無限架橋 / I 蜂窩の扉
7 第三の柱:ガローン
再び、無限への架け橋――。
ペリー・ローダンとレジナルド・ブル。
宇宙のすべてを周囲に見ながらの、歩み。歩み。歩み。
ふたりのテラナーは、トロカンへとつづく橋の果てへとたどりついた。
またもや乳白色の雲。そして、円蓋柱へ……。
ローダンの足が、何かを蹴飛ばした。
白いもやの中、手探りでテラナーが拾いあげたものは――。
黒い卵。
それは、ふたりが驚嘆して見守るうちにその形を変え……ローダンの右手首を包むブレスレットとなった。
「新たなる橋の往来者よ、歓迎する!」
ローダンは、精神に響く声をたしかに聞いた。
そして、彼の脳裏に円蓋柱を超えた先の世界のありさまが映し出された。そこはトロカン。
テラナーは不思議な感覚を味わっていた。かつてトロカンで円蓋柱に触れたとき、そして無限への架け橋を渡ったときにもおぼえた感覚。これは、彼のもの。彼にさだめられたものなのだ――。
彼は知らない。黒い腕輪……それはトレゴン第四使徒の遺産、パッサンタム!
突然のブリーのうめき声に、ローダンは顔をあげ、ふりかえった。
橋が、揺れていた。たわんでいた。
黒いブレスレットが関係しているのか否かは、さだかではない。しかし、無限への架け橋は、いま始点と終点とを変えたのだ。
対となる円蓋柱を超えた先は、すでにバオリン=ヌダの武器庫ではない。
そして、彼らの前にする柱のむこうも、すでにトロカンではなかった。
フォレモンは、この平面でピルツドームを見張るより以前の記憶を持たない。
彼はトー・ゲテンによって、この惑星に連れてこられた。
ごく稀にピルツドームから現われる客を、ガーロ市街へとつづく昇降機へと案内する。円蓋柱を監視する以外に、資格を持たぬ闖入者を排除することも任務の一部だとフォレモンは考えている。しかし、以前、その事実を知ったトー・ゲテンの悲しげな表情を見て以来、みずからの能力の濫用はひかえている。
こうやって、どれほどの時がすぎたのか、フォレモンは知らない。トレゴンの第二使徒も、トー・ゲテンからケ・リオトンへと代替わりして久しい。
フォレモンは、ふたりの第二使徒から多くのことを学んだ。ピルツドームについて。無限への架け橋と、その結ぶ世界について。そして、使徒たちの持つパッサンタムについて。
物語に登場した、幻想的なあまたの世界をフォレモンが訪れることはあるまい。また、彼はおのが使命に満足していた。
……彼らが、ピルツドームから出現するまでは。
たったいま円蓋柱から出現した異人のひとりは、パッサンタムを身につけていた。
だが、それを帯びる有資格者――すなわちトレゴンの使徒ではなかった。
彼を包むオーラは常ならざるものではあったが、使徒のそれではない。
トレゴンの使徒が望んでパッサンタムを手放すはずがない以上、フォレモンはただひとつの結論にたどりつかざるを得なかった。
この異人が、消息不明のトレゴン第四使徒を殺害した存在である、と。
ふたりの漂着者を待ち受けていたのは、見渡すかぎり玄武岩に覆われた荒野。
円蓋柱以外に、何者かの手になる技術の産物とてない。
不意に頭上に轟く機械音に空を見あげると、親指を半ばで切断したような形の宇宙船が降下体制にあった。
ローダンとブリーは、それが荒野をかこむ絶壁のむこうへと消えるまで見送っていた。
……少なくとも、この惑星には、何かがある。
しかし、なんらの装備も持たない彼らには、そこまでたどりつくことは絶望的に思えた。ここは来るべきところではなかったのだ。
そうして、ふりかえったふたりは言葉を失った。
先刻まで銀色に輝いていたピルツドームが、玄武岩の壁に覆われているではないか!
