無限架橋 / I 蜂窩の扉
13 シンプル・マインズ
……銀河系は、もはや不死者たちの存在を望まない。
ロナルド・テケナーがそう判断するまで、さほどの時間はかからなかった。
数百年にわたって人類と銀河系のために戦いつづけた彼らを、ギャラクティカーはいともたやすく捨て去った。アレズム遠征から帰還した《バジス》をむかえた冷ややかな視線、無感動……。
ローダン、アトランをはじめとして、多くの者たちは、それでもなお、キャメロット計画を通して銀河系の平和的再統合のために働きつづけようとしている。それを止める気はなかったが、参画するつもりもテケナーには毛頭なかった。
ギャラクティカーには、おのが望む道を進ませておけばいいのだ。
彼の欲する危険と冒険は、銀河系でなくとも、この宇宙どこにでも満ちあふれている。
たとえば、そう、ハンガイ……。
ダオ・リン・ヘイとともにカルタン人を再編し、混沌のちまたと化したハンガイから、宙族や奴隷商人を駆逐していくうちに、歳月は矢のように過ぎ去っていった。
「スマイラー」の名は畏怖と驚嘆をもって人々の口にのぼるようになっていた。テン・ノ・タウやアモス・タル・ネイのような大物犯罪者は、すでにカルタン人の故郷銀河から姿を消していた。だが、テケナーもまた大きな傷を負っていた。身体ではなく、その精神に。
アモス・タルの宙族組織を壊滅させた際、スマイラーは敵の罠に落ちた。カラポン人の宙族王は、活性装置所持者の神経系統を麻痺させる処置を施して生き埋めにした。指一本動かせぬ状態のテケナーの眼前には、“墓”の周囲の光景を映し出すスクリーン。自動機構によって栄養補給がなされる“死者”は、活性装置が祝福と同時に呪いであることを改めて思い知らされることになる。彼は永遠に生きるだろう。自動装置が停止するまで、未来永劫、このままで……。
スマイラーが救出されたのは、9ヵ月後のことだった。アモス・タルが乱戦の中で死亡しために発見が遅れたのだが、テケナーはすでに発狂寸前だった。まもなく肉体は回復したものの、かれは宇宙服すら着ることのできぬ閉所恐怖症に陥ってしまった。
テケナーは、“埋葬”されていた9ヵ月の間に、銀河系に大きな異変が起きていたことを知らされる。クイックモーションの消滅と、ローダンたちの失踪。そして、トルカンダーによる侵攻。
テラナーの唇が、その異名の由来たる冷笑を形づくった。
彼の病を癒すものがあるとしたら、それは、つねなるごとく、死と隣り合わせの危険しかなかった。彼はそういう人生を生きてきたのだ。
ダオ・リンと短い別れの言葉をかわすと、彼は銀河系行き連絡艇の乗客となった。
キャメロットに到着し、侵略者に関する情報を収集したテケナーは、アトランと同様の結論に達した。
タングル・スキャンあるかぎり、トルカンダー攻略は不可能。そして現在、タングル・フィールドを無効化する可能性はただひとつ、IQ抑制剤しかない。臨床例が極度に少なく、未知の危険をひめているというアルフェ・ロイダンの反論を、テケナーは自身実験台となることで一蹴する。
IQ抑制剤を投与されたものは、10分程度で知能指数80程度の状態に陥る。副作用としては視野の偏狭化、性欲の激減、攻撃衝動の増加などが確認されていた。効果の持続時間は6時間。ただし、テケナーの臨床例から、活性装置は3時間でその効果を相殺することが明らかとなった。
アルフェ・ロイダンは連続投与の危険性を指摘する。被験者のIQはゆるやかなカーブを描いて降下をつづけるため、やがて正常な判断が不可能となるはずだった。また、異生物学者は、臨床実験の際にテケナーの異常に気づいていた。それがIQを抑制された作戦指揮官としては致命的なハンデをもたらしかねないことも。
ポイント・サヴァイヴで、テケナー、ロイダン、そしてIQ抑制剤のアンプルを乗せた連絡艇はアトラン率いる同盟艦隊に合流した。タングル・スキャンを破る秘策の正体を知ったLFT、ラグルンドの部隊に動揺が広がるが、それでも各構成国家からの“志願者”が《ギルガメシュ》へと送り込まれてくる。
