クルト・ラスヴィッツ賞2019ノミネート作
さて、本年のラスヴィッツ賞のノミネート作品リストを以下に。
公式サイトを見ると、4月2日付けで投票権保有者への依頼を完了したらしい。サイトでの発表は6月。授賞式は11月2日にドレスデンで開催されるSFシンポジウムPenta-Conを予定している。
およそのネタは、d-infoの校正のときに提供しちゃってるので、さほど新味はないとは思うが……。
■長編部門 Bester deutschsprachiger SF-Roman:
Dirk van den Boom / Canopus / カノープス
Andreas Brandhorst / Ewigens Leben / 永遠の生命
Andreas Brandhorst / Die Tiefe der Zeit / 時の深淵
Andreas Eschbach / NSA – Nationales Sicherheits-Amt / NSA――国家安全保障局
Willi Hetze / Die Schwärmer / 群人
Tom Hillenbrand / Hologrammatica / ホログラマティカ
Georg Klein / Miakro / マイアクロ
Kai Meyer / Hexenmacht / 魔女の力
T. S. Orgel / Terra / テラ
Frank Schätzing / Die Tyrannei des Schmetterlings / 蝶の専制
Judith C. Vogt / Roma Nova / 新ローマ
ファン・デン・ブームの『カノープス』は、新シリーズ〈冷たい戦争(Der Kalte Krieg)〉の第1作。遠い未来の人類帝国は、攻撃的な拡張政策を続けたあげく、内乱が起こったり、“冷たき者たち”との戦争が勃発したりで大きく揺らいでいた。そんな中、運命に操られるように惑星カノープスをめざす人々がいた。退役兵、記憶喪失の奴隷、過去に追われる異類考古学者、船をなくした貨物船パイロット、女傭兵と孤児、そして叛逆者――。交錯する道の果てに、彼らは太古の知性持つ船《オーメ》に遭遇する……。
すでに第2巻『《オーメ》の旅(仮)』もこの3月に刊行済み。ドイツでよくある三部作なのか、前作〈触手戦争〉は全9巻だったからまだわかんない。
アンドレアス・ブラントホルストは今年は2作ノミネート。現代物と宇宙物と、大活躍である。作品内容とは関係ないが、ブラントホルストについては別項を立てる(次の記事)。
エシュバッハの『NSA』は、アメリカの国家安全保障局(National Security Agency)とわざと綴りを揃えたものか。第二次大戦期のナチス・ドイツで全国民を監視できるプログラムが開発され、プログラマーが陰謀にまきこまれる……とか。あえてそれが女性であるあたり、仮想歴史物としてどうなるか。
余談だがNSAで検索してトップに出たのは、日本サーフィン連盟だったw
ゲオルグ・クラインの『マイアクロ』は、原題がマイクロ+マクロであろうという推測のもとこーなった。閉鎖されたビューローの中で暮らしていた人々が外の世界へ出てみると、向こうでも中の世界へ入ろうとしていた――という紹介記事の、どのへんからそーゆー展開になるのかしらん。
■短編部門 Beste deutschsprachige SF-Erzählung:
Galax Acheronian / Trolltrupp
/ 豚部隊 (『クロノゼンへの跳躍』Sprung ins Chronozän 収録)
Andreas Fieberg / Eine Million Affen
/ 百万の猿 (『エイリアン・ポルカ』Das Alien tanzt Polka 収録)
Heldrun Jänchen / Baum Baum Baum / 木木木 (Nova 25号収録)
Thorsten Küper / Confinement / 拘束 (Nova 25号収録)
Stefan Lammers / Acht Grad / 八度 (Gegen unendlich14号に収録)
Frank Neugebauer / Auferstehung des Fleisches / 肉の復活 (Exodus 38号収録)
Lothar Nietsch / Die Wettermaschine / 気象機 (Exodus 37号収録)
Niklas Peinecke / Möglicherweise ein Abschiedsbrief
/ たぶん別れの手紙 (Spektrum der Wissenschaft 2018年12号収録)
Matthias Ramtke / In der Grube / 穴の中 (Gegen unendlich14号に収録)
Thomas Sieber / Enola in Ewigkeit / 永遠のエノラ (Nova 25号収録)
Tetiana Trofusga / Coming Home / カミング・ホーム
(『霊感――アンドレアス・シュヴィツケのデジタル界』
Inspiration – Die digitalen Welten des Andreas Schwietzke 収録)
Wolf Welling / Osmose / 浸透 (Exodus 38号収録)
