時間超越 -6-
幾名かからコメやメールをいただいて、ちょっぴりガソリン補給♪ 「時間超越」ツッコミ・コーナー第……何回だ(笑) もう11回目か。
さて、アラスカが未知の惑星ですっぽんぽんの異人を発見した頃、表向きは無事帰還にともなうお祭りムードな《ソル》の司令室では――
■207p
ハヤカワ版:
乗員が格納庫に帰還して“家”にもどるさまを、司令室からつぶさに観察できるのだ。
原文:
Von seinem Platz in der Zentrale der SOL aus konnte er beobachten, wie die Besatzungsmitglieder die Hangers verließen und in ihre Unterkünfte an Bord zurückkehren.
試訳:司令室にいながらにして、乗員たちがハンガーを出てそれぞれの居住区へもどるさまを観察できた。
最近はハンガーはそのまま「格納庫」って訳してたっけ? まあその方がわかりやすいよね。
Unterkunft は「宿、宿泊所」だから、《ソル》生まれのいう Heimat 「故郷、家」に対する、テラ生まれにとっての《ソル》(にある部屋)――仮の宿、でしょう。
さて、次はちょっと長い:
ハヤカワ版:
この“グループ”の役割は、ローダン自身も正確には把握していなかったのだが、今回の“強制疎開”で、いくらか明らかになったような気がした。
たとえば、ジョスカン・ヘルムートに代表される、この船で生をうけた人々は、地球よりこの船にアイデンティティを感じている。この事実は衝撃的であった。
ヘルムートのような人間が、たとえば一惑星を救うために戦うだろうか……?
このサイバネティカーは、《ソル》を守るためなら、進んでわが身を犠牲にするだろう。だが、地球のためには、どうか……?
地球……それが神話の舞台になるときがきたとしたら、その“真の意味”を知るのは、ひとつかみの細胞活性装置保持者だけになるかもしれない。
逆にいうと、人類は大宇宙の広大無辺さに気づき、その一部になっていくのだろう。
そのヴィジョンは圧倒的だったが、ペリーは目前の問題に集中することにした。
原文:
Niemals zuvor war Rhodan sich der Rolle dieser Gruppe so bewußt geworden, wie in dieser Augenblick. Als er gezwungen war, diese Menschen aus der SOL zu evekuieren, war er sich nicht darüber im klaren gewesen, was dieser Befehl für si bedeutete hatte.
Das Verhalten der SOL-Geborenen bei der Rückkehr ließ ihn sich selbst die Frage stellen, ob es überhaupt möglich war, diese Menschen auf einem Planeten auzusiedeln.
Joscan Hellmut und alle anderen, deren Leben an Bord dieses Schiffes begonnen hatte, würden sich nicht einmal auf der Erde wohl fühlen. Dieser Gedanke war bestürzend.
Rhodan überlegte, ob Menschen wie Hellmut mit überzeugung für die Rettung eines Planeten kämpfen konnten.
Wahrscheinlich hätte Hellmut sein Leben geopfert, um die SOL zu erhalten. Was aber hätte dieser Mann für die Erde getan?
Die Erde – würde sie zu einem Mytohs werden, der letztlich nur noch für eine Handvoll Zellaktivatorträger eine reale Bedeutung hatte?
Die Menschheit begann sich in den Weiten des Kosmos zu verlieren, sie hört auf, eine Einheit zu sein.
Diese Vorstellung war beklemmend, aber Rhodan durfte sich nicht vor ihr verschließen.
試訳:
この瞬間ほど、この集団の役割をローダンが痛感したことは、かつてなかった。《ソル》から疎開するよう強制的に命じたときには、それがかれらにとり、いかなる意味をもつか理解できていなかったのだ。
帰還に際しての《ソル》生まれたちのふるまいは、ローダンをして、かれらが惑星に安住できるかを疑わせるに足るものだった。
ジョスカン・ヘルムートをはじめとする、この船に生をうけたものたちは、地球ですら心安らぐことはあるまい。この考えは衝撃的だった。
ヘルムートのような人間が、信念をもって一惑星を救うため戦えるだろうか?
