超空間をこじあけて 尋問編
試訳中、「均衡回路」Ausgleichsschaltung は、「イコライザー」としている。
当初、ON/OFFの切り替わるイメージから「バランス・スイッチ」としていたが、要するにインパルス強度を安定させる機能だと結論した。ちなみに、電気関係では「平衡回路」が一般的のようだ。
#Ausgleiichsschaltung の機能に関しては、モデムや電子回路に置きかえたアドバイスをマガンからいただいた。調べなおした結果、訳語をイコライザーに訂正した。多謝。100%そのまま活かしたわけではないが、(12)の訳は、やっぱりこうだと思うのだ。
(1)
原文:
“Sehr wissend sehen sie aber nicht aus.” Kiran Bay deutete zu den Gefangenen hinüber. “Wer sind sie?”
wissend は「知っている」状態。名詞形 Wissende は「事情通」と訳したり、カピン・サイクルでは「智者」の称号であったりする。
ここをちゃんと訳さないから、次のグッキーのセリフとの接続がおかしくなって、文章の順番を入れ替えたりしている。本末転倒。
(2)
原文:
Doch wie befürchtet, konnte er mit ihren technichen Angaben nichts anfangen. Er mußte die Laren dazu bringen, daß sie über den Translator ihr Wissen preisgaben.
知らない言葉は訳しようがない……のは、この場合、トランスレーターではなくてグッキーのボキャブラリーの問題である。あと、科学者たちが使う翻訳機に、科学用語が登録されてなかったら意味ないし。
(3)
原文:
aber wenn ihr offen zu uns wäret, wurde es uns leichter fallen, euch am Leben zu lassen.”
「正直にゲロするなら、生かしといてやろうって気になるかもしんない」である。この尋問、グッキーはわりと鬼畜なのである。後の超重族のエピソードも、ある意味プレッシャーになっていると思われるし。
(4)
原文:
Aber warum, wenn ihr es gewußt habt?”
イコライザーの存在を知っているなら、見落とすはずがない、とバーリル=トルンは言いたいと思われ。そしてつっこまれたグッキーは、
(5)
原文:
“Nein, nicht ich sage es euch, sondern ihr werdet es uns sagen, damit wir euren guten Willen erkennen.
「いや~、いま尋問されてるのはどっちだっけ?」と、シラを切るどころか回答を拒否している。助かりたかったら、よけいなことは訊くな、ということだ。き、鬼畜。
……あ、グッキーは元々ケダモノだっけ(笑)
(6)
原文:
In der Hand hielt er einen leichten Impulsstrahler, dessen Lauf verborgen war.
Lauf には銃身の意味もある。これを「走り」と読んだのだろうか。
(7)
原文:
und fast hätte mich einer dieser Giganten umgebracht.
「あの巨人たちのひとり」が、「わたし」を「殺しかけた」のである。憶測だが、239pでばったばったと倒れていた超重族のうち、ひとりが活殺自在の術(死んだふり)を駆使したのではないか。追いかけてきたの、ひとりだけだし。
(8)
原文:
Die Laren aber, das wußte Guchy nun, waren die einzigen Geschöpfe, die sie vor dem sicheren Tod retten konnten.
ラール人を殺しちゃったら、超重族だって助からないのに、とグッキーとしては教えてやりたい気持ちでいっぱいに……ならなかったみたいだけど。少なくとも、この文章には超重族の動機は描写されていない。
(9)
原文:
Es fiel ihm nicht leicht, aber er sah keine andere Möglichkeit, als schnell und hart zu handeln.
やりたくはなかったんだけれど、である。他をソフトに訳すくらいなら、ここんとこはちゃんとグッキーの主張を聞いてあげなくては。
(10)
原文:
Wenn Gucky für eine Sekunde ratlos war, so sah man ihm das nicht an.
実際に途方にくれたのかもしれないが。まわりの人間(man)には、そうは見えなかったのである。
(11)
原文:
Hoffentlich ist es nicht zu spät.”
“Vielleicht nicht”, gab der Lare zurück. “Das Versuchsobjekt ist schließlich mit Überlicht-Antrieb ausgerüstet.”
Vielleicht nicht (zu spät). と読むべきだろう。疑問形でもないし、試験機体(テンダー)にカルプが搭載されているという描写とのつながりを考えると、ここは肯定的な意味になるはず。
(12)
原文:
Ich kann mir nur vorstellen, daß sein Einschalten die Impulsmodulation innerhalb des Abstrahlfelds derart anreichert, daß die sogenannte Ausgleichsschaltung eintritt.
sein は前述の「カルプ」であり、Abstrahlfeld は転送機の「送り出しフィールド」。この文章を訳せないと、この話全体の説明がおしゃかである。まあ、マガンの指摘を受けるまでナニだったので、あまりエラそうなことは言えないが……。
(13)
原文:
“Und wenn wir aus der Kreisbahn geraten?”
カルプ=超光速エンジンを起動することで、推力が発生し、現在の周回軌道をはずれたら、あるいは太陽に転落してしまうかもしれない。マリノワ少佐はそう言いたいのだと思われ。そして、ベイ博士がその誤解を、次のセリフで解くわけである。
(14)
原文:
der Schlauch
確かにチューブの意味もあるが、この場合、「大酒飲み」ととった方が、文脈はすっきりする。
(15)
原文:
Du vielleicht?
あんたノーマルじゃないしぃ? という含意があるとみた方が、笑える。
(16)
原文:
und sah sich vergeblich nach einem Sitzplatz um. Die Sessel hatten sich ebenfalls nicht vergrößert.
vergeblich は「虚しく」で、ある行為が成功しなかった場合の副詞。
……拡大されてないと、ロルヴィクの巨体はおさまりきれないのだ。カウチ(長椅子)ひとつ占領しちゃうくらいだから。実は1章のアレは伏線だったのだ!(爆)
(17)
原文:
“Der Mensch denkt aber auch nur ans Essen!”
einとderの法則からして(笑)、der Mensch=ロルヴィクである。
(18)
原文:
Nara wollte gerade etwas sagen, als etwas eintrat, mit dem niemand gerechnet hatte.
ここで、「何かが起こった」のである。「起こるだろう」ではない。
「なんか起きたっ」「時間反動だっ」「うわーみんなバラバラに~っ」……ときて、次章へつづく。だから、時制はちゃんと訳せと。
えーと。メタメタである。
なにが困るって、今回の担当、翻訳統括者なんである。訳文を原文見ないで編集したら……という、いつもの憶測は適用不可である。
飯のタネは、もーちょい真摯に取扱い希望、なのだ。
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