クルト・ラスヴィッツ賞2016年ノミネート作一覧
今年のクルト・ラスヴィッツ賞のノミネート作品が公式サイトで公表された。
投票権を持つのは作家を中心にジャンルのプロ214名。投票期間は5月末まで。授賞式は恒例のエルスターコン期間中、9月17日ライプツィヒでのSFシンポジウムにて。
ノミネート作品は、以下のとおり:
※毎度のことだが、掲載するのは8ジャンル中、長編・短編・海外作品の3つ。
■長編部門 Bester deutschsprachiger SF-Roman:
Andreas Brandhorst / Das Schiff / 船
Robert Corvus / Grauwacht / 薄明の見張り
Dietmar Dath / Venus siegt! / 金星は勝利する!
Matthias Falke / Kampf mit den Tloxi / トロクシとの戦い
Frank W. Haubold / Götterdämmerung-Trilogie / 神々の黄昏・三部作
Frank Hebben / Der Algorithmus des Meeres / 大洋のアルゴリズム
Axel Kruse / Glühsterne / 灼熱の星々
Harald Martenstein & Tom Peuckert / Schwarzes Gold aus Warnemünde
/ ヴァーネミュンデ産・黒いカネ
Phillip P. Peterson / Paradox – Am Abgrund der Ewigkeit
/ パラドックス――永久なる奈落の縁で
Leif Randt / Planet Magnon / 惑星マグノン
アンドレアス・ブラントホルストは1956年生まれ。70年代から80年代にかけては〈テラノーツ〉などヘフト作家として活躍し、15年ほどのブランクを経て発表したSF連作〈カンタキ〉物が大ヒットして、いまや押しも押されぬ人気作家である。ちなみにHeyne版ローダン・ペーパーバック〈レムリア〉にも参加した。
本作『船』は、人類が不死を実現した未来を舞台とする。ただし、超光速航行は実現していない。亜光速のゾンデ以外に星々のかなたへと手をのばす手段は、皮肉なことに不死に不適合なごく少数の人々の、精神を飛翔させる能力に限定されている。彼ら〈マインドトーカー〉は、唯一その高次文明が確認された〈ムリアー〉と呼ばれる種族の遺産を探し求め……その、数百万年にわたり眠り続けた「敵」を発見してしまう……。
やはりローダン作家(主な活躍の場はNEOだが)ロベルト・コーヴスの『薄明の見張り』は自転周期が数十年におよぶ惑星ビソラが舞台となる。この惑星では、太古の約定に基づいて、人類と、両棲類である知的種族サッセクが共存していた。「昼」はサッセクの、人類は「夜」の側をその生存領域として、惑星の周回に合わせて常に移住していくのだ。緩衝地帯である薄明ゾーンは、特殊な能力を有する〈薄明の見張り(グレイウォッチャー)〉と呼ばれる戦士たちによって警護され、種族の入替えを監視されている。
ところが、夜空に正体不明の青い光が灯ったときから、「夜」の側の面積が縮小しはじめたのだ。〈見張り〉のひとりレモンは、その妻ナタとともに、謎の究明のため薄明ゾーンの都市へと赴くが……。
マティアス・ファルケの『トロクシとの戦い』は、《マルキ・ド・ラプラス》を母船とする調査船《エンテュメシス》が中心となるエンテュメシス・シリーズの新三部作の1巻目。ちなみにそのトロクシ三部作は今月完結してるはず。
しかし、シリーズ1巻(『廃墟の惑星』)は、惑星調査中に事故で連絡が途絶した惑星学者救助にむかうところからはじまるみたいなのに、こっちの帝国が崩壊し、銀河政治の主導権を握った〈ユニオン〉と、それをこころよく思わない他の種族の暗躍やら、星系の独立騒動やら……やけにデカイ話になっているな(笑) こんな中で、一介の調査船がどんな活躍をするのやら。
#ちなみに母船は破壊でもされたか、いつのまにか《マルキ・ド・ラプラスIII》になっている。
東ドイツ生まれの2人の作家による共著『ヴァーネミュンデ産・黒いカネ』の“黒いカネ”とは原油のこと。1989年・秋――バルト海沿岸で膨大な埋蔵量の油田が発見され、東ドイツは息をふきかえした。のみならず、いまや世界有数の富める国へと転換を遂げたのだ。しかし、石油が東ドイツにもたらしたのは、富だけではなかった……。
SED書記長エゴン・クレンツと並び実権を握る石油相に元シュタージ長官マルクス・ヴォルフが、経済産業相にカール・テオドール・グッテンベルク(“現実”ではメルケル内閣で経済科学技術相・防衛相を歴任)が就任するなど、色々とブラックユーモアに満ちている、らしい。AからFにランク分けされた社会等、ディストピア要素もあるみたい。
この手のIF、日本の架空戦記ものみたいに、もはやひとつのジャンルだよなあ。
■短編部門 Beste deutschsprachige SF-Erzählung:
Kilian Braun / Überwachung dringend empfohlen / 喫緊に監視を推奨
Christian Endres / Out of Memory / アウト・オブ・メモリー
Uwe Hermann / Versuchsreihe 13 / テストナンバー13
Karsten Kruschel / Was geschieht dem Licht am Ende des Tunnels?
