ファンタスティーク大賞2017年ノミネート作一覧

ドイツSF

すでに5月1日から本選がはじまっている(投票期限は6月15日)が、今年のファンタスティーク大賞のノミネート作品が公開された。サウンドドラマ部門とコミック部門が新設され、全10部門。
今年は9月2・3日にオーバーハウゼンで幻想文学大祭〈ファンタスティカ2017〉が開催されるのを踏まえ、表彰式は2日に2時間枠を取ってあるらしい。

ノミネート作は以下のとおり:
※例によって、全10部門中、長編・短編・翻訳・新人の4部門のみ掲載

長編部門 Bester deutscher Roman:

Kai Meyer / Die Seiten der Welt: Blutbuch / 世界の頁 <3>:血脈の書
Katharina Seck / Die silberne Königin / 白銀の女王
Carina Zacharias / Emba – Magische Wahrheit / エンバ <2>――魔力の真相
Tommy Krappweis / Ghostsitter, Band 03: Hilfe, Zombie-Party!
    / ゴーストシッター <3>:助けてゾンビー・パーティ!
Markus Heitz / Wédora – Staub und Blut / ヴェドラ <1>――砂塵と血

カイ・マイヤーの『世界の頁:血脈の書』は、世界の頁三部作の完結編。
一族の土地にある無限図書館で、自分の魂の書物を探していたフーリア・サラマンドラ・フェアファックス。ところが弟が誘拐され、その足跡をたどって〈失われた本屋の街〉リブロポリスへ、さらに〈夜の逃場〉との境界へと旅をつづけるうちに、放逐された女盗賊キャットや叛逆者フィニアンという仲間たちを得る。やがて3人は、書物占いの支配者たちと、あらゆる書物の消去をめぐる戦いに巻き込まれていく……というのが、第1巻(笑)
第2巻でフーリアたちが戦う、書物の魔法世界を統べる独裁者たちの〈聖域〉が滅び、めでたしめでたしかと思われたのもつかのま、世界の頁のはざまの黄金の奈落からわき出るイデアによって各地が呑み込まれていく。世界を救う唯一の方策、忘却の淵に沈んだ祖父カシウスの秘法を求め、フーリアは無限図書館の深淵に向かう……みたいな話になるらしい。

カタリナ・ゼックの『白銀の女王』は作者2作目の長編。この3月に開かれたライプツィヒ書籍見本市でセラフ幻想文学賞を受賞している(2年前には『世界の頁1』が受賞)。
冬の景観が美しい都市ジルベルグランツ。だが、この土地は、ここ何十年も冬“だけ”が続いていた。実際のところ、雪に埋もれて窒息しそうなのが現状である。そんなある日、24歳のエマがマダム・ヴェルトフレムトのチョコレート・ショップを訪れ、ひとつの物語を語りだした時から、すべてが変わりはじめた。それは、冬の呪いと、冷酷な国王と、そしてエマ自身の物語……。

カリナ・ザカリアスの『エンバ――魔力の真相』は、同名の少女を主人公とした2巻物の後編。
その世界には純粋なエネルギーから成る魔物〈ルナール〉が跳梁しており、人間社会を動かすエネルギーは彼らを狩ることでのみ得られた。ルナール・ハンターに憧れる18歳の少女エンバは幸運にもパントレアスのハンター学校の入学試験に合格する。だが、その直後大事故にまきこまれ……。
何者かの〈プラン〉の要となった少女が、すさんだ生活に身を落としつつ、その魔力の使い方を学んでいく――って、ファンタジーつーか改造人間ものか?

トミー・クラップヴァイスの『ゴーストシッター3:助けてゾンビー・パーティ!』はジュブナイル・ホラーファンタジー・シリーズの3巻目。モンスターを満載した幽霊列車を遺産として継承してしまった14歳の少年トムが主人公。3巻では、目前に近づいたゾンビーのウォンビーの誕生日――命日――のお祝いにアタマを悩ませる。ちゃんとした手順を踏んで儀式をおこなってやらないと、ウォンビーは二度と目をさまさなくなってしまうのだ! おまけに、唯一その儀式を知っている吸血鬼は、血の吸い過ぎでハムスターに変身してしまっているし……。
作者は90年代後半のドイツで一世を風靡したコメディ番組の脚本家であり出演者でありカメラマンでもあったという。ビー○たけしか(笑)

常連マルクス・ハイツの『ヴェドラ――砂塵と血』は新シリーズの第1巻。
広大な砂漠のまんなかに構えられた城塞都市ヴェドラ。砂の海をとりまく15の諸国からの交易路がこの一点で交錯する。キャラバンや商人、旅人が水と安全とを求めて集う。
しかし、いまヴェドラは戦さを目前にしていた。この地を一大交易地となさしめる要因となった、尽きせぬ泉の洞窟は、かつて砂漠の民の聖地であったという。どこからともなく再来した砂海の氏族が強襲をかけてきたのだ。
そんなヴェドラで出会った、ならず者リオタンと官憲側の女性トメイヤ。彼らは、たまたま持っていたある能力のため、あっという間に嘘と陰謀の網へ取り込まれる……。

