時間超越 未来

ハヤカワ版, 誤訳

フォルツ著の746話”Der Zeitlose”は、あまたの記念号と並んでローダン・オールタイムベストに選出されるほど、本国ドイツでは人気のある作品である。まあ、実際に読んでみると、闇スペの唐突な退場等、つっこみたくなる箇所がないではないが……。
ともあれ、仕事の休憩時間中に、3章をざっとチェックしてみたら、1/3くらい真っ赤になった。3章、30ページあるんだぞ? やっとられんわ。
と、いうわけで、モチベ維持のため、いきなり終章である。いま、いくつか知らない動詞を辞書で確認して、さくっと訳した。お手元のハヤカワ版と対比してほしい。

試訳:
 冷たい風が、アルティプラノを吹きすぎていく。
 痩せこけた錆色の犬が、人影のないティワナクの通りをとぼとぼと歩いていた。ときおり脚をとめては頭をもたげ、においを嗅ぐ。近くに人間がいないという信じがたい事実を、くりかえし再確認するかのように。
 しばらく前から、食糧の調達がむずかしくなっていた。
 大半は鍵のかかった家屋におしいり、備蓄をあさることは、犬にしてみれば容易ではない。
 いずれは近場の町へ移動して食糧をさがさねばなるまい。狩りをするには体躯が小さすぎ、アルティプラノ高原には、そもそも獲物となる小動物がほとんどいなかった。
 猛りくるう風にのって、ふいに、ほとんど忘れかけていた物音が聞こえた。昔ながらの本能がめざめる。わき腹をふるわせつつ、立ち止まると周囲をうかがった。
 犬が聞いたのは、不規則な足音だった。
 注意深く耳が動く。
 横道のひとつに、ひょろりと背の高い人影があらわれた。
 犬はしっぽをふりはじめた。
 見知らぬ男は、メインストリートをきょろきょろと見回している。まるで、ここがどこかわからないようだ。頭からつまさきまで、すっかり埃まみれである。
 人間と暮らした記憶があふれかえり、犬はしっぽをふりつつ、じゃれついていった。
 奇妙な構図だ。見捨てられたティワナクの通りに、ただ男がひとりと、犬が一匹。
 風が強まった。
 まきあげられた埃が、男と犬を褐色につつむ。
 ふたつの姿は、砂塵にまぎれかき消えた。
 なにもかもが、どこか非現実的に見え、どんな鋭い観察者でも、しかとは断言できなかろう。はたしてそこに、男と犬がいたかさえ……

原文:
  Kalter Wind streicht über den Altiplano.
  Ein abgemagerter rostfarbener Hund schleicht durch die verlassenen Straßen von Tiahuanaco. Ab und zu hält er inne und hebt witternd den Kopf, als müsse er sich immer wieder von der unglaublichen Tatsache überzeugen, daß keine Menschen in der Nähe sind.
  Seit einiger Zeit hat der Hund Schwierigkeiten, Nahrung zu finden.
  Es ist nicht einfach für ihn, in die großenteils verschlossenen Häuser einzudringen und die Vorräte ihrer Bewohner zu plündern.
  Früher oder später wird der Hund versuchen müssen, die nächste Stadt zu erreichen und dort nach Nahrung zu suchen. Fü die Jagd ist er zu klein, außerdem gibt es hier oben auf dem Altiplano nicht viel Jagdbäres.
  Über das Brausen des Windes hört der Hund plötzlich ein Geräusch, das er bereits fast vergessen hatte. Alte Instinkte erwachen in dem Tier. Mit zitternden Flanken bleibt es stehen und sieht sich um.
  Der Hund hört unregelmäßige Schritte.
  Seine Ohren bewegen sich aufmerksam.
  Auf einer Seitenstraße kommt eine hagere hochaufgeschossene Gestalt.
  Der Hund beginnt mit dem Schwanz zu wedeln.
  Der Fremde sieht die Hauptstraße hinauf und hinunter, als müsse er sich erst einmal orientieren. Er ist über und über mit Staub bedeckt.
  Erinnerungen überwaltigen den Hund. Er wedelt mit dem Schwanz und windet sich hin und her.
  Es ist ein seltsame Bild: Ein Mann und ein Hund allein auf dieser verlassenen Straße von Tiahuanaco.
  Der Wind wird heftiger.
  Er wirbelt Staub auf und hüt Mann und Hund in dunelbraune Wolken.
  Die beiden Gestalten scheinen sich darin aufzulösen.
  Alles sieht ein bißchen unwirklich aus, und kein noch so scharfer Beobachter hätte mit Sicherheit behaupten können, überhaupt einen Mann und einen Hund gesehen zu haben…

例によって、gdgdである。単語の見まちがい、関係の取りちがえ。シェーデレーアの出現ポイントの想像ちがい(別の場所に、石像と時間の井戸があるのだ)はやむなしとしても、ホント、どうしてこうなったの世界である。
あと余談だが、アラスカの背格好の描写によく使われる hager は、ローダンなどの schlank とは、実は別物。ローダンをいう長身痩躯が、スマートっぽい印象に対して、たぶんアラスカは、ガリガリのっぽさんなのである(笑)
なので、(文脈から当然とはいえ)横道にあらわれた人影は、hagerという形容から、読者はアラスカであるとわかったりするのだった。
4/14追記 訳語をティアワナコ→ティワナクに変更。原文々頭の段下げを修正。

Posted by psytoh