ドリフェル・ショック ~十二銀河編~
新銀河暦448年2月……。
サバルは、すでに忘れ去られた惑星だった。わずか1年前には人口80万を数えた首都ハゴンに、いまや人の姿とてない。創設者たるクエリオン人によってネットウォーカー組織の解散が宣告されて以来、ほとんどの者がこの地を去っていった。
プシオン網の消滅によって崩壊の危機にさらされた十二銀河の文明の中に、本来の自分たちの帰属する場所を見出して。無用の長物と化したエネルプシ駆動を、在来型メタグラヴ・エンジンに換装し、おのが守るべきもののもとへと……。
いまなお、この世界にふみとどまる、2000人足らずの中に、彼らの姿もあった。
ロワ・ダントン、ロナルド・テケナー、ジェニファー・ティロン、そしてデメテル。
ドリフェルを守護する、という古の使命を果たすすべは存在しなかった。クエリオン人によって与えられた技術の大半が、プシオン網の瓦解後、次々とその機能を失い、いまではドリフェル・カプセルでのコスモヌクレオチド内部への偵察飛行すらできない状態なのだ。
まして、今度の相手はドリフェル自身。サバルから32万光年の距離に位置する“門”を監視するステーションすら、なんら能動的な行動は、なしえない。ただ、ヌクレオチドの活動が刻々と高まっていくのを見守るだけだ。
新銀河暦448年2月26日……。
ロワは、サバルの大気中に奇妙なきらめきを見る。それは、ドリフェルから漏れ出すハイパーエネルギーの一部が、通常時空連続体にもどる際に起こる副次現象。何かが起ろうとしている。彼らの想像を絶した何かが。
翌朝、ドリフェル・ステーションの自動機構が警報を発する。コスモヌクレオチド内部で、かつてない活動の予兆! 4人は《スキュラ》でドリフェルへと急行する。最新式メタグラヴは光速の6300万倍だが、それでもステーションまでの距離をこなすのに、2日が費やされた。
新銀河暦448年2月28日……。
故郷の暦では、もうまもなく日付は変わろうとしている。
ステーションに到着したロワたちは、旧知の存在をみつけた。サバルにおけるローダン家の隣人でもあったネットウォーカー、ドゥアラのオベアーである。彼が前にする探知スクリーンは、はるか彼方のできごとを映し出していた。
直径13万光年の渦状銀河――ハンガイ。いまや、それは完全な姿をスクリーンにあらわしていた。
第四クォーターが到来したのだ。
そのとき、いあわせたすべてのものの脳裏で、ひとつの声が響きわたった。
「警告します、友よ。危険がせまっています。ドリフェルの怒りをやわらげるすべはありません。いまいるところからお逃げなさい。ドリフェルの“門”とのあいだに、光年の隔てをおきなさい。さもなければ、あなたがたの最期です」
誰の声かは、いまは関係なかった。それが真実であることを理解できないものはいなかったのだ。
だが、コスモヌクレオチドの逆襲は想像を絶する早さで訪れた。《スキュラ》がステーションの係留を離れた次の瞬間、まばゆい輝きがあたりを包んだ。それはドリフェルの吐き出すプシオン・エネルギー衝撃波が到達した証。
超空間の混沌は、もはやメタグラヴによる超光速航行を許さなかった。
激しい衝撃が《スキュラ》を揺るがしたとき、ロワはもう一度、ドリフェル・ステーションで警告を叫んだあの声を聞いたと思った。
「善なる力が、あなたがたとともにあらんことを……」
そうして、宇宙が爆発した。
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上記は1996年にrlmdi.から出したタルカン・サイクルの要約集『プロジェクト・メーコラー』に「終幕 ドリフェル・ショック!」として収録した文を一部修正したもの。惑星小説315巻『クエリオン人の決闘』(マール)の序盤にあたる。
本日発売のハヤカワ版700巻後半「夜の神々」では描かれなかった、十二銀河側の様子があったので、次サイクルへの橋渡しとして採用した。
とはいえ、実際のところエスタルトゥ十二銀河がどうなったのかは、さらに次のサイクル(リング人)の終盤になってようやく明らかになるが、それはまた別のお話(おい
《スキュラ》はドリフェルのもたらした“洪水”によって、7億光年かなたのヘルクレス銀河団まで押し流され、デメテルは死亡。ロワは発狂寸前の状態になる。
傍受された「カリュブディス」というハイパー無線をたどり、とある惑星に到達した3名は、現住種族を搾取する悪徳商人を成敗する過程で、クエリオン人キトマに遭遇。現存するクエリオン唯一の肉体(キトマの元の身体)をめぐり、精神集合体を追放されたクエリオン人タヨレーとの対決を援護することになる。
結果的にキトマの身体は守られるが、さらに損傷した《スキュラ》は修復に膨大な時間を要し、帰途には50年以上がかかることを暗示して物語は幕を閉じる。
7億光年はレコードホルダーだろうか。トレゴンの謎を追い放浪する《ソル》の訪れた水印の銀河アキムザバルが銀河系からほぼそのくらいの距離にある。後の、「ヴォイドまで2億2500万光年を飛ぶ壮挙」とか、「コンドル銀河までの2億1200万光年を踏破できる船は《ラス・ツバイ》しかない」とかを見るたび、往時の体験(当初、この距離でも10年余りで帰郷できると見積もった)を思い出して非常にもやもやした気分になる(笑)
そして唐突なキトマの再登場。おそらく上記の警告の声も彼女だろう。
実はキトマさん、この時点で「ある存在の委託をうけて行動しており、ある二人組を○○○○○○まで連れていったり、あるデータを某所へ届けるとかある人物の行方を捜す使命を授けたり」している。超ネタバレなのでここでは書けない(笑)が、「助けてもらって恩知らずと言われそうだけど、お仕事中なのでわたくしはこのへんで~」と、そそくさと去っていくのは実に外道。しかも、その後出てこないしwww
どうにか精神の均衡をとりもどしたロワくん。エンディングで「新しい暦の導入を提案する。今日が元年一日だ。100年目の今日、故郷で乾杯するぞ」と宣言するのだが……。
彼らがいつ、どんな形でローダンらの前にあらわれるのかは、正篇本編でのお楽しみである(まさに外道)。
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