テケナーがそれを選別する一方、アルフェ・ロイダンによって、選抜者たちの装着するセルン(リサイクル機能付戦闘服)と、同行するモジュラ・ロボットたちのプログラミングが進められていた。72時間に限定された作戦期間中、IQ抑制剤を6時間間隔で投与しつづけるプログラムと、予定時間が経過した場合、判断力を失うであろう人間たちに変わってコマンドを脱出させる特殊命令である。
そして、22名の選抜されたコマンド……コードネーム「シンプル・マインズ」は、《ギルガメシュ》とキャメロット巡洋艦隊の援護のもと、ヒューマニドロームにむけてスタートする。
作戦の目標は、トルカンダーの秘密を暴くためにヴィヴォクのサンプルを入手すること……そして、いまやヴィヴォクの倉庫となったヒューマニドロームの破壊だった。
同盟艦隊が陽動をひきうけ、小さな搭載艇に乗ったIQ抑制コマンドは、乱戦の中、残骸にまぎれてタングル・フィールドの領域へと飛び込んでいった。その瞬間から、連絡は途切れた。トルカンダーが定期的に――3時間17分33秒ごとに――きょしちょう座47の本隊への回線の“窓”を開く54秒間をのぞいて、一切の通信は不可能となった。
スカルファール星系外縁にとどまった《リコ》では、長い待機がはじまった。
最初の“窓”がオープンされたとき、モジュール・ロボットから送られてきた報告は、アトランをはじめとする司令室の人々を安堵させた。シンプル・マインズの成員たちは、明らかに低下した知能に困惑しつつも、タングル・スキャンに対する耐性を獲得していたのだ。
しかし、第2、第3のレポートが届くにつれ、作戦の困難さはじわじわと表面化しつつあった。メンバー間には、その増進された攻撃衝動から、いざこざが絶えなかった。テラナーが、エルトルス人が、ブルーが、ウニト人が、トプシダーが、シェボパル人が、そして《リコ》のアルコン人がいた。悶着のタネはつきなかった。
いまはまだ、スマイラーの鋼の意志がそれを束ねている。だが、テケナー自身、他の半分の間隔で投与されるIQ抑制剤によって、次第に決断力をそがれつつあることが判明していた。投与直後の数分は、意識が混濁して指揮のとれる状態にないようだった。
そして、IQ抑制剤の効果によって、レゾナンス定数による探知はされないながらも、ヒューマニドロームへの侵入は、トルカンダーに察知されずにはおれなかった。ステーション各所に爆弾を設置しおえたシンプル・マインズは、侵略者が財宝のごとく護るもの――ヴィヴォクをめざしているのだから。
レポートの終わりは、ギャズカーとの戦闘の開始だった。そして、シンプル・マインズからの連絡はとだえた。
そのホールは、かつては人で満ちていた。ギャラクティカムの中枢、銀河政治を動かす人々で。だが、現在そこは、ちがうもので満たされていた。
ヴィヴォク……。謎の繭と、その内に息づく幼生は、すでに惑星ラファイエットでアトランによって目撃されていた。だが、それも、これほど多数ではなかった。何十万、いや、幾百万の、脈動する繭――。シンプル・マインズのメンバーは、その鼓動に恐怖した。
しかし、いまの彼らを守るものは、ヴィヴォクの壁しかなかった。ギャズカーの包囲網も、大切な繭と幼生を傷つけることを怖れてか、それ以上前進してはこなかった。
灰色の繭……幼生……。それは、何を孵すのか。
そのとき、繭状に固まった幼生がざわざわと蠢きはじめた。まるで、自分のそばに“異物”が存在していることを察知したかのように。そして、トルカンダーの射線がシンプル・マインズを襲う。
テケナーは最後の意志力をふりしぼって、モジュラ・ロボットたちに命令をくだした。
可般式転送機の組立てはまもなく終了した。あとは、通信回線の“窓”が開くまでもちこたえるだけ……。
だが、ギャズカーたちの包囲網はゆっくりと狭まりだしていた。
《リコ》の転送機センターから警報が発された。
転送機が、信号を受信して受け入れ態勢に入ったのだ。
次の瞬間、無数のヴィヴォクと幼生が、エネルギー・アーチから吐き出されてきた。
つづいて、シンプル・マインズのメンバーたちが。
駆けつけたアトランは、その中にテケナーの姿が見えないことに気づいた。スマイラーは、過去いつもそうしてきたように、殿軍を守っているのか?