短編部門 Beste deutschsprachige Kurzgeschichte:

Andreas Eschbach / Acapulco! Acapulco! / アカプルコ! アカプルコ!
Faye Hell / Cock Sucking Porno Vampires from hell
   / 地獄から来たコック・サッキング・ポルノ・ヴァンパイア (Fleisch 4 収録)
Thomas Finn / Meister Calamitas’ erstaunliche Kuriositäten
   / カラミタス師の驚嘆すべき好奇心 (Aus dunklen Federn 2 収録)
Nora Bendzko / Wolfssucht (Galgenmärchen 1) / 狼病
Jenny Wood / Zombie Zone Germany: Letzter Plan / ZZG: 最後のプラン

エシュバッハはドイツSF大賞、ラスヴィッツ賞につづくノミネート。結果や如何に。
またなんかB級どころかものすごいタイトルが……(笑) 昔、「rlmdi.のサイトが、ブラウザにブロックされてるんだけど……」って話があったよーな。
去年の新人賞作家ヘルだが、自分のサイトで「タイトルはまともに受け取らないでね? 読む前に、自分がギャグに理解のあるヒトか確認してね?」とか書いている。それほどか(笑)

トマス・フィンの「カラミタス師の~」は、実は2008年に他社から発売されたアンソロジーに、まったく同名の短編が収録されている。同じものなら選考対象外なので、リメイクでもしたのだろうか。

ノーラ・ベンズコの「狼病」は、おそらく最初は自費出版。作者自ら〈首吊りメルヘン〉と銘打った、童話をバックボーンにしたホラー物の1作目。今回の元ネタは『赤ずきん』である。
三十年戦争の時代――。イリーナは子供のころ、姉レオノールが殺害されるところを目撃した。狩人の息子スカンダーが駆けつけたので、彼女だけはかろうじて助かったのだ。大人になった今でも、彼女は悪夢の光景を忘れられない。事実上村八分のイリーナをスカンダーは自分のものにしようとするが、断られて逆上。スカンダーの暴力を避けて、イリーナは森へと逃げ込んだ。そう、森……レオノールを殺した“何か”は、イリーナのことを忘れてはいなかった。

〈ゾンビー・ゾーン・ジャーマニー〉はシェアード・ワールド物で、いまのとこ長編3冊、アンソロジー1冊を確認している。
2021年のドイツ。国境は高いベトンの壁に遮られ、近隣空域には戦闘機や武装ヘリが飛び交う。動くもの即射殺である。北海やバルト海にはNATOの艦隊が展開し、疫病の拡大を阻止するかまえだ。1年足らず前、2020年の5月にやつらは墓から這い出してきた。パニックと集団ヒステリー、避難民の発生で、連邦軍が効果的な殲滅戦をとれないうちに、この“病”は蔓延していった。ドイツは死んだ(tot)――いや、アンデッド(untot)と化したのだ……。
そんなドイツでわずかに生き残った人々の絶望的な戦いが描かれるみたい。

国際部門 Bester internationaler Roman:

Cassandra Clare, Sarah Rees Brennan u. a. / Die Legenden der Schattenjäger-Akademie
   / Tales from the Shadowhunter Academy / シャドウハンター・アカデミー
Cecelia Ahern / Flawed – Wie perfekt willst du sein? / Flawed / 欠陥
Cassandra Clare / Lady Midnight: Die Dunklen Mächte / Lady Midnight
   / レディ・ミッドナイト
Stephen King | Mind Control / End of Watch / 見張りの終わり
Mirjam H. Hüberli / Rebell: Gläserner Zorn / Rebell: Gläserner Zorn
   / 反逆者:ガラスの怒り

カサンドラ・クレア他の『シャドウハンター・アカデミー』は、『骨の街』他が邦訳されているシャドウハンター・シリーズのコラボ短編集。
同じくクレアの『レディ・ミッドナイト』は The Dark Artifices シリーズ第1作。

セシリア・アハーンは田中真理子訳『P.S.アイラブユー』他で本邦にも紹介済み。アイルランド出身で、父は2008年まで首相をつとめていた。
『欠陥』は17歳の少女セレスティンを主人公とするヤングアダルト小説で、続編にあたる『完璧』がこの4月に発売されている。
それまで完璧な優等生ライフを送っていた少女セレスティンが、ある日バスの中で〈フロウド〉――“欠陥人”――を手助けしたことで、社会的に罪を犯したとされ、投獄されてしまう。彼女もまた、欠陥ありと判断されたのだが……。

キングの『見張りの終わり』は、『ミスター・メルセデス』から続くビル・ホッジ物3作目にして(たぶん)完結編。6年前の事件がいま再び――ミスター・メルセデスことハーツフィールドが復讐を画策する一方で、ホッジの身に異変が!?

