テル女:誤訳チェック (6)
最後の誤訳チェック……とは、さすがに、まだいかない(笑)
少し短いが、今回はミトラ編とその前後。
ハヤカワ版:(p204)
「テラにイカロスという少年の話があってね」原文:
“Es gibt eine alte terranische Sage von einem Mann namens Ikarus”,
試訳:
「テラにイカロスという男の伝説がある」
うーん、ちょっと記憶がアレで恐縮だが、ダイダロスの息子イカロスって……ショタ少年だったっけ。
ハヤカワ版:(p206)
とてつもなく長い年月がすぎ、重力の法則が定めた軌道にそって、巨大なブルーの恒星のまわりを周回する惑星は、徐々に冷えていった。原文:
Im Verlauf von vielen Millionen Jahren begannen die Planeten, die die große blaue Sonne umkreisten, ihre aufgrund der Gravitationsgesetze vorgeschriebenen Bahnen einzuschlagen und sich abzukühlen.
試訳:
幾百万年がすぎゆくうちに、巨大な青色恒星を周回する惑星群は、重力の法則に各々定められた軌道におちつき、冷えはじめた。
軌道に入るのと、冷えるのと、時系列はともかく、文章的には並列。そして、惑星も軌道も複数形。ここで単数にしちゃったから、次のクリスタル構造の発生場所もまちがえたんじゃないか?
ハヤカワ版:
だが、その星系の各惑星では、原始物質から粗い結晶体の構造が形成されていった。原文:
Zusätzlich zu den Planeten jedoch bildeten sich innerhalb des Systems zunächst lose kristalline Strukturen aus der Urmaterie.
試訳:
だが、惑星に加えて、星系内部で原始物質から目の粗いクリスタル構造が形成された。
原文は、惑星(が形成されるの)に加えて、クリスタル構造が形成される。
惑星上、ではない。そのすぐあとに書かれているとおり、宇宙空間、特に第三・第四惑星軌道のはざまに、である。訳者さん、ふたつの惑星を結ぶクリスタルの「橋」を連想したのだろうか。
ハヤカワ版:(p208)
群れに助けをもとめてプロニルを追いはらうのは、もうまにあわなかった。原文:
Fast zu spät war ihr der Schwarm zu Hilfe gekommen und hatte den Plonyr abgedrängt.
試訳:
あやうく手遅れになりかかったところで、群れが救援に駆けつけプロニルを追いはらったのだ。
……過去完了形である。この文章までが、数日前にあった、ケガの原因イベント。
Fast zu spät は、「ほとんど手遅れ」であって、「手遅れ」ではない。「もうまにあわなかった」ら、パックリいかれて第三部ミトラ編完、だよね?
ハヤカワ版:
傷が癒えると、ミトラは陸地に近づき、島の内部を観察した。原文:
Sobald sie sich erholt hatte, würde Mitra auch an Land gehen, um das Innere der Insel zu erkunden.
試訳:
ミトラは快復し次第、陸地に近づき、島の内陸を探るつもりだった。
接続法II式なので、仮定(予定)の話。これが210pでいう、「棚上げになった」計画、である。
訳文だけ読んでたときは、どこか読み落としたかと思ったが、例によって時制が読めてないだけなのであった。
ハヤカワ版:(p210)
あたりの水域と島々を探検するというミトラの計画は棚上げになった。原文:
Mitoras Plan, das Wasser zu verlassen und die nahe Insel zu erkunden, geriet dabei in Vergessenheit.
試訳:
水から出て、手近の島を探索しようというミトラの計画は棚上げになった。
あたりの水域の調査は、すでに開始してるよね!
ハヤカワ版:(p211)
だが、ここまでミトラをつきうごかしてきた、内心の衝動も強さを増していた。原文:
Doch der innere Antrieb, der sie zu ihrem Vorgehen bewegte, erwies sich auch in diesem Fall als stärker.
試訳:
だが、ここでも、ミトラをこの企てへとつきうごかしてきた内なる衝動の方が勝った。
枝葉を削れば、「衝動の方がより強いことを証明した」である。何より強いかとゆーと、雄より冒険、なのだった。
ハヤカワ版:(p212)
青い恒星の光をうけて、クリスタルの柱が立っていたのだ。原文:
Aus dem lichten Hellblau des Himmels hing eine Kristallsäule auf die Insel herab.
試訳:
蒼穹から、一本のクリスタル柱が島へと垂れ下がっていた。
ライトブルーの空から、でええけどね。上から、「ほぼ地面に接」するまで伸びているのだ。
そもそものクリスタル構造の根っこを理解していないから矛盾した表現になる。“惑星で形成された”クリスタル構造→立っていた、なのだろうが、その場合、接地してないなら「浮かんでいた」だよね?
ハヤカワ版:(p214)
これには副次的効果もあった。原文:
Dabei kam es zu einem eigenartigen Rückkopplungseffekt.
試訳:
その際、独特なフィードバックが生じた。
フィードバック Rückkopplung は、まあ、コンピュータだしね?
感化したはずのケルシル人の母権制を自分のものさしにしてしまった、のだ。
ハヤカワ版:(p216)
人類は現実的で、つねに緊張をもとめ、本質的と考える方向につきすすむ。原文:
Diese Menschen waren Realisten, es bedürfte immer einiger Anstrengungen, sie von den Dingen, die sie für wesentlich heilten, abzulenken.
試訳:
人類はリアリストで、本質的と思った事柄から気をそらすのは、いつでも一苦労だ。
名詞 Anstrengung は、この場合「努力」だろう。
やべっ、「いなくなる」の部分にテラナーたちが反応しちまったっ、まだ話の枕なのに、どーやって注意をひきもどそう? と、ドブラクは苦慮しているわけで(笑)
とゆうわけで、次回はモイクリナ編から~。
※2019/06/30 ハヤカワ版抜粋追加
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