無限からの警告 -1-

ハヤカワ版, 誤訳

声が無限をつらぬいて流れていく。いたるところで、時空から乖離して。受容する感覚さえあるなら、誰にでも聞くことができる。けれど、何が起きたか気づくものは、そもそも宇宙に二体しか存在しなかった。
 “それ”と“反それ”である。
 その言葉は虚無中を、まるで時間流のように滑りゆく。
 かれらは互いのあいだに、幾多の銀河の知性体を四次元チェスの駒のように指し合う緊迫した戦場を築きあげていた。かすかに興じる気配とともに、互いを観察する。そればかりか、自立を勝ちとり、何が起こりつつあるかを知ろうとする知性体たちの努力をも追尾していた。
〈ほぼ決まりだな〉
〈そうかな?〉
〈ルールなら守っているぞ〉
〈その主張には反駁できないな〉
 押し殺した勝利感をともなう“反それ”の声。〈計画は順調だ〉
 “それ”はこたえない。少なくとも、明確な文章では。ただおもしろがっているような平静さが感じとれた。そうすることで、自分の観点ではまだ何ひとつ決してはいないと競合者に教えているのだ。
〈あれは――選ばれた無類の狩人は――すでに再び、ローダンの足跡をたどりつつある〉
 “それ”は黙ったまま。この新たな一手に異議のないことを意味する。
〈逃げられはしないぞ!〉
 “それ”は何もこたえない。事実として受けいれたのだ。

原典:316巻『無限からの警告』後半

Posted by psytoh