リコです、殿下。
だれかが荘重に、
――50話「アトラン」より
「時間であります、殿下」
とうとう、本篇で(再)登場。リコである。
植民地アトランティス滅亡の際アゾレス海溝深く沈んだドームで、深層睡眠状態の水晶王子アトランを起こした介助ロボット……というか、アトラン曰く、とにかく話相手が必要だった、と表現される。比較的、単純な機能しかもたなそうな、ハヤカワ版の読者には、おそらくそんなイメージがあるだろう。
しかし、ドイツの読者にとって、リコはペーパーバック1冊のタイトルロールをはるだけのキャラクターなのだ。そのへんの事情は、ハンス・クナイフェルの〈アトラン歴史冒険譚〉シリーズによる。
惑星小説におけるこのシリーズでは、毎回、アトランは目覚まし時計代わりのロボットに起こされるわけだが、回を追うごとに(〈それ〉の陰謀か)リコはどんどん人間らしくなっていき、後期の〈サイコヴァンパイア〉とアトランが対決をくりかえすあたりでは、立派な“友”のひとりとなる。時には、真田さんよろしく、今回の冒険に必要となる装備をご用意してあります、みたいな展開もあるらしい(笑)
NEO版のリコがちょっと変な動きをしているのは、〈アンドロス〉の工作員にハッキングされたとゆーのもあるが、元々、リコというロボットは高次勢力(〈それ〉)にちょっかい出されて、ご主人様(アトラン)の予想外の行動をとるものだ、という刷込が現行の作家陣にもあるんじゃないかな。
そうした印象と、50話のリコはいまいちそぐわないので、実はリコ2号なんじゃないかと、個人的には判断している。
Perrypediaの記述を見ると、惑星ミラクルで爛れた生活を送るアトランに救難信号を送ってきたり(作中1964年)と海底ドームを拠点にしている一方で、「海底ドームには新しいリコだけが残った」とか微妙な表現もある。
とにかく、歴史冒険譚においてリコは、大抵はアナグラムの偽名を用いてアトランの行動をサポートしている。主に、リコ・アルコンの2語を組み替えて、リアンコールとか、コイロ=カルンとか名乗っているわけ。
ヘルゲイト、金星と刃傷沙汰のすえローダンと友情を築いたアトランも、さすがにそうした複雑な事情は明かさなかった。ただ、まあ、女性インタヴュアーにこたえて昔話を語ったり、マルチサイボーグの叛乱に際して興奮のあまり涙を流しながら実体験をダダ漏れにさせたりしたのが歴史冒険譚である。耳にした人々は、リコがちょっとアレなロボットであることを、なんとなく感じ取っていたんじゃないかな?w
2/10追記:マガンから指摘をいただいた。惑星カルタゴIIの事件で大やけどを負ったアトランは生死の境をさまよい、譫妄状態で付帯脳の中身がダダ漏れた、が正しいとのこと。
とはいえ、それは歴史冒険譚、後にはペーパーバック版のアトラン外伝における役割に限定されていた。“この”リコの、いわば産みの親であるクナイフェルは活躍の場を主にATLANシリーズへと移し、ローダン本篇には1100話以降、ゲスト的に散発的な執筆しかしていない。草案作家を含む同僚たちも、彼をさしおいてリコを出そうとはしなかった。
そのクナイフェルも、歴史冒険譚の執筆を“データバンク”として支えたというライナー・カストルもいまは亡く、チーム作家も世代交代した現在、おもむろにリコに再登板の機会がやってきた、みたい。
わたしはすっかり忘れていたのだが、アートプ法廷サイクルで、テラに“新アトランティス”を称するアルコン人の入植地ができたときに、ニオル・カロクというデザイナーが関係していたのだが、これがやはりリコ・アルコンのアナグラム。
また、《アトランク》が漂着した〈いつわりの世界〉新銀河暦2577年で遭遇した船《マザー》は実はリコの船だとかいう。上述コイロ=カルンの名はこの時使用されたもの。……なんだったのこの伏線状態であったのだが。
「政庁首席か?」
――3051話「ルナ」より
「いいえ。随行とともに漏斗建築へどうぞ。ギズレーン・マドーニがテラへお連れします」
「だれがわたしを待っていると? アダムスがめざめたのか?」
「活性装置の再生が終了するまで、彼の眠りは中断できません。ご辛抱を」
「では、待っているというのは?」
「古い知己ですよ」と、ネーサン。「リコが」
3052話「テラ」において、ローダンはまちがいなく新アトランティスを訪れるはず。そこでホーマー・G・アダムスがサスペンション状態で治療をうけているからだ。
リコもそこにいるのなら――どうつながるのか。正直、モンデマーン(モンティロン&ファンデマーン)がそこまで緻密にやるとも思えないんだけど。ちゃんと考えた伏線だといいなあ。イヤホント。
■Perrypedia:Rico
ディスカッション
コメント一覧
まだ、コメントがありません