迷宮」。ハンターたちのマルチタスカーをもってしてさえ、シミュセンスの悪夢が襲いかかってくる。ローダンのインデックスと、そしてタイタンでテラナーの帰還を待っていた2体のナックの介入がなければ、一行は迷宮のなかで息絶えていたことだろう。
ところが、究極モジュールの広間でかれらを出迎えたのは、ドリームオペレーター……ギガ! しかも、ローダンはその姿に見覚えがあった。ドリームテラで、〈回廊の主人〉ドリアン・ワイケンとして!! ギガとは、タイタン・シントロニクスの産み出した幻でしかなかったのだ。ドリームオペレーターは一行を嘲笑う。すべてはゲーム、〈主人〉の強大さを「玩具」に思い知らせるためのゲームにすぎない、と。テラへ還るがいい。再び夢見るがいい。一切の記憶を失い、ただおのれの卑小さだけを痛感しながら……。
ギガの哄笑が、夢の迷宮ごと人々を吹きとばした。テラに回送されるのだ――そのとき、ローダンを不思議な力がつかんだ。アイシュフォンとエムザフォルが、テラナーを強引に回収したのだ。かれらはタイタンで、ローダンに何らかの行動をとらせる心算でいたらしい。だが、いまやすべてがご破算となっていた。テラナー救出が、いまはソル系におらぬ〈主人〉の注意を喚起してしまったのだ! 全速力で太陽系から脱出するナックの三叉船。デフトラ・フィールドの彼方には、友の危急を察知したアトランの《カルミナ》が待機していた。それへとローダンを転送し、超空間に逃走しようとしたその瞬間、ナックの船は爆発、この宇宙から消滅した。〈主人〉はナックの背信を許さなかったのだ。
廃墟に覆われたテラの荒野を、ひとりの少女がさまよっていた。名をシンヴィ。シミュセンスに適当な年齢に達していなかったため、介護ロボットに追い出されたのだ。ゲリンたちはタイタンでの記憶のすべてを失い、マルチタスキングの助けもなしに夢を見ている。アレイラは急激なドリームワールドへの移行に耐えられず、発狂した。パスカルは死んだ。かれの最期に見た夢が、ギガであったのか、それともシミュセンスを具現化するという〈クリル・クラン神〉であったのか、知るものはない……。
わずか3ヵ月後の1147年5月、真の支配者〈モノス〉は失墜。テラと銀河系の新時代がはじまる。
(Traumterra)
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