だが、すぐに転送路の連絡はとだえた。原因は――送信側の転送機が破壊されたこと。
まだ、テケナーを含む数名が取り残されている。……生きているならば。
しかし、アルコン人の希望を打ち砕くように、ステーション各所にしかけられた時限爆弾はカウントダウンを終え、点火された。
かつての銀河系統一のシンボルは、紅蓮の炎に包まれて崩れ落ちていった。
IQ抑制剤で意識が半ば混濁しているとはいえ、ロナルド・テケナーはたやすく断念したりはしなかった。ステーション各所にまだ残っていた案内ロボットを通して、かつてヒューマニドロームがナックの国であったころに使用されていた特殊転送機の所在を知ったスマイラーは、すべてをその一枚のカードに賭けた。
ナックが利用していた転送機――。その行く先は、惑星ロクフォルト以外にない。すなわち、タングル・スキャンの領域へ、よりいっそう深くとびこむことになる。
それでも、とどまれば、待っているのは確実な死。生き残った5名のシンプル・マインズは、意を決して転送機のアーチをくぐった。
彼らが物質化したのは、首都ロクフォルト・テルムの郊外だった。
市街は、予想外に、ひっそりと静まりかえっている。それは、トルカンダーがこの世界を完全に掌握したことを意味していた。
やがて、彼らは街路の一角にヴィヴォクが積み上げられている場所をみつける。
意志をうしなったボンド――ロクフォルトに暮らしていた、銀河系やハンガイの種族の成員たち――は、うつろな目をして、繭の周辺に座りこんでいる。
そして……直立歩行する、軟体動物めいたヒューマノイドが、無数のギャズカー、ニーザー、アラザー、そしてボンドたちにむかって語りかけていた。
エロウンダーだ!
「ヴィヴォクこそすべて! 〈完成〉の時は近い!」
そして、IQ抑制剤の副作用で狭まりつづける視野のなかで、テケナーたちは見た。
――ヴィヴォクが孵ろうとしている!
おなじころ……。
ギルガメシュ中核モジュール《マーリン》では、アルフェ・ロイダンらが、シンプル・マインズによって確保されたヴィヴォクの調査にあたっていた。
まもなく、無数にあるヴィヴォクの大半が“死んで”いることが判明する。科学者たちは、ヴィヴォクが環境の変化に極度に弱いのだと推論した。また、おそらく、幾千万とある繭のほとんどは、無精卵がそうであるように、けっして孵ることのないものなのだ。
テケナーらが、その生命を賭して奪取したサンプルのうち、生命を宿しているのは、わずか5つきりだった。
そして、さらにその2つだけが、急激な活動を開始した。
孵化だ――!
見守る科学チームの眼前で、皮膜がやぶれ、生まれ出た2体の生命――。
それは、蛇を思わせる生物。ニーザーであった。
シンプル・マインズはもはや存在しないといってよかった。
ヴィヴォクの孵化する光景にパニックに陥った誰かが、銃爪をひいたのだ。
あとはもう、混戦だった。
ロナルド・テケナーは、幾人かが倒れるのを見たと思った。
誰かが、IQ抑制剤を投与するセルンを脱ぎ捨て、ヴィヴォクの海へ身を投げるのを見たと思った。
いま、生き残っているのは誰だ?
テケナーには自分がどこへむかっているのかさえ、さだかでなかった。そも、彼はいま、どこにいるのだ?