おそらくヘルムートは、《ソル》を守るためなら生命すら投げだすだろう。だが、地球のためにはどうだ?
地球――それはやがて、ひとにぎりの細胞活性装置所持者にしか現実的意味をもたぬ、神話となってしまうのだろうか?
人類は広大無辺の宇宙でおのれを見失い、ひとつのものではなくなりつつある。
その想像は胸をしめつけるものであったが、目をつぶるわけにはいかなかった。
えーと……すべては、後のテラナーとソラナーの訣別、《ソル》委譲への伏線ですじょ?
強制疎開から、不安にさいなまれる《ソル》生まれたちと、かれらの“凱旋”風景を見て、ローダンはかれらがもはや、地球人たりえないことを実感した、というエピソードだ。なんでいきなり、ちょっといい話になってるの(笑)
最後のくだりは、直訳すると、「人類は宇宙の広大さのなかに失われはじめた、統一された存在であることをやめるのだ。そう想像すると胸がしめつけられるが、ローダンは(その想像の前に)自らに鍵をかけてはいけなかった。」くらいになる。テラナーと《ソル》生まれと、その両方に責任を負う身としては、今後どうなるか、どうするべきかを考えなければならない、ということである。
ああ、もう。翻訳ソフトか斜め読みか知らないけどさ、どこかポイントかは理解してほしいわ。超訳なんて、それから後の話でしょう。
■208p
ハヤカワ版:
「計算システムは完全に機能しています!」ワリンジャーの声が響く。「ブラックホールの影響は、完全に払拭されました。セネカも安全を宣言しています」
原文:
“Der Rechenverbund arbeitet wieder einwandfrei!” Waringers Stimme riß Rhodan aus den Gedanken. “Die Störung war auf den Einfluß des Black Holes zurückzuführen. Jedenfalls gab SENECA das als Grund an.”
試訳:
「合同計算脳、完全に機能回復しています!」ワリンジャーの声が、ローダンを物思いからひきもどした。「障害はブラックホールの影響に帰因するものだったようです。少なくとも、セネカはそう主張しています」
え? 闇スペに協力? なにそれぼくわかんなーい、である(笑)
ハヤカワ版:
ですが、これまでに帰還していないとなると……」
原文:
Da dieses längst erloschen ist, werden wir Saedelaere nicht wiedersehen.”
試訳:
それが消滅してしまったいまとなっては、見込みはありません」
ワリンジャー、わりと外道……というか、マッドサイエンティストらしく、歯に衣着せぬ物言いである。最初はちょっとやわらかめだったが、最後にバッサリだ(笑)
ハヤカワ版:
「われわれは故郷銀河への飛行をつづけなければなりません」
原文:
“Wir können den Flug in die Heimatgalaxis fortsetzen.”
試訳:
「故郷銀河への飛行を再開できますが」
まあ、内心は「はよせい」なんだろけどw でも、継続すること自体は規定事項だよね。
ハヤカワ版:
「ですが、アラスカがもどる可能性は、ほとんどありません!」
原文:
“Sie glauben doch nicht im Ernst, daß Alaska noch einmal auftauchen könnte!”
試訳:
「アラスカがひょっこりあらわれるなどと、まさか本気で信じてはいないでしょう!」
可能性はほとんどないつーか。もはや誰も信じていないのだ。ま、やむなしだが、わりとひどいな(笑)
ハヤカワ版:
《ソル》のもと船長は譲らない。「ですから、もどる方法も自分で開拓するでしょう」
原文:
erinnerte der ehemalige Chef der SOL. “Abgesehan davon, daß sich niemand vorstellen kann, wie er zurückkehren sollte, wird er nicht den Wunsch dazu haben.”