フォレモンは玄武岩の“中”から異人たちを観察していた。
ローンで見張りを務める長い歳月のあいだに、自分に玄武岩を自在に変形させる能力があることを知った。彼はバサルト・モルファーなのだ。
そして、まず異人たちを足留めするべくはからった。
資格なきものに、無限への架け橋を使わせてはならない。
フェレモンは玄武岩に“命じ”て、円蓋柱を包みこんだ。
これで異人たちは、ピルツドームに触れることができなくなった。
つづいては、罪人たちを罰せねばならない。
周囲の玄武岩が、ふいにその形を変え、せまりはじめた。
ローダンとブルが、その襲撃を回避できたのはまったくの偶然。
ブリーは、そそりたつ玄武岩の牙のすきまから、ひとつの姿を目撃する。
体長1メートルにも満たない、しわくちゃの小人。衣服は身につけておらず、はりだした大きな耳だけが印象に残った。
直感的にブルは悟った。この、むしろひよわに思える存在こそ、彼らに動く岩をけしかけたものだと。その殺意の理由は知らず、玄武岩の台地から逃走しなければ、自分たちの命はない。
絶壁に囲まれた溶岩台地からの、ふたりのテラナーの決死の逃走がはじまった。
幾度目かの襲撃に際して、フォレモンはふたりの罪人を見失った。
玄武岩をあまりに多重に動かしたことが裏目に出たのだ。
しかし、フォレモンはあわてなかった。ガーロへの昇降機はフォレモンがいなければ使えない。とすれば、使徒殺害犯はいつかはピルツドームへと戻ってこざるをえない。だから、かれはそこで待てばよい……。
ピルツドームの守護者の誤算は、逃げる2人がこの世界ガローンに関する情報を何ひとつ持たない事実を知らなかったことだった。
昇降機の存在など夢にも思わぬテラナーたちは、溶岩台地のはずれに繁茂するツタをザイルとして、オーバーハングまである岸壁を登りつつあった。
ふたりを動かしているのは、円蓋柱のそばで目撃した、あの奇妙な形状の宇宙船だった。船は降下態勢にあった。すなわち、絶壁を越えたむこうには、宇宙港かそれに類する施設があるということ。
謎の襲撃者から逃げ、故郷への帰途を見出すには、他に道がなかった。
ようやく岸壁を登りきったふたりの前に、5つに分かたれた都市が広がった。中枢部にあたる区画は、数十メートルの壁によって封鎖されている。
そして……ふたりがたどりついた場所は、酸性雨の降りしきるスラム街であった。
見たこともない種族たちがいた。聞いたことのない言語で話が交わされていた。
ここは、明らかに銀河系でないどころか、いまだかつて人類の手のおよんだことのない宙域なのだ。
ともあれ、この世界では、数知れぬ種族が平和に交流しているらしかった。ローダンらの出現を住人たちは平然と受けいれた。
いっさいの技術装備を持たないふたりには、まったくの初歩からはじめるよりほかはなかった。しかし、活性装置の力で数千年を生き、いくたの種族と交流した経験が幸いした。スラムの住人たちとの辛抱強いコンタクトから、テラナーたちは必要最小限の概念を学んでいく。
この都市――ガーロ。この世界――ガローン。この銀河――プランタグー。複数の種族の共用語――グー・スタンダード。
中には、翻訳の見当はついても、その意味がまったくわからない語もあった。“幸福還元”、“シフティング”、そして“アンドロ守護者”。畏敬をもって語られるそれらの概念が、この都市の存在に大きな意義をもたらしているらしいのだが……。
都市ガーロは、5つの区画に分かれている。
ローダンたちのいる“西の4”を含めて、周辺部の4区画はすべてがスラム。
プランタグーのあらゆる種族がそこにいる。酸性雨のふりそそぐ貧民街に生きるしかない、活力をうしなったものたち。彼らは皆、“央の5”――障壁によって隔離された中心区画から来るロボットたちによって配給される食糧で糊口をしのいでいた。
ふたりのテラナーは、ならず者による襲撃――スラムではしばしば起こる事件だ――から偶然救ったヒューマノイド、セントリファールのA-オスタミュルの知遇を得る。
A-オスタミュルはガーロのセントリファール社会でかなり重要な地位を占める存在だった。彼は、ガーロへの物資を運ぶ貨物船でガローンから去る座席まで提供してくれた。
ローダンは、A-オスタミュルに疑問をぶつける。ガローンには何もない。央の5のアンドロ守護者も、生存可能ぎりぎりの範囲の食糧しか支給しない。それなのに、なぜスラムの人々はここに残ることを望むのか。
A-オスタミュルの応えは、「幸福還元」だった。
「諸君は宇宙船の降下を目撃したと言ったな。
それが幸福還元の訪れならば、はかりしれぬ幸運。
もし、しからずんば……われらはシフティングを恐れる」
そして、彼らは幸運だった。“北の1”での、浮遊ロボットたちによる配給のさまを観察しているとき、それを体験する。
配給をうけるために集まった群集の中で、叫び声があがった。
溶岩台地でローダンたちの目撃した、あの切詰船が都市の上空に出現したのだ。
船は空を滑るように、央の5の上へと降下し……。
何かが、みつめる彼らの中で爆発した。
ブリーは全身総毛立つような感覚の中、“それ”を味わっていた。
彼は満たされていた。飢えは消えていた。何も必要なかった。
あらゆる意味での渇望がかき消すように去っていった。
彼にはすべてがある。だから、これ以上、何も望むことはない。
そしてまた、彼は自分が何ひとつ持たないことを知っていた。だから、誰も彼から奪うことはできないのだ。
彼は幸福だった。
幸せなのではない。彼自身が幸福なのだ……!
