ドイツSF大賞2016ノミネート作一覧
ドイツSFクラブ(SFCD)が運営する公式サイトで、ドイツSF大賞2016年度のノミネート作品が発表された。対象は、ドイツ語圏において2015年に初版が出版されたもの。授賞式は8月13日のSFCD年次総会において行なわれる。今年はオルデンブルクでのメディコン・ワン。
近年、e-ブックというか、オンライン自費出版等も増えており、上記規約の「出版」……「(紙に)印刷された形(in gedruckter Form )」という部分がどこまで妥当なのか、掲示板等ではわりと白熱していたようだが、なにぶん線引きが難しい事案である。とりあえず変更なしだったみたい。
ノミネート作品は以下のとおり:
■長編部門 Bester deutschsprachiger Roman:
Dirk van den Boom / Meran / メラン
Andreas Brandhorst / Das Schiff / 船
Dirk C. Fleck / Feuer am Fuß / 足元に火がついた
Frank W. Haubold / Das Licht von Duino / ドゥイーノの光
Phillip P. Peterson / Paradox / パラドックス
ディルク・ファン・デン・ボームの『メラン』は、銀河機構(die Galaktische Akte)の領事官カシミール・ダックセルとその随員ジョセフィーヌ・ザント(元海兵隊員)のコンビが主役のシリーズ3作目(『エオバル』『ハビタットC』に次ぐ)。今回の舞台は、徹底した男尊女卑の爬虫類系種族の、Kalifatというから一種の宗教国家の首星メラン。ダックセルは、殺人容疑で逮捕された旧知の女性を弁護することに……。
1966年生まれのこの作家、〈レン・ダーク〉や〈救命艇イカロス〉など複数のヘフト・シリーズに参加しており、レパートリーは実に幅広い。先年ノミネートされた『皇帝の戦士たち』のような歴史改竄ものがあり、D9E《第9次拡張》は原案のひとりでもある。ラスヴィッツ賞にもノミネートされた『触手の影』以降はオリジナル長編も精力的に発表しており、スキイル・シリーズや上述の長編にはじまる一連の〈触手〉シリーズ(エイリアン“触手”は植物である)は、どちらも異種族支配からの脱却をめざすミリタリーSFの秀作とされ……と、ここまで書いてきて、思った。“逆境”好きなんか……?w
#ちなみに本職(?)の政治学者としての著作も、けっこーある。
フレック『足元に火がついた』は、『タヒチ計画』・『南海のウィルス』につづくメーヴァ三部作最終巻。前作から13年がすぎた西暦2035年。環境破壊の果てに瓦解したグローバル社会。国家の凋落、閉鎖的社会にはびこる全体主義……。この“エコ黙示録”的世界を救う方策は、希望はまだ存在するのだろうか――。
94年にドイツSF大賞を受賞した作品も『いけ! エコ独裁者(GO! Die Ökodiktatur)』。エコロジーが変わらぬ主張なのだろうか。
ハウボルト『ドゥイーノの光』は、三部作全体でラスヴィッツ賞候補に挙がっている〈神々の黄昏〉の最終巻。
壮大なスペースオペラ、とのことだが、Amazonの紹介文を読むかぎりファンタジーと区別がつかない(笑) 登場人物の名前にオーストリアの詩人リルケとか、ドアーズのヴォーカリスト、ジム・モリソンの名前とかあるんだけど、同名異人? クローン再生やら模造人格? 文中にある「リターナー」って冥府からの帰還者なの? それとも主人公たちの船《ヘーメラー》は時代超えてるの? ……わりとおもしろそうであるw
#タイトルのドゥイーノは詩人リルケゆかりのイタリアの地名。
■短篇部門 Beste deutschsprachige Kurzgeschichte:
Gabriele Behrend / Tremolo / トレモロ (Nova23号収録)
Frank Böhmert / Operation Gnadenakt / 免罪符計画 (phantastisch!57号収録)
Uwe Hermann / Der heilige Wasserabsperrhahn / 聖なる防水栓 (『未達経費消化職』Das Amt für versäumte Ausgaben 収録)
Boris Koch / Ein glücklicherer Ort / もっとしあわせなところ (Exodus33号収録)
Frank Lauenroth / Diese verdammten Alienzombieroboterviecher / この糞エイリアンゾンビロボ畜生ども (『磁界都市』Die Magnetische Stadt 収録)
Guido Seifert / Le Roi est mort, vive le Roi! / 国王崩御、国王万歳! (Nova23号収録)
Norbert Stöbe / Shamané / シャーマン (Nova23号収録)
Christian Weis / Der Zwillingsfaktor / 双子要因 (Exodus33号収録)
Nova23号はテーマが「音楽」とのこと。
ウーヴェ・ヘルマンの短編集からの「聖なる防水栓」は、Amazonの紹介文を見た限りでは、宇宙船の墜落(たぶん全損)事故を、乗っていた植民者全員が、1個の防水栓のおかげで生き延びた顛末――みたい(笑)
■ドイツSF大賞公式サイト:www.dsfp.de
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