ミリアム・ヒューベルリの『ガラスの怒り』は反逆者シリーズの第1巻。この3月に2巻『ガラスの静寂』が刊行されたばかり。ちょっとした超能力を持った少女ウィロー・パーカーが、鏡の世界に囚われて、“反逆者”ボーと出会い、地球へ戻る方法をさがしていく。
……でもこの作者、スイス出身・在住で、ドイツ語圏のヒトなのに国際部門? と思ったら、長編部門が”Bester deutschsprachiger Roman”から”Bester deutscher Roman”にマイナーチェンジしていた。短編と新人に関してはドイツ語圏のままなのだが。

新人部門 Bestes deutschsprachiges Romandebüt:

Nadine Erdmann / Cyberworld / サイバーワールド
Nicole Gozdek / Die Magie der Namen / 名前の魔法
Matthias Teut / Erellgorh – Geheime Mächte / エレルゴル――秘密の力
Laurence Horn / Rodinia – Die Rückkehr des Zauberers / ロディニア――魔法使いの帰還
Jenny Karpe / Zwei Kontinente auf Reisen / 旅する二大陸

ナディーヌ・エルトマンはドイツ語と英語を学び、ロンドンへ留学後、ダブリンでドイツ語スクールをしていたり。ノルトライン=ヴェストファーレン州でギムナジウムの教師をしていたり。
『サイバーワールド』は電子ブックで去年3巻まで出ている(今月4巻発売)ので、すべてが対象なのかどうか不明。2038年のロンドンを発端に、某SAOみたいなお話が(笑)
ジェンマ、ジャミ、ザックはインタラクティヴRPGで遊ぶフレンド。だが、ある日、現実界の彼らの肉体がこん睡状態となり、意識だけが仮想空間サイバーワールドに閉じ込められてしまった! いったい何者のしわざなのか?

ニコル・ゴズデクは1978年生まれ。
『名前の魔法』:16歳の19号は、いつか大人になったらヒーローになって、すてきな意味もある名前をもらえる日を夢に見ていた。ところが、“名付け”の日がやってきて、彼が与えられた名前は、誰にも何の意味ももたない、ティラサン・パッサリオというものだった。首都〈天の門〉の〈名前の保管庫〉でなら、この名の意味を知ることができるはず。戦士ラスタン・ポリアンダーのパーティに潜り込み、彼らとともに遥かな首都をめざす旅に出る。
ところが、名前をもたぬ闇の追跡者が彼らをつけ狙い……。

マティアス・テウトの『エレルゴル――秘密の力』は、ファンタジー・シリーズ。エレルゴル三部作の1巻。今年になって2巻『エレルゴル――秘密の道』が刊行されている。
“大戦争”以来、ジュカーバジャーンの種族――人間、ドワーフ、沼人――は平和に暮らしていた。エルブとその大都市エレルゴルは神話にすぎず、〈霧の海〉の魔法にかくされていた。
だがある日、若き治癒術士アタルは、死に際の一族の大婆様から、霧の海へゆけ、世界のバランスが崩れかけている――と命じられる。同じ頃、牛飼いの娘セレナは奇妙な手紙をうけとって旅立ち、街の盗人ピツは追手から逃げまわっていた。彼らはまだ、どんな災厄が世界に迫っているか、エルブの都市エレルゴルがどんな役割を担っているかを、予感だにしていなかった……。

ローレンス・ホルンは1967年生まれ。
経歴を見ると、“史実再現の役者(Reenactor)”として15年以上活動しているらし。武田の武者行列再現とか、あーゆーのが欧米ではわりと事業として成り立っているのか? また一方で、どこぞのTRPGのゲーマスとしてシナリオ書いてたりもするという。
『ロディニア――魔法使いの帰還』:ロディニアを焦土と化した戦争が終わった。魔術師マギたちは魔法使いソーサラーの一党を世界の円盤の縁のかなたへ駆逐して凱旋し、世界の復興をはじめる。爾来1000年。ロディニアの浜辺にたどりついた一艘の船。それにはひとりの魔法使いが乗っていた……。
魔術師と魔法使いを別モノ扱いで訳すのは思いの外、難しい。Fateか(笑)

ジェニー・カーペは1996年生まれ、地方新聞社に勤務。
『旅する二大陸』:海のただなかのちっぽけな島が、キラとアーロンの故郷。星はめぐらず、日々大地は揺れ、この岩の塊がいつ海に沈むかと人々はおそれながら暮らしていた。2つの部族、ルアンとアメリカが敵対し、この小さな土地に境界線をひいたとき、キラとアーロンも離れ離れになる。2人は故郷を救うため、戻ることなどありえないと思える旅に出ることを決意する……。

Posted by psytoh