ローダン3000話『地球神話』(1)

ローダン

© Pabel-Moewig Verlag KG, Rastatt

2月15日(Kindle版は14日)、記念すべきローダン・ヘフト3000話『地球神話』が発売された。カオテンポラル干満フィールドに包まれた人工惑星ワンダラーへと到り、銀河系の〈劫火〉を消し止めたローダンたちであったが、過去から未来まで秤動するフィールドを抜け、銀河系へと帰り着くまで、故郷が「いつ」であるのかわからない。
かくて、新サイクル〈神話〉の開幕と相成ったのだが――

-*-

子供のころ、エリーおばあちゃん(実際には母の大叔母)が話してくれたお伽噺。錘で指を刺した〈茨姫〉はお城で100年、眠り続けた。お城の人々も、馬も、猟犬も、はては暖炉の炎まで……。
「100年? どうやったらそんなことができるの?」と訊ねるペリー少年に、エリーおばあちゃんは「それが魔法だよ」と諭したものだ。
そんなものかなと納得がいかない困った少年は、老いない長き眠りをもたらしたのは、小人の手になる水晶の棺だったりするのだろーかとかいらぬ考察を続けた。
そう、サスペンション・ベンチで眠る《ラス・ツバイ》の人々のように――。
(水晶の棺から起きる時間よ、王子様)
おうぢさまwww 相変わらず夢見がちなところが直らない、われらが主人公であった。
#ああ、そーいやどっかの白魔術都市セイルーンのおうぢさまも“平和主義者”だった(笑)

-*-


ペリー・ローダンが目覚めると、寝室もといサスペンション・ベンチの置かれた部屋に知らない女が立っていた。
え……起きたのオレだけ? ふと気がつくと、着衣に乱れが(爆)
残念ながら、艶のある話にはならなかったw 冒頭、

〈到着したのか〉と、ペリー・ローダンは思った。

という文章がいきなり2回あったのには、ちゃんと理由があったのだ。
イラストにもなっている、ちょっと人形めいた顔をした、つなぎを着た黒短髪のおねーさんはゼミナ・パース(Zemina Paath)。身長1.9メートルとのっぽさんである。イエス、と答えるときに右手の人差し指と親指でOKマークをつくるのは、ちょっとかわいい(笑)

彼女は1.6×1.0×1.0mの、濃紺のトランク――彼女の言うところの“パアウ(Paau)”――の補助で、漂流する《ラス・ツバイ》に侵入し、セミトロニクス〈アナンシ〉を麻痺させ、ローダンのサスペンション状態を解除し、イロイロと分析していたらしい。活性チップを摘出し、調べた後で元に戻したとかいうのである。こわっ。
ペリー・ローダンと名乗ると、いきなり不審そうな顔をされた。ひどい。

ゼミナさんはローダンの質問に忍耐強く答えてくれる。なんだか、時代遅れのおじーちゃんに現代っ子がモノを教えるような口調なのがくやしいローダン。

――あなたたちがどれだけ留守にしていたかは知らない。
――伝説だから、正確な時間の記述なんてない。(伝説?)
――〈それ〉の使者ではない。そも超知性体なんて聞いたことない。
――LFG市民でも、そう、テラナー(笑)でもない。(なんだその笑い)

では、キミは何者なのだ、との問いに対しては、わたしはスカスカ(porös)なのよ、とか、わけわかんないことを漏らしつつ、自分の後頭部を指さして、「誰かがわたしの脳髄の一部を奪ったから」
少なくとも、その誰かが《ラス・ツバイ》にいないことは、彼女の星船――“莢(Hülse)”、ナシャダーン(Nashadaan)――とパアウが確認しているとか。
この船を調べてみたけど、これは強大な力ね。彼らがあなたを恐れるのがわかる……と漏らすゼミナさん。彼ら? とローダンが問い返すと、