……やがて、ゆっくりと現実が帰ってきた。
これが〈幸福還元〉なのだ。これあるがゆえ、人々はスラムにとどまっている。
ふと気づくと、彼らの上空を1台の飛翔プラットフォームが通りすぎるところだった。
グリーンの制服をつけた、青い肌のヒューマノイド。
それがアンドロ守護者であることを、なおも幸福に覆われた意識でテラナーたちは確認した。
アンドロ守護者の護るものとは何か?
ローダンたちはすでに、ガーロにおいてあらゆる機械が動作しないことを聞かされていた。
央の5から来るロボットたちと……ローダンらが腕にはめたアームバンドを除いては。
ガローン人は――それとも、アンドロ守護者は――プランタグーのすべての機器を動作不能とするフィールドでガーロを覆っているのだ。そうまでして守りたいものとは、いったい何なのだろうか。
それを知る機会は、予想外に早く訪れた。
A-オスタミュルの統べるセントリファール一門は、以前、落雷の直撃をうけて墜落したロボットの1体を収容していた。セントリファールは工学関係が苦手らしく、通りいっぺんの調査だけで放置していたらしいそれを、ローダンとブルは修理することに成功したのだ。
もちろん、本来の機能をとりもどすような高度な部分は手付かずだったが、飛翔機能だけで充分だった。
これで、央の5に入れる。
一方、おのが誤りに気づいたフォレモンもまた、ガーロのスラムにあらわれていた。
信じがたいことだが、罪人たちは、あの絶壁を装備なしで登りきったらしい。
そして、この都市の雑踏の中にまぎれこんだ。
永年、ピルツドーム監視の任を果たしてきたフォレモンだが、ガーロを訪れるのは初めてだった。ここは、彼の力の源である玄武岩から切り離されている。そぼ降る酸性雨の雲におおわれた空からは、エネルギー変換をおこなうための陽光もわずかしか得られない。
ガーロでの彼は、脆弱な小人にすぎない。
どうやって、使徒を殺した犯罪者ふたりをさがすべきか、フォレモンが思案していると、1体のタシュ=ター=マンがおそるおそる近づいてきた。
すべての決定権を、強力な個性を有する他者に預ける奇異な種族の存在は知っていたが、直接対面するのはフォレモンにとって、これもやはり初めてだった。
まして、彼に仕えたい、という申し出をうけるとは予想だにしていなかった。
ともあれ、これで捜索を続行できる、とフォレモンは思ったのだ……。
修理したロボットで、央の5の境壁を飛び越える際、レジナルド・ブルは群集の中に、あの熔岩平野の異人の姿を見た、と思った。謎の襲撃者がまさかガーロにまで追ってくるとは思わなかったふたりは、バサルト・モルファーの脅威をあらためて認識するのだった。
中央区画への侵入には成功したテラナーたちだが、当然ながらロボット自動機構に感知され、警報が発される。限られた時間のうちに、ガローン人の、あるいは無限への架け橋の解明につながる手がかりをつかまなければならなかった。
そして、本来の居住エリアと思われる中心部へと突破したふたりが見たものは――。
純白の街。そして、漆黒の道が走っていた。
すべての色彩が奪われたかのような世界。白と黒だけだ。
酸性雨の兆候はなかった。たぶん、上空に反斥フィールドが何かが張られているのだろう。傷ひとつみつからない。
建物のひとつに歩みいったローダンは、不意に頬に潮風を感じて、あたりを見回した。
そこは大海原のただなかだった。
彼は、巨大な帆船に乗って、そこを疾駆していた。
海。風。帆船。
テラナーが一歩後ずさると、すべてが瞬転して、もとのモノクローム世界にもどった。
あるいは、惑星ガローンの過去の映像なのか。それとも、かつての住人が、娯楽として見ていたビデオ映像だろうか。あまりにも強い現実感にふたりはとまどった。それに比して、この街の空虚さは何だろう。まるでゴーストタウンではないか。
スラムでの噂のとおり、たしかにガローン人はこの星を、彼らの故郷を去ったのだ。
……なぜ?
