失われた世紀・拾遺
3000話と連動していた短編企画「失われた世紀(Verlorene Jahrhunderte)」だが、ペリペの方でも紹介が上がっていない状況なので、読んだものだけ、簡単に紹介しておこう。
1. フローレンス(Florence)
時は〈劫火〉をめぐる事件から、およそ50年後。
舞台は銀河系から246万光年かなたのくじら座矮小銀河(Cetus)、〈それ〉に由来する原エイリスが保存されていた場所であり、アトランが回収しなかった唯一のエイリス保管庫があるツォンの星環。
主役は、この矮小銀河を調査に訪れたアトランに協力した商船《ウッズ・ロジャース》の船長フローレンス・ホーニゴールドさん。
商談に勤しんでいたホーニゴールドさんは、ひょんなことから、かつてエイリスをめぐる事件の際に協力し、血の交換の儀式によって一族に迎え入れてくれた、ツォンの星環の市長を務めるサノが、唯一残存し、この宙域に“奇跡”をもたらす原エイリス貯蔵庫を軍事利用したい一派によって暗殺されそうになっているのを助けることに。リーの一族における“父”ともいえるサノを救うべく、フローレンスはエイリス貯蔵庫の番人コンの協力を求めるが……。
アトランとのアバンチュールがあったらしいホーニゴールドさん。いまは成人した三人の子がいるそうなのだが、残念なことに父親については不詳である。物語の最後、コンに代わってエイリス倉庫の番人に就任したサノとともに、異界への扉をくぐったホーニゴールドさんが歓声をあげたところで幕――なので、モンティロンお気に入りのこのキャラ、新サイクルで出てくるんじゃないかともっぱらの噂である。
2. 黄金なる平和(Der Goldene Frieden)
新銀河暦1750年のセヴコオリス銀河、第二太陽系帝国の中枢たるネオ=ソル星系第2惑星ゲオンが舞台。
主役はゲオン人女性のセフラ・バイタンさん22歳。ゴンドゥナトとの蜜月時代や、ローダンがやってきてドタバタした事件を知らない新世代のゲオン人である。
昨今のゲオンでは、VRMMOでトオゴンドゥの部隊をタコ殴りにするのが大流行。セフラさんや、3つ年長の兄もこれにドはまりしているわけなのだが。
仮想と現実がごっちゃになった状態――トオゴンドゥが攻めてきたのよ!――でカウンセリングを受けることになったセフラさん。現実のオリオンランドはこの200年、平和が続いている。だが、長い平和は停滞と同義で、人々の心を蝕んでいる。流行のゲームの背後には、催眠効果があるプログラムと麻薬で、トオゴンドゥに対するテロを使嗾するグループが暗躍しており……。
いろいろなモノが信じられなくなったセフラさんは、街で追われている少女と出会う。彼女はゲオンを訪れていた現ゴンドゥ息女のプラノオル。彼女を襲ったテロリスト集団の中には、セフラさんの兄の姿もあった――。
大群危機の際にセヴコオリスに拉致された《オリオン》の人々が新銀河暦使ってるとも思えないので、あくまで草案の指示がこの年代ということだろう。
ま、ことによると、もっと険悪な関係になっていても全然ふしぎじゃないので、結果としてはよかったのかにゃあ。
3. 予約済みの死(Bestellter Tod)
サシュパヌ銀河、人類種族メネスの母星ケサル。
アトランとの冒険の旅から多くのギャラクティカーを伴い生還し、全メネス共同体に発展をもたらしたフィッツジェラルド・クレム。素性を隠して諜報組織GIBAの工作員を続ける彼も、いまや300年以上を生き、一族の〈護符〉の継承を考えるべき時期が近づいていた。
そんなとき、アダリオンと名乗る男が、クレムの真の素性を知ることをほのめかした破壊工作をしかけてきた。クレムは後輩工作員ミネットと、ゲメンからGIBAへの出向的立場のガドゥルンとともに、始祖ロリナ・ハミングウェイにまで遡る血脈をたどり、アダリオンの背後にある秘密にたどりつくが……。
〈護符〉は誰の手に渡るべきか。ひとりの少女との悲しき約束と、クレムが下した決断とは? ある意味で話の先が読めすぎて、最後のドンデン返しには逆に驚いた。
結婚してないことが、そのまま子どものいないことにはならないが。
わたしより、おとうさんが生きていた方がみんなのためになるんだよ――愛する娘にそんなこと言われたら、永遠の生命はもはや呪いだ。約束の100年を、ホントどんな気持ちで生きてきたのか。
ゲメンとメネスの関係はかつてほど良好ではない模様。彼らが祖先をいわば“誘拐”した事実と、万が一の際の“避難民”として保護していた事実が相殺されている感じ。
超知性体ゲショドが現在どうしているかは不明。
5. 退役した女提督(Admiralin außer Dienst)
〈劫火〉をめぐる事件から60年後。
かつて自由ギャラクティカー同盟の艦隊提督であったアンナ・パトマンは、退役後の余生をオロバ星系第2惑星アバクで過ごしていた。かつての大帝国の植民星で、住民であるアバカはアルコン人の末裔だが、主たる通商ルートや定期航路からはずれた惑星は、とりたててするべきこともないアンナさんには似合いの場所といえた。
60年を経てなお残る〈劫火〉の後遺症――超光効果は銀河系を変えた。多くの星で、人々は地下に掘り広げた施設に閉じこもった。ここアバクでも状況は変わらず、地表で暮らしているのはアンナさんのような“変人”だけである。
ある日、物資の補給のためステーションへ向かう途上で“失神”したとしてクリニックへ担ぎ込まれたアンナさん。いまでも日課としてのトレーニングを怠らない自分が? と疑念を感じつつ、医者の心配そうな様子は真実っぽい。
そのとき、クリニック全域で外部との連絡が途絶。〈第二の光〉と名乗る集団が、要所に爆弾をしかけてクリニックのコントロールを掌握したという。彼らは、〈劫火〉の後遺症を癒やす手段として、アンナさんの身柄引き渡しを要求してきた――。
いや、地上で暮らす根性(訓練の賜物)があるだけで、別に特製のからだとか能力があるわけじゃないのよ? とゆーアンナさんと一種の宗教団体との話の噛み合わなさがwww
-*-
……と、まあ、おおよその話はこんな感じ。個人的には2話が好み……だけど、オーディナリー・スケールみたいだよなあ(笑)
4話「エル・ドラド」も周辺小銀河が舞台だし、6話「ブレイズ・オドネルの生涯」は新銀河暦1850年頃の話らしいけども、地下都市に籠もって“外の世界は〈劫火〉に焼き尽くされた”とかプロパガンダして寡頭政治やってたゲメン製活性装置所持者のお話なんで、1700年~1800年あたりに始まったらしいカイラ時代についての伏線とか新情報はないものと判断した。いや、あるかもしらんけど。
空白の時代に何が起こったか? と言いつつ、実際にはたいしたネタはないのだった。
もうちょい、時代時代の変化みたいなもんがあるかと思ったのだが。
ヴルチェクを見ならえや >惑星小説318巻『暗黒の諸世紀』は、クロノパルス・ウォールに閉ざされた銀河系の700年を描いた連作集。
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