曇った視野の中に、突然、彼は虎を見た、と思った。
殺意に燃える凶眼がスマイラーの視界を埋めつくし――意識が暗黒へと沈みこんでいった……。
アトランには、テケナーが死んだとは信じられなかった。
だが、ロクフォルトをつつむタングル・スキャンに通信回線の窓が幾度開こうと、スマイラーからの連絡は来なかった。
アルフェ・ロイダンは、残る3つのヴィヴォクに対して、レゾナンスの供給を試みようとしている。すなわち、志願者による“ボンド”の存在が、トルカンダーの繭に共鳴現象を起こすことを期待しているのだろう。
テケナーたちがロクフォルトにいるという確証さえあれば……。アルコン人は、タングル・スキャンに耐性をもつ自分こそ、救助コマンドとして最適であることを理解していた。
何度目かの窓がオープンになったとき、惑星地表からメッセージが届いた。だが、それは待ち望んでいたシンプル・マインズからではなく、ひとりのカルタン人からのものであった。
正確には、カラポン人。かれの名はテン・ノ・タウ。
かつて、ハンガイで最大・最凶とされた宙族組織を率いていた男。
テン・ノ・タウは、ロナルド・テケナーによってハンガイを追われたことを、1日たりと忘れたことはなかった。スマイラーとの決闘に敗れたことで、彼の人生は変わった。
艦隊戦でも、地上戦でも、負けるとはとうてい思わなかった。それほど、彼我の戦力差は大きかった。だが、テケナーの奇計は、カラポン人の思惑をことごとく打ち砕いた。
最後に、一対一の対決となり、彼は敗れた――。テラナーにも重傷を負わせたのだから相撃ちといえなくもないが、結局、そのときの傷が癒るまでのあいだに、彼の宙族組織は根こそぎ検挙されてしまったのだから、敗北というしかあるまい。
カラポン人は後頭部をなでた。そのときの傷は、外見にはわからない。
スマイラーの一撃は、かれの頭蓋を焼いた。脳髄の一部すら損傷していた。転送機で逃げ出せたことすら奇跡といえた。秘密ステーションにいたグラドのつてで、その治療をほどこしたのは、二百の太陽の星からハンガイを訪れていたポスビたちだった。
現在のテン・ノ・タウは、ある意味ポスビであるといってよかった。バイオポン・ブロックが結ぶ要素が、ポスビの場合とは逆であるだけだ。
脳外科手術の後で、テン・ノ・タウの中では何かが変わった。
武力一辺倒の宙族だった過去が、われながら愚かしく思えた。ハンガイにこだわっていたことも、まるで無意味。
彼は活動の舞台を、銀河系へと移した。ポスビによって移植されたチップの効果か、テン・ノ・タウは知謀の人に変貌していた。彼がロクフォルトでのし上がるまで、さほどの時間はかからなかった。
トルカンダーの侵攻に際しては、しかし、彼の新しい側面がアダになった。わずかばかりの好奇心の代償は、ロクフォルトにおける虜囚の生活だった。転送機も使用不能、脱出に使える宇宙船もない。脳のチップがタングル・スキャンに対して、テン・ノ・タウを免疫者としていたが、明瞭な悟性は、かえって絶望的状況を認識させるだけのものだった。
無駄なこととは知りつつ、カラポン人はひそかに市街へと偵察をくりかえした。
そこで、テン・ノ・タウは、いまなお復讐を忘れられぬ宿敵と再会したのだった。
アトランは、テン・ノ・タウが生き残ったコマンドのふたり――テケナーとアグネス・フィゴル――を手中にしていることを知らされた。
彼らは、いわば人質。
タングル・フィールドの中で自由に動けるカラポン人は、行動力のほとんどを失ったテケナーたちをトルカンダーから守るだろう。その代償として、彼はロクフォルトからの救出と、逃走用の宇宙船を求めた。
アルコン人はそれを、周囲のものが驚いたほど、当然の要求として受け入れた。
いまようやく、彼は行動することができるのだ。そして、トルカンダーの脅威の前には、すでに時効でもある前科など何の意味もない。闘えるものすべてが、互いに力を合わせて闘うべきなのだから。
彼はただちに、モジュラ・ロボットの一群をひきつれてマイナー・グローブに乗り込んだ。
テン・ノ・タウは心中、ののしりつづけた。
彼が、スマイラーを、救う?
理性では、それ以外にロクフォルトからの脱出の道がないことはわかっていた。アトランがテケナーを見捨てることはあるまい。そして、アルコン人が一旦なした約束を破ることがないのも確信できた。
納得しないのは、彼の感情。その原因も火を見るよりも明らかだった。
スマイラーには、彼、テン・ノ・タウがわからないのだ!
もうひとりの生存者であるテラナー女性は、薬物の投与で愚鈍化しつつも、カラポン人の言動に対し、なんらかの反応があった。だが、テケナーは……。
時折、濁った目を開いて、ここではないどこかを見ているようだった。そこには、カラポン人は映っていない。彼の宿敵たるテン・ノ・タウが!