/ トンネルの終点で光に何が生じるか?
Michael Marrak / Das Lied der Wind-Auguren / 風卜の歌
Jacqueline Montemurri / Sonnenmondfinsternisstern / 日月蝕星
Uwe Post / Cyber Space Pirates Yo-Ho! / サイバースペース・パイレーツだよほほい!
Gard Spirlin / Robowrite / ロボライト
SF専門のウェブジンNovaや、わりと頻繁にSF短編を載せるらしい(?)コンピューター雑誌C’t等への掲載が目立つ。まあ「日月蝕星」みたいに、アンソロジー収録作品もあるのだが。
ウーヴェ・ポストは相変わらずタイトルがスバラシイ(笑)ので、是非読んでみたいものだ。
■海外作品部門 Bestes ausländisches Werk zur SF:
Lauren Beukes / Moxyland / Moxyland / モキシーランド
Monica Byrne / Die Brücke / The Girl in the Road / ガール・イン・ザ・ロード
Peter F. Hamilton / Der Abgrund jenseits der Träume / The Abyss Beyond Dreams
/ 夢のかなたの深淵
Ann Leckie / Die Maschinen / Ancillary Justice / 叛逆航路
China Miéville / Das Gleismeer / Railsea / 軌条の海
Claire North / Die vielen Leben des Harry August
/ The First Fifteen Lives of Harry August / ハリー・オーガストの最初の十五生
Emily St. John Mandel / Das Licht der letzten Tage / Station Eleven
/ ステーション・イレブン
Neal Stephenson / Amalthea / Seveneves / 7つのイヴ
Michael J. Sullivan / Zeitfuge / Hollow World / ホロウ・ワールド
Jeff VanderMeer / Southern Reach Trilogie / Southern Reach Trilogy
/ サザーン・リーチ三部作
Jo Walton / Der Tag der Lerche / Ha’penny / 暗殺のハムレット――ファージング2
アン・レッキーの『叛逆航路』は、ヒューゴー、ネビュラ、ローカスのトリプル・クラウン他、BSFAやらクラーク賞やら英米7冠と邦訳でも宣伝されているので、ご存じの方も多かろう。……ごめんなさい、まだ読んでないです(^^;;;
ニール・スティーヴンスンは『スノウ・クラッシュ』や『クリプトノミコン』の作家さんか。3部に分かれる構成の第1部が「7つのイブ(The Seven Eves)」なわけだが……タイトル自体は、回文だよねこれ。
ヴァンダミアのサザーン・リーチ三部作は、すでに邦訳刊行済みなのは、最近どっかで書いたような気がする。
ジョー・ウォルトンのファージング三部作も、同じく創元から刊行済だった。ん、これもオルタネート・ワールドものか。
『ドローンランド』や〈時間旅行者の系譜〉2巻やら、読んだ作品もあれば、カイ・マイヤーの『魔人の地』みたいに、あちらのベストセラー作家の本が出て読みたいってのもあるのだが。
いまいち、こう、文章起こしきるまでいかないのよね最近……。
■公式サイト:Kurt Laßwitz Preis
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