フォレモンは、歯噛みしながら境壁を見上げた。
タシュ=ター=マンは、よい働きをした。同時に複数の対象と会話をこなせるこの種族は、噂話を収集させるにはうってつけの人材だった。半日のうちに、フォレモンの捜す異人が、まずモックスゲルガーのところにあらわれ、次にA-オスタミュルを暴漢から救い、セントリファールのところに身を寄せていることをつきとめたのだ。
――身を寄せていた、だ。フォレモンは修正した。
ペリー・ローダンと名乗る異人が、おそらくはオスタミュルの手配した貨物船でガローンを脱出するつもりだろうと予測して、かれはエネルギーの補給体制に入った。
ところが、2名の罪人は、こともあろうに央の5への侵入をはかったというのだ。
あわてて駆けつけたものの、間に合わなかった。異人たちは、故障したロボットを利用して、都市境壁を越えてしまった。
このまま、さらなる冒涜を許すのか……?
フォレモンは、自分が決断を強いられていることを感じた。トー・ゲテンによってこの世界に運ばれてこのかた、下したことのないほど、苛烈な決断を。
ロボットたちの追跡を逃れるうちに、ローダンとブルは都市の中央部へと追い詰められていった。周到に組み立てられた罠の口がゆっくりと閉じ、包囲されたふたりの前に、ついにアンドロ守護者自身が姿をあらわした。
だが、その対面は、どちらの側にとっても予想外の展開をたどった。
アンドロ守護者が、ローダンの黒いブレスレットをまじまじと見つめ、それから、武器をおろした。
「失礼した。わたしはスズガー、ガーロ市のアンドロ守護者。
あなたがたがケ・リオトンの友であるとは知らなかった。
あなたの腕のパッサンタムがその証」
スズカーの誤解を最大限に利用して、ローダンは渇望していた情報を手に入れようと努めた。だが、大半は空振りに終わった。スズカー自身、自分の使命以外については、ほとんど知らなかったのだ。
ガローン人は種族の故郷を去った。しかし、どこへなのか、スズカーは知らない。
アンドロ守護者はガーロの維持を任務とする。本来のガーロ――央の5の。
スラムの住人たちは、歓迎はされないが、ガローン人は他者を傷つけることを好まない。そのプログラムが、スズカーをして、必要最小限の食糧配給をなさしめているのだ。
また、スズカーは、ピルツドームと、無限への架け橋と、その監視者フォレモンの存在は知っていた。しかし、それ以上はアンドロ守護者の関知するところではなかった。
ローダンたちに助力を与えることのできるものがあるとすれば、それはケ・リオトン。最も高名なガローン人にして、トレゴンの第二使徒だけだ。
だが、第二使徒は数年ないし数十年に一度、前触れもなくガローンを訪れるのみ。連絡をとるすべも、探索の用に供する宇宙船もスズカーは持たない。
スズカーが、何かを探して数刻席をはずしたあいだに、テラナーたちは自分の置かれた絶望的状況から気をまぎらわすために周囲を散策していた。
彼らの目にとまったのは、都市の中央、黒い道の交差する場所にある広場だった。
直径は800メートルもあろうか。
そこかしこに、10~20メートルほどの高さの柱が林立していた。
数百本の材質不明の柱――それはまるで、墓場のようだった。
そして、そのさらに中心には、70メートル径のシャフトが口を開いていた。
まもなく戻ったスズカーは、こう答えるだけだった。
「刻跡の場は、立入りを禁じられている」
アンドロ守護者が持ち帰ったものは、小さな記憶クリスタルだった。
最後にケ・リオトンがガローンを訪れたとき、通信を送った先の座標だという。
トレゴンの第二使徒が現在そこにいるという保証はないが、なんらかの手がかりではあった。