試訳:
もと太陽系情報局長官が指摘する。「どうすればもどれるか誰にもわからないことを抜きにしても、そもそもそのつもりがないでしょう」
電子化の時点の入力ミスか、あるいは元々の誤植か不明だが、デイトンが《ソル》の船長であった事実はない。太陽系秘密情報局の略称 SolAb の誤りであることは明白。
後半、直訳は「そうする(帰還する)望みをもたないだろう」、文意自体は、「好きで行ったんだから、そもそももどっちゃこないでしょ」だ。ほとんど流れ者を好きになった娘への忠告である。
■209p
ハヤカワ版:
「きみの考えは痛いほどわかる」と、ローダンはほほえみ、「当然、われわれの総意として、可及的すみやかに故郷銀河へもどろうとしているわけだ。それが《ソル》の最終目標なのだから。
原文:
“Ich weß, daß Sie alle ungeduldig sind”, sagte Rhodan verständnisvoll. “Sie können mir glauben, daß ich selbst so schnell wie möglich in die Heimatgalaxis zurückkehren möchte. Das ist schließlich unser Ziel.
試訳:
「諸君のいらだちはわかる」と、ローダンは理解をしめして、「信じてもらっていいが、可及的すみやかに故郷銀河へ帰りたいことでは、わたしは人後に落ちない。それがわれわれの目標でもある。
俺だってとっとと帰りたいけどさあ、である。人間味のあることをアピールする指導者、ペリー・ローダン(笑) さらに人情のあることも(ry
最後の文章は、「つまるところ、それがわれわれの目標だ」となるが、わたしの目標=みんなの目標、と言いたそうなので、全体的にちょっと意訳である。
ハヤカワ版:
デイトンはかぶりを振ったが、
原文:
Deighton sah ihn finster an,
試訳:
デイトンは不満そうだが、
finster は、こないだ「闇」云々でとりあげたが……あれ? ああっ、闇スペがらみで、ドイツ語の「闇」の種類についてのネタだけまとめて、記事にしてねぇえええっ?!(木亥火暴)
と、とにかく、この場合は「暗い(不平ありげな)顔でローダンを見たが」なにも言わなかった、のだ。
……。
わりと短い章なのだが、かなりの部分がマーカーで真っ赤だったのはご理解いただけたと思う。原文のせいな箇所もあるにはあるが……
次章から、ようやく今回の本編(をひ)である、アラスカとカリブソのからみのシーンである。うーん、少し時間かかりそうなので、期待しないで待ってておくんなまし。
ディスカッション
コメント一覧
お初にお目にかかります。
一連の記事を見ていると、我々日本の読者はどうやら別の作品を読まされていたようですね。
私がローダンを読んでたのは、島の王からM87サイクル辺りまでなので、もうずっと以前の事なのですが、当時から話の展開や登場人物の言動が唐突に感じ、読んでいて状況のイメージが頭に描けなくて疲れる事が多くあったと覚えています。もしかすると、さまざまな誤訳や「超訳」のせいだったのかもしれません。
こうなってくると、他の翻訳ものも、実は全然違う話を読まされているのかもと思えてきました。
X^2さま、はじめまして。
別に、ローダンがずっとこうだったわけではありません。以前どこかで書きましたが、亡くなった松谷先生の訳で50巻「超種族アコン」等を照らし合わせたときには、ほんと、勉強になりました。
また、わたし個人は超訳には否定的です。しかし、おなじ作品の超訳と普通の訳で、売上に歴然とした差が出た例もあると聞き及びます。商業的には、ひとつの選択肢なのはまちがいないでしょう。
ただ、このブログでとりあげている事例は、正直、どこぞで商標登録されている「超訳」とは、おなじレベルで語っちゃいけないものだと思います……たぶん(笑)
ネットで検索すると、小説の誤訳、映画字幕翻訳の誤り等、とりあげたサイトは案外たくさんあるものです。怒りの声も多々あります。しかし、ほんとうに真摯に訳されている翻訳者のかたもおられれば、実にすばらしい翻訳も多いのです。
このブログがしていることは、あくまで「局地的」な対処療法であることは、誤解のなきよう、よろしくお願いいたします。