今回は作品自体を読んでいないので、掲載媒体の話など(ヲヒ
Novaはp.machinery社から刊行されているSF雑誌。編集人は自身SF作家でもあるミハエル・K・イヴォライト。現在まで27号が出ている。ちなみに27号は総290ページ(一部カラー)、ハマーシュミットやハウボルトなど、この手の記事で常連作家を含む作家9名の作品やエッセイ、インタヴュー記事などが掲載されている。
p/machinery社自体がどうやらSFCDの流れを組む出版社みたいで、SF、ファンタジーを中心に、二次創作を含む作品を発表している……んだけど、なんだい、このIkebanaってジャンル(笑)
Exodusは1975年から継続している……元々は同人誌なのかなこれ。René Moreauを中心としたExodus-Teamが編集、刊行している。SF関連の新作を発表するプラットフォームとして生まれたといい、現在ではイラスト、コミックにも力を入れている様子。基本的に公式Webショップでの通販形式をとっている。4月に39号が刊行されたばかりである。
最近名前を見かけるようになった Gegen unendlich は2013年にe-bookのみでスタート、2017年から上記p.machinery社経由で紙媒体のポケットブック版も刊行されるようになったとか。これも新作ないし未発表作を中心に、エッセイや翻訳なんかもたまに掲載されるらしい。年3回刊行。なんとAmazonジャパンでKindle版が購入できたりする……けど14号ないな(爆)
Spektrum der Wissenschaft は、前に誰かの作品が掲載されて調べたことあるけど、普通の月間科学雑誌である。ドイツ版Newtonみたいなもんかにゃあ(笑)
■国外作品部門 Bester ausländisches SF-Werk:
Naomi Alderman / Die Gabe / The Power / パワー
Becky Chambers / Zwischen zwei Sternen
/ A Closed and Common Orbit / クローズドな共有軌道 (Wayfarer 2)
Cory Doctorow / Walkaway / Walkaway / ウォークアウェイ
Jasper Fforde / Eiswelt / Early Riser / アーリー・ライザー
Annalee Newitz / Autonom / Autonomaous / オートノマス
Kim Stanley Robinson / New York 2140 / New York 2140 / ニューヨーク2140
Dennis E. Taylor / Ich bin viele / We are Legion / われらはレギオン (Bobiverse 1)
Adrian Tchaikovsky / Die Kinder der Zeit / Children of Time / 時の子供たち
Lavie Tidhar / Central Station / Central Station / 中央ステーション
ナオミ・オルダーマンの『パワー』は河出書房から、昨年末に訳出済み。
ベッキー・チェンバースの『クローズドな共同軌道』は、シリーズ第一作にあたるThe Long Way to a Small, Angry Planetが『銀河核へ(上・下)』として6月28日に創元SF文庫から出版予定。
カナダの作家コリイ・ドクトロウ、どっかで見た名前だなあと思ったら、『マジック・キングダムで落ちぶれて』の人か(笑)
ジャスパー・フォードは代表作『文学刑事サーズデイ・ネクスト』シリーズが3巻までソニー・マガジンズから。
アナレー・ネウィッツの『オートノマス』はネビュラ賞やローカス賞、キャンベル記念賞にノミネートされた他、LGBTを取り扱うラムダ文学賞SF部門で受賞作となっている。フィクションとしては処女長編だが、ジャーナリスト、編集者としての経歴が長く著作も多数。
テイラーの『われらはレギオン』はシリーズ全3巻ハヤカワから邦訳が出ている。ラスヴィッツ賞公式サイトだと、掲載されているのが1巻のタイトル(上掲のもの)だが、“2巻”となっている。1巻、2巻(Wir sind Götter/For We Are Many)ともドイツでは2018年初版刊行なので、2冊合わせてのノミネートかもしれない。
エイドリアン・チャイコフスキーの『時の子供たち』は本国イギリスでは2015年刊行で、2016年アーサー・C・クラーク賞を受賞している。続編『廃墟の子供たち』が2019年刊行予定みたい。
ラヴィ・ティドハーはイスラエル生まれ、ロンドン在住のSF作家。『中央ステーション』は2017年キャンベル賞を受賞している。
原作出版から翻訳刊行までのペースが速いのか、今回は邦訳があまり見当たらなかった。まあ、星雲賞候補作1つも読んでない現状、出てても読むかわかんないけどね……(笑)
■公式サイト:Kurd Laßwitz Preis
■NOVA公式サイト:NOVA Science-Fiction
■Exodus公式サイト:EXODUS
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