「カイラ人(die Cairaner)よ。カイラ時代の銀河系とハローの領事。その仰せにしたがい星の車輪がまわり、平和を乱す輩を滅ぼす者たち」

ゼミナさんの知識は、ハローを放浪しつつハイパー無線を傍受して得たものだという。
それによると、カイラ人は自らを〈神の意志ヌーメン〉と称し、はじまったカイラ時代になおも戦火と冒涜をもたらそうとするラドホン(die Ladhonen)たちを打ち破ったとされる。
なぜかは知らず、カイラ人は“ペリー・ローダン”を――あるいはその伝説を――敵視しているらしく、《ラス・ツバイ》を再起動させれば必ず探知され、脅威を殲滅するため襲いかかってくるだろう……。
自由ギャラクティカー連盟はまだ存在するらしい。レジデントはレジナルド・ブル。彼と仲間たちは、無敵の躰をもつ巨人が護る〈中央銀河要塞〉に拠っているとのこと。これもまた神話めいた響きに悩みつつも、ローダンは安堵する。友がまだ生きていることがわかったのだ。

ゼミナさんの星船――“莢”――ナシャダーン――どれが名前だかわからんw――は、元《ラルフ・マルテン》のものだったドッキング・ベイに係留されていた。全長300メートル、一辺60メートルの、暗赤色にきらめく六角柱。
ベイの近辺には、巨人が斧で一撃したかのような大きな亀裂が生じていた。何者かの攻撃でも受けたのか、それとも……。ゼミナさんはその損傷を見て、漂流船と判断したっぽい。
《ツバイ》の外殻を歩きながら、ローダンは奇妙な印象を抱く。足下が何かに包まれるような感覚。調べてみると、未知のエネルギー場がワニスのように――あるいは、皮膚のように――巨船の全体を包んでいた。ナシャダーンが張り巡らせたものらしい。
いくつも開いた“窓”の素材をすり抜けるようにして入った“莢”内部は巨大な空洞で、サイズの異なるいくつもの箱や蜂窩状の物体――“ダーン”――が柱やひものような支持材で結ばれている。それぞれが生活空間やメディア施設、機関部や倉庫、ドリームカプセルや医療キャビンであるらしい。内壁には様々な筆致で壁画が描かれている。無数の窓から差し込む光が、カテドラルめいた雰囲気を醸し出していた。

見るべきものは見た。乗員たちを起こして、テラへ帰らねば、というローダンに、ゼミナさんはまた不審そうな目を向けて、「テラ?」
銀河系に入ることなくハローを彷徨い続けていたゼミナさんにとっては、傍受されたハイパー無線だけが、この世界のもたらす情報のすべて。そこでは、テラはなんと言われていたか――。

「――テラという場所はない。存在したこともない」
「――テラはこの銀河の鬼火」
「――テラナーの一団が、おのが価値を高め特権を得るため考え出した」
「――テラは多くの戦争の原因となった、銀河系共同体を破壊する火種」
「――善意を抱く人々を萎えさす毒」
「――テラは伝説。神話にすぎない」

-*-


ジュナ・リン(Giuna Linh)さんはテラナー(笑)である。。
アファラク星系の惑星アニャアルトでは、アコン人シャド・タン・ハルウル(タンはアルコン語のダに相当し、お貴族様であることを示す。前にも書いたが、ラス=トオルのアウリスたんではない)を司令とし、銀河系イーストサイドとウェストサイドを結ぶ長大な転送機網の拡充計画が進められていた。
612の区間駅がイーストサイドとウェストサイドを結ぶ延べ5万光年の転送機ネットワーク。そこにアニャアルトが加わると、シェボパル人の故郷惑星プスポプタへの直通ルートが落成する。……まあ、アレだ、財務支援のタマモノである。世知辛いね。

