『パーフェクト・コピー』読了

ドイツSF, 書籍・雑誌

アンドレアス・エシュバッハのジュブナイルSF『パーフェクト・コピー』を読了した。2003年度のクルト・ラスヴィッツ賞長編部門にもノミネートされた(受賞作はミハエル・マラクのクトゥルー物『イマゴン』)本書。個人的には、これまで読んだエシュバッハ作品の中で一番おもしろかった。
#といっても、本書以外では、邦訳の出た『イエスのビデオ』、ローダンにゲスト参加した『沈黙の歌』、スペオペ『クエスト』、ジュブナイルの『異能』、短篇『量子ディスポーザ』で全部なのだが。あと改造人間物の『かの種最後のひとり』はまだ途中。

15歳の少年ヴォルフガングは、ある日突然”時の人”となってしまう。「16年前に人間のクローンを作った」と宣言したイスラエル人科学者と医師であるヴォルフガングの父の間に過去なんらかの関係があったことが新聞にすっぱぬかれ、年齢もちょうど該当するかれに最初のクローン人間ではないかという疑いがかかったのだ(このへん、どーも東スポの1面みたいなのだが)。たちどころに一変する周囲の目。そして、日頃から「おまえにはチェロの才能が、必ずある」と断言する父のふるまいに疑問を感じていたヴォルフガングは、もしや本当に自分はクローンなのではないかと疑心暗鬼にとらわれていく……。
親友たちの協力を得てのクローン疑惑追求(ある意味、自分さがしである)と同時に、才能とは何か、進むべき道はどこにあるのかといういかにもなメッセージも、嫌みなく描かれていて、好感が持てる。最後のオチが途中でほぼ読めてしまうのも、お約束なハッピーエンドのためと思えば許せる。というか、これまで読んだエシュバッハ作品は、いまいちエンディングに納得のいかないものが多かったので、むしろ歓迎。エシュバッハを見直した1冊。

以下、余談:ドイツでいうジュブナイルは、何歳くらいが対象なのだろう。本書でも「寝ちゃうのがてっとりばやいわよねー」というガールフレンドの発言があるが、やはりジュブナイルの『異能』では主人公のマリーとアルマンは廃屋で一夜をすごしたあげく、追っ手につかまって「で……寝たの?」と尋問されるしまつ(爆) 日本だと、中学生対象とはいっても、児童書では出せそうにないよね >『異能』

Posted by psytoh