いっそ、ここでテケナーを殺してしまいたかった。その皮膚を切り裂いて、活性装置をえぐりとるさまを思い描くだけで、テン・ノ・タウは興奮のあまり身震いした。
しかし、できなかった。生命が惜しいことも、確かにある。
だが、宿敵にそれと認知されぬまま人生を終わることのほうが、さらに耐え難かった。
彼はうつろな目をしたふたりのテラナーをともなって、アトランとの会合点であるキャメロット・ビューローへむかって用心深く進みはじめた。
途上、トルカンダーの警戒網に撃墜されたと思われる球形艦の墜落を目撃したカラポン人は、アルコン人が一刻もためらわなかったことを確信するのだった。
撃墜をよそおって降下したため、アトランとモジュラ・コマンドは、キャメロット・ビューローからはかなり隔たった地点からのスタートを余儀なくされた。
移動に要する距離と時間が長いほど、トルカンダーによる発見の危険度は高まる。
だが、それは同時に、彼らが待ち受けているという“儀式”について探る好機でもあった。
エロウンダーが絶え間なく語りつづけている。
「第二段階がはじまろうとしている。
〈尊者〉たちもまもなく訪れよう。
〈完成〉がわれらのもとでおこなわれんことを!」
第二段階――。
それが何を意味しているのか、アルコン人はすぐにまざまざと見ることになる。
ヴィヴォクが、ふたたび孵化をはじめたのだ。
おなじころ、《マーリン》の実験室でも、アルフェ・ロイダンがヴィヴォクの異変に注目していた。生き残ったヴィヴォクの幼生のうちの、残る3体……そのひとつが、ボンドに反応しはじめたのだ。
レントゲン撮影の結果は、異星生物学者を戦慄させた。
映像はニーザーとはまったく異なる生物を描写していた。
すなわち、ギャズカーを。
そうして、ほぼおなじ時間感覚をおいて、ふたつ目の繭も反応を開始した。
それがアラザーを孵すことは想像に難くなかった。
キャメロットの科学者たちは、自分たちが発想の転換をせまられていることを悟った。
トルカンダー……その名称は、侵略者に対する便宜的なくくりかたにすぎなかった。だが、いま、まったく異なる発生系統に属する種族が、同一の根に発するらしいことがわかったのだ。
彼らはいかにして誕生したのか……?
そして、より急を要する疑問もあった。
最後に残るヴィヴォクは何を孵すのだ?
エロウンダーか、それとも――?
かつてキャメロット・ビューローであった建物に接近したテン・ノ・タウは、まさにその近郊が、ロクフォルトに点在するヴィヴォク集積地のひとつとなっていたことを知る。
いかにしてそこを突破すべきか、カラポン人が思案しているうちに、奇妙なことが起こった。
ヴィヴォクの塊が、さざなみのように動きだした――彼らに向かって!
カラポン人は、IQ抑制剤の過剰投与がスマイラーを昏睡状態に陥れたと推測し、定期的に薬物を投与しつづけるようプログラムされたセルン服を脱がしておいた。
それはテケナーの症状の悪化をくいとめはしたが、同時に、IQ抑制剤の効力が失われるとともに、テラナーをさらに危険な状態へと変えていたのだ。
すなわち、レゾナンス体……ボンドに!
テケナーもアグネス・フィゴルも、もはや、新たな共鳴体をもとめて押し寄せるヴィヴォクに抵抗するだけの意志力はなかった。ただひとり悪戦苦闘するカラポン人を、ギャズカーのパトロールが発見する。
絶体絶命と思われたとき、猛烈なエネルギーの弾幕がトルカンダーの注意をそらした。
アトラン指揮下のモジュラ・コマンドがようやく到着したのだ!
ヴィヴォクの損傷を怖れたギャズカーたちが、奇襲にとまどっているうちに、ロボットたちはヴィヴォクの波からテン・ノ・タウたちを救出し、キャメロット・ビューローへと一気に突破する。
パラトロン・バリアが、彼らとトルカンダー側の増援とのあいだを切り裂くように張りめぐらされた。
じりじりと待ちつづけるアルコン人にとって、時間は流れを止めたかに思えた。
ようやくタングル・フィールドに窓が開かれる瞬間が到来し、転送機が輝くエネルギーのアーチを生みだした。アトラン、意識不明のテケナー、アグネス・フィゴル、そしてテン・ノ・タウは、救いへの扉をくぐった。
――あるいは、それは一時的なものでしかないのかもしれない。アルコン人の脳裏からは、そんな懸念が拭い去れぬままに残った。
エロウンダーの語る“尊者”と、そして謎に満ちた〈完成〉が到来する日には、銀河系のすべてがその業火に焼かれるのかもしれないのだから。