1ヵ月前、ジュナさんは旦那のランコ・ウォーとともにこのプロジェクトに参画する機会を得た。実はふたりが持つ星間商業マネージメントの資格は、〈ポジトロニクス殺しポジサイド(Posizid)〉と〈データの大洪水(Datensintflut)〉を経た銀河系の各種データバンクの隙をついた大嘘で、要するにふたりはプリk詐欺師なのであった。ところが、なんの因果か、旦那はわずか1週間でトラブルを引き起こした。よりにもよって、カイラ人に殴りかかったというのだ(ジュナさんはその真偽を疑っているが)。
かくて旦那は“銀河系とハローの領事たるカイラ平和同盟(das Friedensbund der Cairanischen Konsulate)”のもたらす平和を脅かした犯罪人として、〈出口のない道(die Ausweglose Straße)〉の流刑囚となりはてた。以来ジュナさんは、〈出口のない道〉の転送受入ステーションのデータをもとめて、区間転送機ネットワークのデータバンクにハッキングをかます機会を狙っている。正直、なんでクビになってないのかわからんな(笑)

そんな折、惑星アニャアルトでテロ事件が発生。爆弾でホテルがひとつ全壊した。
事前にアコン人と利権を争うバルニト人の通商連合から脅迫めいた通信が届いており、どう考えても連中のしわざなのだが、事件現場をいくら探しても証拠が出てこない。
事態を重くみたカイラ人の調査委員会がアニャアルトへ来駕することが決定。タン・ハルウルは、カイラ人と悶着を起こした旦那を持つジュナさんに、監査が落着するまで外出禁止を命ずる。まあ、当然ではある。
#バルニト人は500話あたりから偶に出てくるテラ系の環境適応人。主に通商活動を生業としている。

しかし、旦那に再会したい一心のジュナさんは、上司・同僚の目を盗んで、虎の子を使っての取引をバルニト人代表として到着したコンダイク-A1(Kondayk-A1)に持ちかける。
虎の子……ジュナさん(28)の両親は、共にゲメンの細胞活性装置を受け取った相対的不死者だった。劣化コピーであるゲメンの卵形活性装置は、数百年を経て次々と機能を停止したらしい。ただ、多くの所持者が地下に潜行したため、装置自体はほとんど回収されていない。ジュナさんは、10年前まで存命だった母がゲメン製装置の保持者では最高齢だったろうと推測していたが……ともかく、亡き両親の燃え尽きた細胞活性装置2基は、それなりに価値があるだろう。

売り込みなら、わしの会計士と話せと言い残し、コンダイク-A1はカイラ人との面談に向かった。
会計士サイプリアン・オクリ(Cyprian Okri)は、研究素材としての活性装置(残骸)は悪くない、と評価する。だが、気がつくと、話の流れが、なんか変だ。
ペリー・ローダンは生きている、って、ナニその信仰? 確信?
わたしがアコン人のとこで働いてた理由って、偶然よ偶然。え? 惑星ドロラーを失った根無し草種族としての共感?
わかった……こいつもテラナー(笑)だ!
テラは伝説、神話にすぎない、と笑われるテラナー。
特権階級の夢が捨てられない妄想家ども、と蔑まれるテラナー。
多くのテラナーは、もはや自分でもテラの存在など信じていない。この男は単なる狂信者なのか、それとも……。

あれよあれよという間にジュナさんはコンダイクの船《忠誠と信頼(TREU & GLAUBEN)》に連れ込まれていた。やばい。

「テラにはかつてTLDと呼ばれる諜報組織があった」(それも伝説)
「テラ消失後、その後継組織が誕生した。エフェレゴン諜報局(NDE)Nachrichtendienst Ephelegonだ」

「われわれはNDEの工作員。ちなみに上司はボクね」と、会計士。
ワタシはいったいナニに巻き込まれたのだろう……内心泡を吹いているジュナさんに、サイプリアンはにやりと笑って、
「ご主人を救い出したいのだろう? われわれ、〈生命抑圧器(der Vital-Suppressor)〉の秘密を探るために、〈出口のない道〉に潜入する鉄砲玉もとい意志のあるヒトとして、キミに白羽の矢を立てたのだ!」
ええええぇっ……!?

(続く)

Posted by psytoh