また、クリスタルには同時に、今後プランタグーで活動していくうえで、ローダンたちにとって役に立つ知識がおさめられている、とスズカーは告げた。
アンドロ守護者にとり、異銀河からの来客はめずらしい存在ではないのだ。
いったん央の5を出て、前後策を練ろうとテラナーが口にしかけたとき、大地が揺れた。
太陽――〈ガローン人の星〉と呼ばれる――は、まばゆい光をガーロへとそそいでいる。
それこそが、フォレモンの力となる。
ピルツドームの監視者には、央の5へと入る手段はない。
だが、ガーロそれ自体は人工の山上に建てられた都市である。そして、その山の素材となったのは……玄武岩だ。
ガーロの礎石をモーフィングして、使徒の殺害犯を捕らえる。それで都市がどれほどの被害を被ろうが、いまのフォレモンは気にもとめなかった。あるいは、フォレモン自身、エネルギーが枯渇して、よくて数ヵ月身動きもとれないか、場合によっては……死ぬかもしれない。
それでもよかった。あのふたりを罰することができるなら。
フォレモンは、念をこらした。
大地を突き破って玄武岩が出現する。地震のため、逃げることもままならなかった。
スズカーの言う“刻跡の場”の柱にも倒れるものが出た。
岩は変形し、テラナーたちを捕らえようとする。
フォレモンであることは、すぐにわかった。しかし、対処のしようがない。
そのとき――彼らの上を、影が被った。
あの親指状の船が、また、あらわれたのだ。幸福還元と何らかのかかわりを持つ船。
刻跡の場の柱のあいだにはまりこんでいたブリーは、もどかしげな声を聞いた、と思った。
「われはもう待てぬ……われはもう待てぬのだ……」
テラナーが、あわてて柱のあいだを逃げ出すのを待ちかねたかのように、エネルギーの光条が船から柱のひとつへと伸びる。
そして、すべての動きがとまった。フォレモンのあやつる玄武岩さえも。
身動きすらできない状態で、ローダンらは、光の奔流の中ただよいでる人影を目撃する。
青い肌のヒューマノイド。何も身にまとっていない。
ガローン人だ。
その瞬間、ブルはすべてを理解した。
あのガローン人は、その生を終えるためにやってきた。ここは、まさに墓場なのだ。
いずこかへ去ったガローン人は、死を前にすると故郷へと帰ってくる。自らの存在を分解し、過去生きたすべての同族と融合するのだ。
そして、死の瞬間、おのが人生において得たすべてのポジティヴな体験を宇宙へと還す――。
それこそが
推測を裏付けるかのように、猛烈な多幸感がブリーを襲った。
すべての不安も焦燥も、かれのうちから去っていった。
ガーロにいるすべてのものが、これを味わっているはずだった。
そうして、微動だにしない彼らの上空を、ガローン人の船がゆっくりと遠ざかっていった。
フォレモンは回復まで数日を要した。
その間ガーロには酸性雨がつづき、陽光からのエネルギー吸収が進まなかったのだ。
そして、ふたりの犯罪者にはガーロの雑踏に身をひそめる充分な時間があった。
いま、ガーロ上空には輸送船《キイズ》が浮かんでいる。まちがいなく、ふたりはセントリファールの助けでガローンから逃走するだろう。
フォレモンには、後を追うすべがない。いまはまだ。
彼はスズカーを半ば脅迫することで、輸送手段を確保したのだ。
刻跡の場のシャフトから、1隻の船がせりあがってくる。
無限への架け橋を越えて訪れる、ケ・リオトンのような存在だけが利用する船。
フォレモンはおのが成果を確信していた。
許されぬままにプランタグーを訪れたふたりは、決してそこを去ることはない。
フォレモンが、彼らをみつけだし、殺すからだ。