カリブソの監視者 -過去1-
334巻から、新訳者さん登場である。
英語圏翻訳については、たいへん実績のある方で、SF・ファンタジー・ファンでもご存じの人も多いかと思われる……が……。ごめんなさい。『キルガードの狼』と『ダーウィンの剃刀』しか読んでないやm__m
ま、なにはさておき(ヲヒ
■9p
ハヤカワ版:
切りたった崖の上に立つスコペインの長い髪と腰布を、風がなびかせる。あたりを眺めまわす顔は、誇りに輝いていた。
しばらく息をとめ、唇を結んで、その光景を見つめたあと、大きな雄叫びを上げる。声は風に乗り、やってきた方向に流れていった。
視線をトルグの平原に向ける。原文:
Skopein stand hoch oben auf einem Felsplateau, der Wind zauste sein langes Haupthaar und das Tuch, das er sich um die Lenden Geschlungen hatte. Skopein hatte den Kopf in den Nacken gelegt, Stolz erfüllte ihn.
Eine Zietlang stand er da, mit zusammengekniffenen Lippen und angehaltenem Atem, dann entluden sich all seine Gefühle in einem wilden Schrei, den der Wind von seinem Lippen riß und davontrug, in die Richtung, aus der Skopein gekommen war.
Er senkte den Kopf und blichte hinab in die Ebene von Thorg.
試訳:
切りたった崖の上に立つスコペインの蓬髪と腰布を風がなぶる。うなじにそらしたその顔は、誇りに満たされていた。
しばし息をつめ、引きむすばれた唇から、万感をこめた雄叫びがはなたれた。風にさらわれた声は、やってきた方角へと運ばれていった。
スコペインは頭を下げ、トルグの平原を見おろした。
#空~にむかってがお~。
■11p
ハヤカワ版:
平原はまわりを高い山脈にかこまれ、雪におおわれた白い斜面がそれにつづく。原文:
Hoch über ihm löste sich ein Schneebrett von einem überhängenden Felssturz. Die weiße Masse ballte sich zusammen und geriet auf breiter Fläche ins Rutschen.
試訳:
スコペインの上方、ひさし状に突きだした岩棚から雪塊がこぼれ落ち、雪だるま式にふくれあがって、広い斜面で滑落がはじまった。
#雪山で大声を出すのはやめましょう、ということで……。
ハヤカワ版:
最初に聞こえてきたのは、シーツが風にはためくような音だった。原文:
Zunächste hörte es sich an wie das Flirren vieler Blätter im Wind,
試訳:
最初に聞こえてきたのは、木々の葉が風にそよぐような音だった。
#「自然の声」であるから、そのまま訳せばよいと思われ。
ハヤカワ版:
白い壁が谷に向かって移動していく。原文:
Über ihm bewegte sich eine weße Mauer talwarts.
試訳:
上方から、白い壁が谷をめざして突きすすんでくる。
#直訳としてはまちがっていない。ただ、スコペイン視点を排除してしまうと、緊迫感ゼロである。
■12p
ハヤカワ版:
からだがひっくりかえり、なにかかたいものにぶつかって、感覚がもどった。原文:
Er überschlug sich, prallte gegen etwas Hartes und wurde wieder davongespült.
試訳:
からだがひっくりかえり、なにか固いものにぶつかったかと思うと、またそこから押し流される。
#あれよあれよというまに……という感じ。
ハヤカワ版:
姿勢そのものは、平原に立っていたときと変わらない。原文:
Noch immer lag er in der Haltung da, die er schon oben auf dem Plateau eigenommen hatte.
試訳:
姿勢そのものは、崖の上で伏せたときと変わらない。
#単なる校正ミスだろう。
■13p
ハヤカワ版:
カリブソは(中略)気力が充実している。原文:
Callibso saß … beflügelt. Er hatte wieder zu hoffen gelernt, hachdem Resignation bereits zu seinem ständigen Begleiter geworden war.
試訳:
カリブソは(中略)気力が充実している。すでに諦観が絶えざる道連れとなって久しいが、いままた希望をもつことを学びなおしたのだ。
#削除する必要があるとも思えないが……。
■14p
ハヤカワ版:
空間の“深さ”を操作し、時間の井戸と山脈の位置が正しく重なりあうようにする。
一歩で空間のはざまをまたぎこえ……そこはもう山麓だった。原文:
Er manipulierte in der Raumtiefe, bis er die richtige Faltenordnung zwischen dem Brunnen und den Bergen gefunden hatte.
Dann trat er mit einem Schritte durch zwei Raumfalten – unt stand am Fuß der Berge.
試訳:
“空間深度”を操作し、時間の井戸と山脈が空間の“折り目”同士で重なりあうよう調整する。
“折り目”のはざまを一歩またぎこえると――そこはもう山麓だった。
#誤訳ではない。Raumtiefe、Raumfalte ともにフォルツの造語だろう。後のシリーズで Raumzeitfalte という造語が出てきたときには、“断層”と対比させる意味で“時空褶曲”と訳したが、今回については、後で“折りたたむ”という表現がくりかえされることから、最初の解説時に Falte を“折り目”とか“ひだ”と訳した方が良いように思われる、というだけ。
■15p
ハヤカワ版:
太陽内に存在するのは、理解できなくもないが、雪のなかとはどういうことだ?原文:
Es war nicht ausgeschlossen, daß diese hier von der Sonne ausging, aber die Wahrscheinlichkeit sprach eher fü die Stelle im Schnee.
試訳:
太陽からという線も捨てきれないが、雪中になにかいる方が確率は高そうだ。
#「有機体起源」というのは、この場合、生物起源と同義。
■17p
ハヤカワ版:
単純な文章を構成し、それを口にする。原文:
Er arbeitete die einfache Sprache aus und sagte:
試訳:
単純な言語を把握すると、それを使って、
#前回の登場時、生体翻訳機内蔵、みたいなことを言っている。
以下、余談:
「シーツが風にはためく音」という描写を読んだ瞬間、脳裏にぱーっと広がった情景。
ジュリー:アンドリュースが微笑むその背後の山麓には、なぜか大量の真っ白なシーツが……。
#ごめんなさい >『サウンド・オブ・ミュージック』
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